中綿が寄る
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画面の前のそこの貴方はこんなことを言われても至極困ると思うが、私の愛用している冬用布団の中綿が寄って仕方が無い。
それはもう寝ている間にはちゃめちゃに寄るのだ。食パンでその厚さの違いを例えると、足の方は四枚切り、頭の方は十枚切りだ。
何が困るって睡眠中に微妙に不快なのである。足の上は何だかモタモタして暑いのに、肩の上はペラッペラで寒い。私にとっては非常に由々しき事態だ。
……じゃあ新しいの買いなよ、って声が聞こえてくる。
愛用している冬用布団はかなり古い。多分祖父母の家から来たのではないだろうか……重いし、絶対ニトリとかのやつでは無い。
しかし……困ったことに少々不快なだけで、まだ使えてしまうのだ。我が家のボスがまだ使える冬用布団を「ちょっと不快」というしょぼい理由で新しいものに交換させてくれるだろうか……ううむ、難しいだろう。
いっそ突然綿が飛び出してボロボロになったりしたなら交換出来るだろうが……そんな風になる使い方は一般庶民の私にはとんと想像がつかない。正しく布団がふっとんだ状態にならなくてはいけないだろう。
……ぶつくさ文句を言っていたって布団の中綿は寄ったままだ。少しでも快眠へと向かうため、対策を取らなければ。
私のベッドはロフトベッドであるから、布団の端っこを持ち、高いその上からぶらーんと下にぶらさげてバサバサと揺する。するととりあえず一時的に中綿が元の位置に戻る。
……おしまいである。他に出来ることなんて見当が付かない。
わかっている、また数日後には中綿が寄って不快だ。
根本が何も変わっていないのだ、つまり私の日々も変わらない。
……こうして小さな見て見ぬふりと誤魔化しを続けて、私の一生は終わっていくのかもしれない……などと、絶対に中綿で感じてはいけない領域まで思考は巡る。
中綿は人生そのものかも知れない。
いつでも均等、波が無くフラットであれば楽なのに、年月が経つごとに寄れて厚さがマチマチになる。
これではいけないと一度元に戻してみても、癖が付いていてすぐにまた寄れて……どうにも昔の、新しかった頃のように戻ることは無い。
固まって、揉まれて、くちゃくちゃになって。そんな状態でも外からの見た目はそう変わっていないし、まだ使えるから、布団の中身として温かさを届けていく。
そして中綿が寄るやら重いやら寒いやら、文句を言われながらも生きながらえていくのだ。
……うーん、やっぱりもう少し使おうという気持ちになってきた。
私の布団は今のところ君しかいないのだ。もうちょっとだけこの、温かいようで時に恐ろしく冷たくて、固いようでやわらかいところもあって、甘いようで辛いようでほんの少し甘い……そんな世の中を共に過ごしてみようではないか。