文学フリマに出店したときの話
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皆さん、文学フリマをご存じだろうか?
ここで小説を書いている方々なら知っている方も多いんじゃなかろうか。
文学フリマとは……簡単に言うと、文学版のコミティア、である。
おおっとここでコミティアってなんじゃらほい、という方のために今一度説明させてもらう。
コミティアとは一次創作限定のマンガの即売会である。年末などに盛り上がってよくニュースになっているコミケの二次創作禁止バージョンだ。私は元漫画家志望なのでこういうことには詳しい、はずである。
出店者は自分でオリジナルの本を作って、来てくれたお客さんに頒布する、そんな楽しいイベントである。
なんとこの私、小説を書き始めて片手で数えられるくらいの月しか経っていなかった段階でこの文学フリマに出店するという、どこの鋼の心臓の持ち主やみたいなことをやらかしたので今回はその時のことをなんだかんだ書こうと思う。
今年のある日、私は突然小説を書こうと思い立った。
それから少し経って、文学フリマの存在を知った。
……そうだ、せっかく書いたしこれを売ってみよう、と……死ぬほどチキンなくせに何故そんなことを考えたのかは今も不明である。
そしてマウスを持つ手をガクガク震わせながら、文学フリマの出店抽選に申し込みしたのだ。
さて、そこからはとりあえず本を作らなければならない。
これがまーーーーーー大変なのである!
考えることも多いし、文字がちょっと増えたらページ数変わって背幅が増えるのだ。
しかも私は挿絵付きの本が作りたかったのでその絵も描いて、表紙も裏表紙も描いて。
やっと出来たと申し込んだら「ここ間違ってる」って印刷所さんに迷惑をかけ……世の中の創作者はこんなことをやっているのかと改めてその凄さを感じたものだ。
しかも困ったことに文学フリマの抽選に当たってしまった。
もうここからはてんてこまい。自分のブースを作るためには、テーブルクロスにおつりのお金、見本を展示する台にレイアウト方法……とにかくいっぱい考えなくてはならない。
何より大変なのがメンタルである。
見切り発車で暴走しているのだ、チキンなメンタルは失神寸前だ。
毎日毎日「もう早くその日が来てくれ……怖い……」と怯えていた。
だって一冊も売れないかもしれない。
……しかしよくよく考えれば、超無名にも程がある、執筆歴数ヶ月の人間の作品なぞ売れなくて当然だ。そりゃそうである。
ちなみに結論から言っておくと、本は身内以外には三冊売れた。大変ありがたい話である。
さてさて本番当日。私はあまりの緊張で吐きそうになりながらも朝ご飯のサンドイッチを胃に詰めて即売会会場へ向かった。
そこに居たのは……猛者、猛者、猛者の嵐だ。
みんなめちゃくちゃ手慣れた様子で設営していく。
なんか知り合い同士の人もいっぱいいてお菓子とか配ってる。未知の世界だ。
なんだかんだ設営したら……まぁあとはぶっちゃけ、どんだけ売れなくても座っておくだけ……と思っていたらこれが全然違うのである!
みんな立ってチラシとか配ったり、呼び込みしたりするのだ!
文学好きは大人しい人が多いのかなーとか思っていたのに、みんなめちゃんこアクティブなのである!
……そうか、己の本を売りたければ、ここまで行動しなければならないのだなとひどく痛感した。座ってるだけじゃ見てもらえないのだ。すごく勉強になった。
そして私の右隣の人……バカ売れしてた。
ひっきり無しに客が来て、最終的には新聞の取材まで来ててそれはもうすごかった。
そんな人が全く売れてない私の健康を気遣って、熱中症予防のタブレット菓子をくれた。優しい……きっとこの人の書く文も優しいのであろう。売れるわけだ。
さてこうして、お尻が疲れたなと思いながら座っていたら文学フリマも終了だ。
私も何冊か本を買わせてもらった。しかし大きな声では言えないが……ぶっちゃけまだ開いてない。
創作やってると人の創作を見るのちょっと怖いときないですか?
見始めたら問題ないけど……なんか、あぁ文上手い、あぁ面白い……って自分と比べてしまいそうで。
なので落ち着いたら読もうと思う。落ち着くときが来ることを祈ろう。
ここまで読んで、よし! 俺も文学フリマ出るぜー! ってなった人がいたらそれはもう猛者である。かくいう私も二回目出るかとかは一切考えていない。
しかしもし、出ようか迷ってる……という方がいたら、私は絶対「出た方が良い!」と背中を押そう。
やらない後悔よりやった後悔の方がマシなことが多い。出たいとちょっと思った時点で、貴方はもう文学フリマに出る権利を有している。
それに抽選だって当たらないかもしれないのだ、出すだけ出すのも大ありである。
画面の前のそこの貴方、文学フリマに出店して自分の本を売ってみないか?
売れるとは一切保証しないが……文学フリマを乗り越えた貴方は、以前の貴方よりちょっと心が強くなって、薄皮一枚剥けた存在になれることは保証しよう。