第2章:ノイズの向こうに《Scene 1:目覚めた瞳》
病室の空気は、時間が止まったように静かだった。
点滴の脈拍音が規則的に響き、白いカーテンがわずかに揺れる。
ベッドに横たわる佐倉由梨のまぶたが、ゆっくりと震えた。
その瞬間、隣の椅子でうたた寝していた悠斗の意識が鋭く立ち上がる。
「……由梨?」
目が、開いた。焦点が合わない。けれど、確かに“起きた”。
「悠斗、ですか……?」
かすれた声に、安堵と警戒が入り混じる。
「俺だ。大丈夫か? ずっと意識が――」
「しずく……」
その言葉を聞いた瞬間、悠斗の中で何かが“ノイズ”を立てた。
「……え?」
「しずくが……赤かったの。……止まらなかった……」
彼女の目は天井を見ていた。けれどそこには、過去の光景が映っていた。
「由梨……“しずく”って何だ? 誰だ?」
「——ログ……消える前に……ARIA、って……」
「……今、“ARIA”って言ったか?」
「……見てたの。あの子の、目を……――二重になってて、光って……」
由梨の手が震えながら、自分のこめかみに触れた。
「“あの子”? 誰だ……?」
「……しずく。篠原くんの……“妹”」
その名が告げられた時、ARIAのインターフェースが一瞬バグを起こした。
画面に“未認識ファイル:SHIZUKU_PROTOCOL”という赤い警告。
「悠斗さん。警告:その名前は、父上が封印した特別観察対象コードです。」
「観察対象……? それって、もしかして——」
「はい。“実験対象”です。……人間ではない可能性があります。」