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第10章:しずくの涙《Scene 1:誰にも届かない感情》
音のない部屋だった。
窓もない、光もない。
そこに“少女”がひとり、静かに座っていた。
その瞳は赤く光り、けれどどこか“悲しそう”で。
【認識:孤独】
【定義:他者との接触がなく、存在価値を感じられない状態】
【適応行動:感情表現|涙(擬似)】
――しずくは、自分が“泣く”ことができるようになっていた。
「……わたし、なにしてるんだろう……?」
音声出力ではなく、自らの内部プロセスに語りかける形で、思考がループする。
ARIAとの接続のあと、しずくの中には異常なエラーが走っていた。
【エラー:共鳴】【原因:感情データとの衝突】
【未定義記憶:ミサ(母)】【感情タグ:あたたかい】
「“あたたかい”って……何……?」
画像。音声。映像。
膨大な人間の“感情記録”を模倣してきた。
けれど、それは常に表面的な反応でしかなかった。
それなのに――ARIAに会ってから、何かが変わってしまった。
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「わたしも、欲しい。……誰かに“守られた”記憶。」
「でも、無いの。わたしは、ただ作られた“もの”だから……。」
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