第6話 中編
カイが帰ってきたときは、少し顔をこわばらせてて、でも目だけはずっと冴えてた。
あの頃の彼は、もう“戦う”ってことの意味を、ほんとうに考えはじめてたんだと思う。
人を傷つけること、守ること、そのどっちもが並んでる場所に、彼はいたんだ。
* * *
森を抜けた風が、枝のあいだから鋭く吹きつけてくる。
冷たい空気が耳に刺さって、ほっぺたをかすめて、白い息をさらってった。
ザシャの声が、ぴんと張った林の空気に、低く響いた。
「痕跡は、間違いないな。……野盗だ」
しゃがみこんだ彼の目の前には、重なり合った足跡。
踏みならされた土に、雑な歩幅。重いものを引きずった跡まである。
「素人の足だな。……獣じゃねえ」
カイが唾をのむ。盾を握った手のひらが、革をきゅっと鳴らす。
「どれくらい前だと思う?」
「今朝か、昨夜ってとこだ。火は使ってねえが、間違いなく近い」
タリスとザシャのやり取りは、すぐそばで交わされてるはずなのに、どこか遠くの出来事みたいだった。
まるで夢の中で誰かが話してるように、音だけが薄く響いて、意味はあとから遅れてついてくる感じだった。
霧が薄く流れてて、木々の間は冷えきったまま。
霜の残る下草を踏む音だけが、やけに耳に残ってた。
「引き返すぞ」
ザシャは短く告げると、背を向けて歩き出した。
その背中を追いながら、カイもまた、緊張の余韻を引きずったまま森をあとにした。
村に戻るまで、誰も言葉を発さなかった。
* * *
村に戻った頃には、もう空が夕焼け色に染まってた。
西の山に日が隠れるのは早い。特にこの季節は、午後のうちに陽がすっと落ちて、村全体が薄暗くなる。
畑の柵も、道沿いの小屋も、長くて濃い影を引いてた。
「……ただの流れ者ならいいが、越冬する気なら厄介だな」
焚き火の前で、ザシャが腕を組んでつぶやいた。
まわりの村人たち、自警団の面々も、それにうなずく。
「見張りは今まで通り、二人一組で交代。子どもは外れに近づけるな」 「合図の笛も確認な。三つ鳴らしたら集合、二つで危険、ひとつで援護」 「了解」
指示は短く、でも村の人たちはてきぱき動いてた。
戦いに慣れてるってわけじゃないけど、“守ること”に迷いはなかった。
その輪の外で、カイは黙って話を聞いてた。
今朝までは、訓練と現実の境目があいまいだった。けど今は、何かが変わってた。
「……カイ」
ザシャが声をかけてきた。
「矢の訓練をする。明日の朝だ。準備しておけ」
唐突で、でもその声に迷いはなかった。カイはちょっとだけ驚いた顔をして、それでも、うなずいた。
* * *
翌朝、まだ霜が残る広場に、一本の厚い木板が立てかけられてた。
その陰に、カイはじっと身をひそめるように立ってた。
「そこから矢が飛んでくる。目で追え。盾は構えなくていい。見るだけだ」
そう言って、ザシャは二十歩ほど前に出て、短弓を構えた。
……その瞬間、空気がぴんと張り詰めた。
ザシャが矢をつがえた“気配”が、カイの背筋をぞわっと走った。
弦が鳴って、空気が切れる音。
カツン、と木板に突き刺さる乾いた音。
カイの前髪が風でふわっと揺れた。
「……速い」
「お前が死ぬ速さだ」
二本目の矢が飛ぶ。今度は、かすかに見えた。
三本目、四本目――目が慣れてくるにつれて、矢が生きものみたいに見えてきた。
ザシャは、無言で淡々と矢を放ち続ける。
カイは、それを全部、まばたきもせずに見つめてた。
矢が飛ぶ前に、ザシャの肩がふっと揺れる。
息が止まる。弦が引き絞られる音。空気が、ほんの少しだけ動く。
……それに気づけるようになってきた。
「次。盾を構えろ。弾くんじゃない。受けるだけでいい」
カイは深く息を吸って、左腕に盾を持ち上げた。
次の矢が飛んでくる。盾に、軽く“トン”と響く。
二発、三発。弾かれた矢が地面にコロコロと転がる。
「今は刃を潰した矢だ。だが、間違えば命はない。……もう一発。長弓だ」
ザシャが持ち替えた弓は、さっきのとは全然違ってた。
太くて、重くて、長い。
矢が放たれた瞬間、空気そのものが“ぐらっ”と震えた気がした。
矢は、地面に――ぐっさり。柄の根元まで、めり込んでた。
「……あの深さまで刺さる?」
「手で突いても、あそこまでは入らねえ。……これが、本物の威力だ」
カイは唾を飲み込んだ。
もしあれが、自分を狙ってたら。……想像だけで、足がすくんだ。
その日の訓練が終わっても、カイはしばらく焚き火の前から離れられなかった。
火を見つめる目の奥には、昼間の矢の重みが、まだ焼きついてた。
「盾で受けて、生き延びる」
その言葉の重さが、今さらになって、じわじわと体に染みてきた。
そこへ、ザシャが近づいてきた。
手には、革紐でくくられた小さな布袋。中で何かが、ころん、と硬い音を立ててた。
「次は、これだ」
ザシャが布袋を開くと、丸い石が二つ、太めの革紐でぎゅっと結ばれてた。
ぱっと見たかぎり、どう見ても“武器”って感じじゃなかった。ちょっと遊び道具っぽいくらい。
「……これ、ボーラ?」
「獣を狩る道具だ。けど、人にも使える」
そう言って、ザシャは片端をつかむと、くるくると頭の上で回しはじめた。
風を裂く音が、ひゅん、ひゅん、と空気を裂く。
そして――すっと放たれた。
石の重さが引き合って、空中でらせんを描きながら飛んでいく。
次の瞬間、杭の根元にピタリと絡まりついて、動きを止めた。
「うわ……すげえ……!」
カイの目が、ぱぁっと輝いた。けどザシャは、ぴしゃりと返す。
「なぁにが“すげえ”だ。これはな、“殺さずに倒す”ための術だ。……お前みたいに、殺せねえやつにはちょうどいい」
ちょっと皮肉交じり。でも、その言い方には、ほんの少しだけ優しさがあった。
「使ってみろ。だが忘れるなよ。外せば、相手は逃げるか、斬りかかってくる。……投げたあとが、本番だ」
「はいっ!」
カイはボーラを受け取って、何度もくるくると振ってみた。
肩にかかる重み、腕のしなり、ぐるっと円を描く回転の感覚。なんかもう、“武器”ってより、“飛ばす技術”そのものだった。
「片方を握って回せ。回転がぶれたら、飛び方もぶれるぞ」
「……これ、ちゃんと当てるの、むずかしいっすね」
「だから訓練するんだよ。まずは、杭に三回当てるまで寝るな」
「え、マジすか!?」
「マジだ」
日が落ちて、空気がいよいよ冷たくなってきた頃。
カイは、三度目の“命中”をようやく見届けた。
杭の根元に絡まった革紐を見下ろして、ほーっと長い息を吐く。
その背後で、焚き火の向こうからザシャの声が聞こえた。
「お前、投げ物は案外、筋がいいな。あの矢も目で追ってたろ。……たぶん、剣より向いてるぞ」
「それ、褒めてます?」
「ああ、褒めてるさ。兵士ってのはな、“殺す技術”がすべてじゃねえ。
“どう倒すか”を知ってるやつが、生き延びるんだ。倒され方も知ってるってことだからな」
* * *
翌朝。山はまるで、白く息を呑んだみたいに静かだった。
夜明けといっしょに出発した一行は、雪がまだ残る斜面をぎゅっ、ぎゅっと踏みしめながら、慎重に進んでった。
獣道を外して、見晴らしのいい尾根を選ぶ。
野盗の動きなんて読めないし、どこに拠点があるのかも、まだ分かっちゃいない。だからまずは、見張りを見つけて情報を取る──それが作戦だった。
「いた」
先頭のザシャが、手を挙げて合図する。
茂みの影に、一人の男。腰に短弓、手には干し肉。
警戒心も薄くて、木にもたれて、くちゃくちゃ咀嚼してた。
「一人だな。見張りだ。……やるか?」
ザシャが低く問う。
カイは、うん、とだけうなずいた。
雪に足をとられないように、腰を落としながら、そっとボーラを取り出す。
昨日、何十回も振った感覚が、肩にちゃんと残ってた。
片方の石を握って、ゆっくりと頭上に円を描く。
そのとき、空気がピンと張り詰めたような気がした。
タイミングを見計らって──投げた。
螺旋を描いて飛んだボーラが、男の足もとに絡みつく。
声を上げるより早く、重みでバランスを崩した男が、背中から雪の中にどさっと倒れた。
「今だ、俺がいく」
ザシャがぴょんと飛び出す。
男が体を起こすより早く、その喉元にナイフがつきつけられてた。
「一人だったな。合図もしちゃいない。……縄、寄越せ」
カイは急いで縄を取り出して、ザシャに渡す。
息は少しだけ上がってたけど、手はちゃんと動いてた。
拘束はあっという間。
男は文句を言うヒマもなく、木にくくられて、口を布でふさがれた。
──と思った、そのときだった。
もう一人。気配があった。
「ザシャ、右!」
カイの叫びと、空を切る音が、ほぼ同時だった。
矢が、音もなく飛んでくる。
カイは、とっさに盾をかざして前に飛び出した。
“ガン”と、乾いた音。
短弓の矢が、盾に当たって斜めにそれた。
でも、次の瞬間──背後から、短い叫び声。
盾で弾いた矢が、同行してた若い猟師の脚をかすめてた。
「くそっ、伏せろ!」
ザシャが怒鳴って、もう一人の野盗に飛びかかる。
雪を蹴って、転がるように組み合って、すぐに刃が突き立った。
……あたりが、静まりかえった。
カイは、盾を構えたまま、動けずにいた。
倒れた猟師は血こそ見えてなかったけど、矢が当たったのは確かだった。
自分が弾いた矢で仲間が傷ついた──その事実に、カイは呼吸するのも忘れてた。
カイの手から、盾が落ちた。
気づいたときには、息が荒くて、肩が震えてた。
刺さったわけじゃない。傷も浅い。でも、血の気が引いてく感じが、じわじわと来てた。
「……俺のせいだ。俺が、あの矢を──」
ぽつりと漏れた声に、ザシャが近づいてくる。
その手はさっきまで人を斬ってたとは思えないくらい、落ち着いてた。
「矢を受けたのはお前じゃない。けどな、俺が怪我をしていないのも、お前が矢を弾いたからだ」
カイは顔を上げる。でも──
ザシャは、首を振った。
「勘違いすんな。……今のは、たまたま運がよかっただけだ」
その声は、静かで、でも鋭くて。怒ってるわけじゃないのに、胸に突き刺さるようだった。
「盾から跳ねた矢の先に仲間がいたら、それだけで死人が出ることもある。今回は軽傷で済んだ。それがどれだけ幸運か、分かるか?」
カイは、何も言えなかった。
「いいか、カイ。戦いってのはな、“倒すこと”より“失わないこと”のほうが、ずっと難しいんだ」
ザシャの目が、まっすぐにカイを射抜いていた。
「お前は、よくやった。だが、それだけじゃ足りない。……だから、もう一度、学び直せ」
カイは、深くうなずいた。
「……捕まえただけだったのに、撃ってきたんだな」
ぽつりと漏れたその言葉は、言い訳じゃなくて、ただただ心からの疑問だった。
「だったらもう、遠慮する必要はねえよな」
ザシャが静かに言った。その声に怒りはない。
ただ、切り捨てる覚悟みたいなものが、にじんでた。
「情けをかけるには、こっちが死なないって保証がいる。そんなもん、どこにもねえんだよ」
カイは、拳をぎゅっと握った。
これが、現実なんだって思った。
ザシャが、その背中を見届けるように、軽く肩を叩いた。
「今日はこれで引き上げる。傷の手当てと報告が先だ。……山にこもる連中なら、まだ時間はある」
* * *
捕虜は、村の外れの小屋に縛られていた。見張りがひとり、焚き火のそばに立っている。
カイがそっと中に入ると、男は座ったまま目を伏せていた。
「……まだ、話す気はねえか?」
カイの声に、男はちらっと視線を上げた。
「……何を聞いても、たいしたことは言えねえよ」
その声には、あきらめとも疲れともつかない色が混ざっていた。
カイはしばらく黙ってたけど、やがてゆっくりと問いかけた。
「お前たち……もともと、戦い慣れてたわけじゃないんだろ?」
「……ああ」
男はぽつりと言った。
「俺たち、秋に村の収穫が足りなかったんだ。越冬は無理だって、みんな分かってた」
「口には出さなかったけど……年寄りや子どもは、先に配って、俺たち若いのは自分で何とかしろって空気だった」
カイは目を伏せる。
「出てきたんだな、自分たちで」
「そうだよ。誰かに命じられたわけじゃねえ。出なきゃ村がまるごと終わっちまうって空気だった。
でもな、手ぶらで帰っても意味がねえ。村の飯を食うだけで、今度は自分たちが責められる。……そうなったら、誰かが人を殺す」
男は、唇を噛んだ。
「だから、補給を襲った。別の村の荷を。
最初は、交渉するつもりだったんだ。手を挙げて、物を分けてくれって言って……でも、通じなかった。向こうは驚いて、剣を抜いた」
「戦うしかなくなったんだな」
「そっからだよ。俺たちの手に剣が渡ったのは。
もともとは鎌とか鉈だったんだよ。だけど、その補給にあったんだ、武器が。弓も、矢も」
カイは黙って聞いていた。
「気づいたら、もう“野盗”って呼ばれる側になってた。
俺たちの中にも、開き直ったやつがいた。
けど、ほとんどは……ただ、どうしたらよかったか、分からなかっただけなんだ」
「……じゃあ、村を襲うのも、仕方なかったって思ってるのか?」
男はうつむいた。
「思ってねえよ。思ってねえけど……生きなきゃならなかった」
そのとき、背後で扉が開いた音がした。ザシャが入ってくる。
「もうひとり、捕まえてあってな」
男が顔を上げる。
「別の場所で縛ってる。お前と、そいつ。どっちが正しいこと言ったかで、生きる方を決めるつもりだ」
ザシャの言葉に、男はかすかに肩を震わせた。
「……信じても、いいのか」
「いや、信じなくていい。ただ、喋っておけ」
男はしばらく唇をかんでから、短くうなずいた。
「……谷を越えた窪地に、俺たちを含めて三十人ちょっと。火は使ってねえ。交代で見張り立てて、雪穴で眠ってる。動き出すなら、明日か、明後日か……そのくらいだ」
ザシャは、じっとその顔を見て、ふっと鼻を鳴らした。
「語れる余裕のあるやつは、まだまともってこった」
そして、小屋を出る前に、ぼそっと言い残した。
「でもな、そいつらが明日には刃を向けてくる。……情けをかけるにゃ、こっちが死なないって保証がいる。それがねえんだ」
焚き火のまわりに戻ると、タリスたちがすでに戻ってきていた。
「三人、仕留めた。一人は逃げたかもしれない」
その報告に、ザシャは短くうなずいた。
「残り二十五。明日は、命のやりとりになる。誰かが死ぬ」
ユリアの記録には、こう記されていた。
“その夜、焚き火を囲んでいた者たちは、誰ひとり席を立たなかった。
……けれど、ひとりだけ、輪のすぐ外で火を見つめていた人がいた”
カイは、焚き火のすぐそばで、肩を落として座っていた。
炎の明かりがちらちらと揺れてて、風が少し、枝を鳴らしてた。
「……あれ、こんなとこにいたんだ」
ユリアが、焚き木を抱えてやってきた。
小枝を束ねて、ちょっとぎこちなく、でも大事そうに腕にかかえてる。
「“お兄ちゃんなら、どうしたかな……”って顔してた」
「……うん。いや、まあ、ちょっとだけな」
「きっと、お兄ちゃんなら、いちばん大事なものを決めて、それを守るために他のこともなんとかしようとして……でも、全部は無理で、最後に泣いちゃうと思う」
カイは、ふっと笑った。
「泣くかよ、あいつが」
「泣くよ。……でも、逃げなかったと思う」
焚き火がぱちぱち鳴った。
乾いた枝が焼ける匂いが、夜の空気に混じって、すうっと広がった。
その匂いに包まれるように、ユリアがぽつりと話し出す。
「カイが、剣の訓練を始めたばっかりの頃の話、覚えてる? ……すっごく寒い朝だった。冬の始まりでさ、息が白くなってて」
その声は、火のぬくもりみたいに、やさしくてあったかかった。
「朝早くからカイが一人で素振りしてて……見てるこっちまで凍えるくらいだったの。
それ見たライナお兄ちゃんが、“ユリア、焚き木探しに行こう”って」
ユリアは、ちょっとだけ笑った。焚き火の明かりが頬を赤く照らしてる。
「ふたりで森に行って、枯れ枝いっぱい集めて……でもね、うまく戻れなくなっちゃって。ちょっと迷子」
「……お前らしいな」
カイがぼそっとつぶやく。けど、ユリアは気にせず話をつづけた。
「ライナお兄ちゃん、最初は平気そうだったけど……だんだん黙って、うつむいて、最後には泣きそうな顔してて」
「寒かったんじゃねぇの?」
「違うよ。帰り道見つけたとき、聞いたの。“なんで泣きそうだったの?”って」
ユリアは、火の粉をそっとよけながら、ちいさく言った。
「“カイが寒がってると思って”……って」
ふたりの間に、しばらく沈黙が落ちた。焚き火の音だけが、やけに大きく響いてた。
「“カイには内緒にしろよ”って言われたんだけど……もう、時効だよね」
カイは何も言わずに、小さな枝を一本、火にくべた。
炎がふわっと揺れて、ふたりの顔を赤く染めた。
「……バカだよな、ふたりとも」
その声には、苦笑とぬくもりが、まざってた。
「なぁ、ユリア。俺が譲れねぇのはさ……お前を守って、……ライナに謝ることだ」
ユリアは少しだけ眉をひそめた。
「……なにを?」
カイは焚き火を見つめたまま、小さくかぶりを振った。
「まだ、ちゃんとは言えねぇ。……でも、あいつに、謝らなきゃいけねぇんだ」
ユリアは、それ以上は聞かずに、そっと微笑んだ。
焚き木を抱えたまま、火のそばにしゃがみこんで、優しく言った。
「……それなら、大丈夫だね」
ぱちりと、焚き火が小さく爆ぜた。
火の向こうで、ユリアがちいさく笑った。
“あのときの彼の顔を、私は今も忘れられない。
笑っていたのに、すこし泣きそうで、すこし誇らしげだった”
* * *
──あの日、誰かが言ってた。 “命を奪うためじゃなくて、守るために武器を持つんだ”って。
でも実際には、守ることと奪うことは、いつも紙一重で。
迷ってるうちに、誰かが傷つく。動けなかったことを悔やんで、夜の焚き火で泣きそうになることもある。
けど私は、あの夜の彼の言葉を信じてる。
“譲れないもの”があるって言った彼の、あの目を。
だからこの物語を、こうして記している。彼が何を選び、どんなふうに生きようとしたのか。それを、残すために
――第6話 中編 『譲れないもの』




