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壊れた妹と見えない束縛  作者: ケイト


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満月姉弟


 

 夕方のスーパーでのバイトは最近レジ打ちをさせて貰えていない。

別に金を貰っているのだから文句は無いが、希望としてはレジ打ちをしたい。

何度か店長にそれっぽくお願いしてみたんだが、客として来ていた恋歌とレジでいろいろあったあの事件の事を引き合いに出されて、俺は何も言う事が出来なかった。

折角働くなら、やはり自分の望む仕事がしたいなぁとか考えつつ、俺は今惣菜コーナーで揚げたてと言うには時間が経ちすぎているから揚げやカツを揚げたてコーナーに並べている。

 

「これ揚げたてじゃないって言われて訴えられたら負けるんじゃねぇのか?」

 

 店長は揚げたてって言葉には何時間以内とかの決まりは無いし、うちの揚げたてはこれなんだよ!

とか店の中でしか通らない発言をしているし……本当にこれでいいのか?

でも恋歌はよくこの微妙にあたたかくてシナシナの衣のコロッケをよく買っていくし……もしかして、本当に美味いのか?

 

 自分のバイト先ながら、ここの惣菜を食べた記憶がそこまで無いし……帰りに半額とかになってたら買ってみてもいいかな。


「ねぇちゃん、今日はから揚げ食いたい」

 

「ばーか、今日もお肌と健康に最適な野菜炒めに決まりだっての、から揚げの値段見てみなよ、高すぎっしょ」

 

「育ち盛りの男子高校生はから揚げを燃料にして動いてんだよ、俺にはから揚げが必要なんだって!」

 

「どんな燃料よ、それを言うなら華の女子高生のあーしは美肌と健康とスタイルの維持が燃料なんだから我慢して」

 

 客がから揚げのコーナーに立っている。

男はから揚げの入ったプラスチックのパックを持ち、隣にいる姉らしき人に……って!

あ、アイツ……!

 

「ケチ、そんなんだから振られんだよ」

 

「それ関係ないっしょ、嫌な話すんな」

 

「料理上手で成績優秀、さらにスポーツもできる彼氏に釣り合う為に手料理を必死に練習してた頃はよかったなぁ……あの頃の序盤はともかく、後半はとにかく美味いもん食えてたし」

 

「よし、お前は今日塩茹でもやしにもやしご飯にもやしのみの味噌汁で決定な」

 

「やっべ……ねぇちゃんごめん! 俺が悪かったよ、な? だから機嫌直してくれって!」

 

 満月さんだ。

それに隣にいるのは……あの時、妹を変な目で見ていた男じゃん。

え、何この姉弟。

二人揃って俺の敵なの?

いやそれは今問題じゃない。

満月さんが料理の練習をしていたとは知らなかった。

確かに付き合っていた頃は何度か手料理を振る舞ったが、それを食べた満月さんは美味しいと認めつつも。

 

『あーしは料理とかだるすぎてやんねーわ、いい夫になってくれそうじゃん』

 

 とか言ってたから、てっきり興味無いのかと思ってたけど……。

 

「つーかあーしが悪い訳じゃねぇっての! それに」

 

「ねぇちゃん声デカいって! ほら店員さんも見て……あ」

 

 やっべ、弟君と目合っちゃったよ。

咄嗟に目を逸らしたけど……これバレてるよな。

そもそもネームプレートの"妹迫"って所だけでバレてそうだし。

 

「話そらすな! あの男は確かに今思えばちょっとカッコよくて頭のいいだけのクソ男だった、あーしはほぼ被害者だかんね!」

 

 俺がクソ男ならお前は何だ、クソアマ、ぶっとばすぞ。

学校なら殴ってただろうが、今は職場だ、我慢我慢。

さっさと残りを並べて裏に戻ろう。

 

「あー……でもほら、ねぇちゃんを大切にはしてたじゃん、去年のバレンタインとかねぇちゃん以外からのチョコは"彼女のチョコ以外はいらない"とか言ってチキンなねぇちゃんが渡しに来るまで教室で待ってたんだろ?」

 

 やめて下さい。

弟君、いや弟様。

どうか俺を過去の恥ずかしい記憶で攻撃するのはやめてください。

いや確かに言いましたよ、彼女のチョコ以外はいらないって言ってました、それは認めます。

そこだけならまだよかった。

だけど教室で待ってたのは貰えてないのに帰れないって変なプライドから来た意地みたいなもんなんです。

周囲に彼女から貰えるんだと言っておきながら渡されず、まだかまだかと待っていただけなんですぅ!

 

「ちょ……あ、あの時はほら、あーしもチョコとか作ったの初めてだったし、友チョコ以外を渡すのも初めてでどうすればいいのか分かんなかっただけだから! チキンとかじゃない! あと、あーしには分かんだけど、アイツが教室で待ってたのは"彼女が手作りのチョコをくれるんだよね"とか言ってたから渡しにくくて、タイミングをはかってたら放課後になってて、そんで周囲の目もあって帰りにくくなってただけだっての!」

 

 お前はエスパーか?

どうしてその推測能力を妹の状態を察する事に使えないんだよ。

 

「あーしの事を髪を染めているからといって不良と決めつけるのは良くないって庇ってくれたりとか、勉強教えてくれたり、弁当まで作ってきやがって、それにあーしの友達の前でも可愛い俺の彼女だとか言ってきて迷惑だったっての! あれでどれだけあーしがからかわれたかわかってんでしょ!」

 

「まぁ……耳まで真っ赤にして枕に顔埋めて"うがー"とかいいながらゴロゴロしてたから分かるけど……てかこの話やめない? 店の人に迷惑だって」

 

 お前は俺なのか?

俺はそこまで精神が強いわけでも、図太い訳でもない。

ただ周囲に俺の彼女だぞとアピールしないと取られるかもしれないって恐怖があって、細い精神をどうにか奮い立たせて学校で可愛いとか言っていただけだ。

家で発言した事を思い出して枕に顔を埋めてゴロゴロと暴れて。

 

『またですか兄さん、独占欲の強い男は嫌われますよ、あといちいち俺の彼女とか言うのはしつこいです、気持ち悪いです』

 

 どこから聞いたのか分からないが、学校で俺がした失言について妹から小言を貰ってさらに転げ回ってた。

懐かしさを感じるよりも、あの時の俺を殺したいって感情と誰かいますぐ俺を殺してくれと、消えてしまいたいって感情でいっぱいになってます。

弟君、いじめないで下さい。

 

「……ハァ、帰ったら説教続けるかんね」

 

 満月さんは買い物カゴを持ちつつ、くるっと振り返った。

付き合っていた頃と変わらない、何と表現していいのか、シルバーのチェーンやトゲトゲのついた服にリサイクルショップに持ち込んでも買い取ってもらえなさそうなぐらいボロボロのジーンズ。

歩く事を考えられていない厚底のブーツを普段使いしているのも変わってない。

そんな彼女は。

 

「騒がしくしてすいま……ハァ!?」

 

 俺を見て、さらに騒がしくなった。


「ちょ……シスコン野郎! てめぇ何でここにいんだよ」

 

「何でって、バイトだよ、服みりゃわかんだろ」

 

「ここお前のバイト先かよ! 知ってたら来なかったのに……」

 

 赤色の爪をガジガジと噛みつつ、満月さんは俺を睨んでる。


「え、でもこのスーパーに行こうって言ったのねぇちゃんじゃ」

「特売だから来ただけだっての! あんたは黙ってろ!」

 

 弟君の頭に綺麗すぎるげんこつが決まった。

アレ痛いんだよなぁ……俺も何度か食らったけど、次の日まで痛かったもん。

 

「まって、ねぇシスコン、さっきのあーしらの話って……聞いてないよね」

 

「……客の話を盗み聞きする程落ちぶれてねぇよ」

 

「どうだか……おい愚弟、お前さっき店員が見てるとか言ってその後口ごもったよな? あの時からコイツここにいたの?」

 

 弟君!

俺の目を見るんだ。

絶対に本当の事を言ってはいけない!

痛いのは分かる、涙が出るのも分かる!

だって俺も殴られたから、気持ちは痛い程分かる!

だけど今は、今だけは俺の目をみてくれ、その目をひらいて、空気を読んでくれ!

 

「うわ怖……じゃない、えっと、あの時は別のおばちゃんだった! ねぇちゃんの彼氏さんは後から交代で来たんだよ!」

 

「そっか、ふーん、へぇ、あーしの姿を見て近寄ってきたの? もう恋人じゃないのにそれはキモいんですけどぉ?」

 

 ナイスだ弟君!

明日学校でお礼に行くからな!

そんな俺の感謝が伝わったのか、弟君はコクリと頷いた。

だけどそんなにビクビクしなくてもいいじゃないか。

確かにさっきはめちゃくちゃ睨んだかもしれないけど……。

 

「無視してんじゃねぇよこの……シスコンクソ男ぉ!」

 



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