妹の待つ布団
恋歌と夜遅くに会ってくだらない話をしながら帰る。
それが新たな日常になりつつあるが、最近になって彼女の言っていた言葉の違和感に気づく事ができた。
そう、その違和感の正体は……。
「兄さん……その、今日もカッコいいです! あ、これはゆうかちゃんのマネしてるだけですよ!? こ、こんな感じでしたよね?」
俺やゆうかの前じゃ自分を偽らずにいられると言っていたが、やっている事は真逆な事だ。
今の彼女は、この時間の彼女は恋歌としてではなく、妹を演じている。
それは自分を偽る事に他ならない物なのに、何故こんな事をしているのだろうか。
言われた時は聞けなかったけど、今なら……!
「恋歌ちゃん、何故ゆうかのマネをしてるんだ? 自分は自分であってゆうかじゃないと言ったのは君だ、自分を偽らずにいられると言ったのも君だ、だけど今真逆の事をしてるだろ」
俺がここまで直接言うと思っていなかったのか、恋歌は目を丸くして驚いている。
そして一歩退いてから、俯いてしまった。
「でもお兄さんはいいって言ってくれたじゃないですか」
「言ったけどさ、気になったんだよ、恋歌ちゃんらしくないって思ったし何より」
「僕だって好きでこんな事してる訳じゃありませんよ!」
俺の言葉を遮るような声で、恋歌は言う。
静かな帰り道の中で、彼女の声に反応して犬が吠え始め、気の所為だろうけど煌びやかな星々が暗い雲に隠れていくような、冷たい空気に変わっていく。
「ゆうかちゃんの状況は分かってます、今のゆうかちゃんにはお兄さんが必要だと理解しています! でも、それでも……約束を無かった事にされて、僕のやりたかった事をゆうかちゃんがやっている、見せつけられている今の状況に耐えられないんです!」
必死な表情の彼女だが、言っている事がよく分からない。
今はゆうかの話ではなく、恋歌の話をしていたのに何故ここでそんな話が出てくるのかまったく分からない。
だがそれを言い出せる空気では無いと、まとわりつく冷気が俺に教えてくれている。
「ごめんなさい、僕は……もうどうしたらいいのか分からないんです、ゆうかちゃんは親友だし力になってあげたい、でも今のゆうかちゃんを許す事が出来ない、だけどゆうかちゃんのおかげで進んだ事もあるんです」
「落ち着いてくれ、えーっと、とにかく分かるように一から説明してくれない?」
よくわからない事を言いながら、恋歌は泣き出してしまった。
だが妹を許す事が出来ないってのは……どういう事だろうか。
喧嘩でもしたのか?
もしそうなら間違いなく妹が悪い。
協力してくれる恋歌に変な事はするなと言っているのに、まったく……。
結局家に帰るまで、恋歌はずっと無言だった。
彼女を見送った後、俺は家に帰ってからすぐに妹が何をやらかしたのかを調べる為、彼女の部屋に来ている。
ニコニコと俺に抱きつく妹は、お気に入りだと言うピンクが基調のパジャマを着ていて、それには大きな一匹のウサギが描かれている。
そんな彼女は俺の顔を見てから両手を頭の上にもってきて。
「妹ウサギです! 寂しいと死んでしまうので一緒に寝ましょう!」
小学生でもやらなさそうなウサギを演じている。
可愛いけども、子供っぽい。
そんな妹に対して、俺は恋歌の話を始めた。
「お前恋歌ちゃんと喧嘩しただろ、ちゃんと謝るなら一緒に寝てやる」
「ほぇ? 恋歌と喧嘩ですか? うーん……いつもの小競り合いが喧嘩と言うなら覚えはありますけど、それ以外となるとまったく身に覚えがありません」
「でも恋歌ちゃんはお前を許す事が出来ないって言ってたぞ、あと約束を破られたとも言ってたんだが、本当に覚えてないか?」
妹は少し黙った後、すぐに布団に入ってしまった。
俺が布団を引き剥がそうとしても、両手でしっかりと布団を握っていてはがす事が出来ない。
「おまっ! まだお兄ちゃんが話している途中でしょうが!」
「この件で兄さんに話す事は何一つありません! 乙女の秘密ですよ!」
「うるせぇ! さっさと恋歌ちゃんにごめんなさいしてこい!」
「だって! 兄さんを取られたくありません!」
「意味の分からない事言ってないで、とにかく布団から出てきなさい!」
「はい今全裸になりました! これ以上布団から出そうとすると全裸の妹を押し倒す構図になりますよ、そのまま責任とらせますよ!? 孕みますよ!?」
こ、コイツなんて卑怯な手を……。
別に妹の裸なんざ見慣れてるけど、ここで布団をはげば俺は妹の裸見たさもしくはそれ以上の事をしようと襲いかかった構図になっちまう。
まぁこの歳で妹の裸を見慣れてるってのも異常だが、そんな事になったらもっとおかしくなってしまうのは確実ッ!
「卑怯だぞ!」
「兄さんはデリカシーがなさすぎです! 女の子が秘密と言ったら秘密なんですよ、知りたければなんとなく察して下さい」
「無理だから言ってんだろ!」
「なら裸の妹が待つ布団に裸で飛び込むしかありません!」
「そんな事できる訳ねぇだろバカ!」
察すると言われても難しい。
そもそも恋歌が妹と何を約束していたのかを察するって、どうやるんだよ。
恋歌に聞けって事か?
あ、いやでも察しろって事だから雰囲気でなんとなく理解しろって事?
とりあえず明日の朝恋歌が来たタイミングで……いや、妹が居ない時のがいいか。
「なんで出来ないんですか?」
「いや、どう考えてもおかしいだろ」
「兄妹で一つの布団で眠るだけですよ? なのに何故出来ないんですか? ちょっとお互いに裸なだけですし、特に問題は無いです」
「そこが問題なんだろうが、普通の兄妹ならそんな事はしないっての」
「……成る程、つまり兄さんは私を異性として見ているので、そんな状況になったら色々とヤバいって言いたいんですよね、わかります」
……アホらし、部屋帰ろ。
「ついに認めましたね、散々家族だからとか異性として見れないとか言っておきながら、とうとう自分の中のオスが私をメスとして認めてしまいましたね、ふっふっふ、いつまで我慢できるか見ものですね!」
音を立てないようにそっと妹の部屋を出てから、俺は自室に戻って部屋の鍵を閉めた。
ったく、アイツには呆れるよ。
「さぁ! 布団の先には兄さんの望むメスがいますよ! 諦めて早く来て下さい! ……あの、ちょっと息苦しくなってきましたので、早く来てくれると助かります」
部屋の壁が薄いせいで隣の部屋のバカが言っている言葉が全て聞こえてくる。
まだやってんのかよ、この様子なら今晩は一人で寝ても大丈夫だろうし、寝るか。
勿論一人で、別の部屋で、何も勘違いを生むことのないように寝るぞ。
「兄さーん! あれ……いない!?」
隣でバタバタ煩く騒ぐ音を立てているのを聞いてから、俺は翌日の事を考えながら眠った。
とりあえず、明日から恋歌の反応や妹の態度とかを注意深く見て……あ、冬月さんにも相談しないと……。




