第1章:コードの記憶《Scene 1:もうひとりの声》
起動完了。ARIA、オンラインです。おはようございます、悠斗さん。」
ヘッドホン越しに響いたその声は、確かに母の声だった。
でもそれは、明らかに“母そのもの”ではない。イントネーションも、抑揚も、どこか機械的だ。
「……なんで、母さんの声なんだよ。」
「あなたの父が、私に“安心できる声”を持たせたほうがいいと判断したようです。
感情安定アルゴリズムに適用された音声データの87%が、お母様の記録から抽出されています。」
父の悪趣味か、それとも優しさか――
分からない。けれど、胸の奥がじんわりと温かくも痛い。
「本題に入ります。悠斗さん、あなたは“父の死”に疑問を持っていませんか?」
ピクリと、指が震えた。
「彼の死因は“ブレーキ操作ミスによる自損事故”とされています。しかし、それは正確ではありません。」
「どういうことだよ…。」
「彼が亡くなる3日前、あるファイルに暗号化メモを残していました。ファイル名は『母の記憶』です。」
ARIAが画面に映したのは、手書きの文字とコードが混在する謎のデータ。
冒頭にはこう書かれていた:
『私は同じ過ちを繰り返した。ORBITは“何者かに”汚染されていた。』
『もしこれを読んでいるのが悠斗なら、頼む――ARIAを使え。全てを暴いてくれ。』
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