漫画家になりたかった話
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今日は私の大学時代の話をしようと思う、のだが!
おっと、そこにいるハッピーなものだけを吸って生きていきたいキミ!
この先の話は残念ながらあんまりハッピーじゃないので、今すぐ引き返すことをおすすめするぜ!
……去ったか? では話を始めよう。付き合ってくれると嬉しい。
まず、私は子どもの頃からそれはそれはマンガが好きだった。
そして絵を描くのも、それ以上にストーリーを考えるのも大好きだった。
そんな子どもが『漫画家になりたい』と思うのは至極当然のことだろう。
しかし、そこには大きな障害があった。
何を隠そうこの私、死ぬほど小心者なのである。
人に絵や創作物を見せるのが超が付くほど苦手だったのだ。
おまけに何かを完成させるのが怖くて、まともに作品も作り出せない始末だ。
こんなのでは絶対に漫画家になれない……そう思った私はどうしたか?
なんと、漫画の大学に行くことにしたのだ。
大学に行ったのなら課題として無理にでも作品を仕上げる必要が出てくるし、作ったものも絶対に人に見せなくてはならない。
言わば……ショック療法で苦手なことを克服しようと思ったのだ。
ありがたいことに大学にはAO入試で合格した。
その筋ではかなり有名な、著名な漫画家の先生方がたくさんいるような大学だった。
さてキャンパスライフはというと……とにかく課題の連続だ。
ひたすら描いて描いてを繰り返す、そしてめちゃんこ指導される。
特に私は周りと比べて、本当に絵が下手だった。
とにかくダメだダメだと言われる日々だった、仕方がない、本当にダメだった。
先生たちだってプロなのだ、遊びでやってるんじゃない。皆本気なのだ。
特に苦手だった授業は合評だ。
先生たちが全員の前で、一人一人の作品を大きなスクリーンに映して評価していく。
私はこれがもう……お腹が痛くて堪らなくて。
その授業……二時間くらいの間に何回トイレに通ったかわからない。
しかも、ちらっと話せる人はいたものの、友達は出来なかった。
親元を遠く離れて、一人で下宿に住んでいた私は……一週間通して人と話した言葉がゼロなんていうこともざらだった。
せっかく大好きなマンガの学校に行ったのに、マンガの話はほとんど出来なかった。
私は父や母が持っていた、昔からの名作と呼ばれるマンガを読んで育っていたので……周りの最近のマンガが好きな子の話に付いていくことが出来なかったのだ。
さあ、もうおおよその予想が付いているのではないだろうか。
そんな生活、持つはずが無い。
私はある日、精神をぶっ壊した……わかりやすく言えば超病んだのである。
最初におかしいと思ったのは……学校からの課題が期限内に終わらせられなくなった。
宿題を忘れたことはあれど、やらなかったことは無い、そんな真面目な生徒だった私がである。
そして起き上がれなくなった、学校に行けなくなった。
それからは大変だ。好きだった料理も出来なくなって、体を引き摺りながら近所の薬局に行ってはジャムマーガリンパンを買って、それを水で流し込んで食べることしか出来なくなっていた。
一日寝て、泣いて、そんなことの繰り返しだ。
あんまり書いてもどんよりするだけなので、ここで切り上げよう。
そんな状態を親に発見されて一年休学して、復学した。
最後の一年だったからだ、親も高い学費を払っていたのだから大卒という肩書きを持って欲しいのは当然である。
ただ……もうその頃には、絵を描くのが怖くなっていた。
何を書いてもバランスが崩れている気がするのだ、可愛くないのだ、ダメな気がするのだ。
それでも何とか……卒業制作を描いて提出して、大学を卒業した。
もう描いたマンガに愛着なんて無かった、何でもいいから終わらせたくて仕方なかった。
さてさて、暗い話をした後は少し明るい話をしよう。
絵はそれはもうボロクソ言われた私だが、ストーリー作りはかなり褒めてもらった。
通信簿のようなもののストーリー作りの欄には、最高ランクのSを付けてもらった。
これが、これだけが、私の大学時代四年間で唯一の誇りなのだ……ちょっとの自慢くらい、強がるくらいさせてくれ。
散々な大学生活だが、私は後悔はしていない。
それを越えるだけの実りがあったと思う、いや、思いたい。
だって作品が作れるようになった、完成させられるようになった。
これは大きな一歩である。
でも……大学生活で、人に作品を見てもらう喜びを手に入れることは出来なかった。やっぱり嫌で嫌で仕方なかった。
その喜びを痛いほど感じられるようになったのは……ここ、投稿サイトの皆様のおかげである。
感謝してもしきれない。私を創作者にしてくれてありがとう。
きっと私、もうマンガは描かないと思う。
それは悲しい意味じゃなくて……正直、マンガを描くのそんなに楽しいと思えなかったのだ。特にコマ割りは1番苦手だった。
私はマンガは大好きだけど、マンガを描くのは大好きじゃなかった、たったそれだけの話だ。
代わりに、今は小説が書けるようになった。絵を描くのも、以前より怖くなくなった。
私は昔から、自分の手で物語が紡げるようになりたかった。
想定よりずーっと長い時間がかかってしまったが、今やっとそれが出来るようになれた。
だから、本当にやりたかったことが出来るようになった今が、今までで一番幸せな気がするのだ。
お付き合いありがとう、皆様の日々に幸あれ。