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壊れた妹と見えない束縛  作者: ケイト


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新たな目標


 

 「……って事があって、どうすればいいのか分からないんです」

 

 翌朝、俺はいつもより三十分近く早めに出勤した。

理由は勿論、冬月さんとお喋り……じゃなくて彼女に相談をする為だ。

眠そうな、ダルそうな顔をしながらタバコをくわえる姿はいつ見ても絵になるな、一枚ぐらい写真を撮ってスマホの待ち受けにしたい。

勿論そんな事をすれば嫌われてしまうだろうし、写真を撮らせてくれと言う勇気も無いので、目にしっかり焼き付けるだけにとどめている。

 

「あのさー、私に相談されてもどうしようも無い事ってあるのは分かってる? お前の問題ならアドバイスのしようもあるけど、妹の友達の話って……知らんわそんなん」

 

「で、ですよね……」

 

 冬月さんはスマホを見たまま、こちらを見ずに知らんと答える。

少しがっかりしたが、言われてみれば普通の答えだろう。

俺を挟んで妹の話をするのならともかく、その友達の話なのだから、彼女が困るのは必然的だ。

だけど、答えようのない質問をぶつけられている事に対し、適当な返事をせずに真摯に受け止めて答えられないと答える彼女はとても……素敵だ。

 

「そーゆーのはお前の彼女に相談しろっての」

 

「彼女っていつの話してるんですか? もう別れてますよ」

 

「あれ、そうだっけ? いつ別れた?」

 

「事件の後すぐです、妹が……」

 

『彼女の所に行かないで下さい、連絡も取らないで下さい、別れて下さい……私が代わりに彼女になりますから……だから、どうか一人にしないで下さいッ! 兄さんが居ないと私は……私は』

 

 事件の後、妹は学校に通えない程弱っていた。

精神的にも俺に今以上に依存していて、俺の心が自分から彼女に移る事を酷く恐れていた。

当時、満月さんにこの事を相談しようとしたが、妹は事件の事を彼女に話すのは止めてくれと、もう連絡するなと泣きながら俺に縋ってきて……。

 

「それで別れたの? 彼女さんにはなんて言って別れたのさ」

 

「えーっと……実はですね」

 

 満月さんと別れる際、最後の言葉を送ったのは俺じゃなくて、妹だった。

アイツが俺のスマホを貸すように言って、俺はそれに従うと、妹は満月さんに向けたメッセージを打ち、送信したんだ。

 

『お前より大切な人ができた』

 

 送信した後の妹はとても満足そうで、俺に向って大好きだとか、兄妹だけど愛してるとか、今までの態度について謝ったりしていたんだが、当時の俺は満月さんに対する罪悪感でいっぱいで、抱きつかれながら囁かれた妹の愛の言葉の全てを覚えていない。

満月さんには悪い事をした、だけどそれ以上に妹を守れなかったと言う感情と、妹が俺を責めていた時期でもあったので、逆らう事は許されなかったんだ。


「……お前そりゃ恨み買うぞ」

 

「もう買ってますよ」

 

「だろうね、刺されて無いだけマシだと思いな」

 

 冬月さんの刺すような目線が俺に向けられる。

ジトッとしているような目線を浴びた事はあるが、この目線は初めてだ。

背筋がゾクッとして、目覚めてはいけない何かが俺の内側で動き出そうとしている。

 

「刺すって……大袈裟ですよ」

 

「案外マジかもよ? 女ってお前が考えてるより怖い生き物だし、お前の考えてるより執念深くて嫉妬深いんだからさ」

 

 嫉妬する冬月さんか。

……つまり。

 

『お前、今他の女見てただろ』

 

『いやほら、あの子普通に可愛いなって思って』

 

『私以外の女を見るって浮気だって前に教えたよな? 分かってんのか?』

 

 とか言われて壁ドンされたり、嫉妬と少し怒りの混じった目線を俺に向けてくれたりするんだろうか。

ふむ、悪くない。

いや、むしろ歓迎する。

嫉妬深い冬月さんバンザイ!

 

「嫉妬深いの……アリ、ですね」

 

「うわ……変わってんね、お前」

 

 心の声が漏れ出るのを抑えきれず、口から出た言葉は冬月さんの耳に届き、そしてさっきまでの表情とは違う新たな表情を見せてくれる。

昔の俺は女の子らしい、優しくて笑顔の可愛い人が好きだった。

だが今や、冬月さんのようなカッコいい女性が好きになってしまった。

妹が元に戻ったら、俺は真っ先に冬月さんに告白する。

そしていつか冬月さんを俺だけの物に……いや、流石にキモいな。

 

「とりあえず元彼女の話はいいや、とりあえずほら、配達行ってきて」

 

「もうそんなに……わかりました、冬月さんの分も行ってきます」

 

 自分でもキモいと思ってしまう妄想を広げていたが、冬月さんに言われてスマホを見ると、既に仕事の時間になっていた。

クソッ、冬月さんと話していると光の速さで時間が経過しやがる。

お金を払ってでもお喋りしてたいのに……金が無いッ!

行ったこと無いけれど、キャバクラとかに通う男共はこんな気持ちなんだろうか、だとしたら俺は一生行かないほうが良さそうだ、確実に破産する。

 

「それじゃ、行ってきます」

 

 いつも通り、カゴを自転車にくくりつけていると。

 

「いつも悪いね、ありがと」

 

 そう言って、俺を見送ってくれた。

それにしても……冬月さんと話していると本当に心が落ち着く。

いやドキドキしたりゾクゾクしたり忙しいんだけど、普段の辛い現実が見え隠れしない。

現実逃避だと言われるかもしれないが、俺にとっては唯一の癒しの時間なのだから……俺を罰している神か悪魔か知らない存在よ、どうか許してくれ。


「とりあえず今日恋歌ちゃんに約束とやらを聞いて……いや答えてくれないだろうし、どうすっかな」

 

 最悪、妹と恋歌の約束の内容が分からなくてもいい。

目標は……二人をもう一度仲良くする事だ。

妹にとっても、俺にとっても恋歌は大切な人だし、はっきり言って俺一人で妹を支えきれる自信も無い。

つまりこれは俺の為だ、やるぞ、俺!

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