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02 少年と誘拐犯の攻防

観光客として偶然そこに居た黒髪の少年は、ふと耳に入った物音に違和感を感じて周囲を見る。

 白い帽子と服を身に纏った子供達。その中の一人、先程まで隣の区画の端に座っていた、深く帽子を被った少女の姿が見えない事に少年が気づく。

 少女は自分と背丈が同じくらいだったので、近い年齢だろうと推測する。少女は見た目より大人びた言動をしていたので、暗闇が続く今、たったの十分程度の間に、意味もなく迷子になる様な真似をするだろうかと、少年は不可解に思った。


 流れ星が盛大に流れ歓声が上がる暗闇の中、何かを感じた少年が周りに目を凝らすと、二人組の大柄な人物が何かを抱えて走り去るのが見えた。少年は嫌な予感がして、走り去る人物を追いかける為その場から立ち上がる。


「セイクリッド、どこへ行くんだ」


 突然勢いよく立ち上がって飛び出した、セイクリッドと呼ばれた少年の行動に、周りにいた保護者達が驚いた顔をして声を掛けた。


「トイレ!迷ったらバスかホテルに直帰します!」


 セイクリッドは走りながらよく通る大きな声で、隣に座っていた保護者にそう伝える。

 暗くて表情はよく見えないが、酷く迷惑そうな声で「余計な面倒をかけるなよ」とぼやいた保護者を一瞥して、暗闇の中を走り去った人物達を追いかける。




 風のような俊足を夜の闇に披露したセイクリッドは、一分もかからずあっという間に走り去った二人組に追いついた。

 大柄な二人の男達は目立たない様に車の電気を消し、小さな豆電球程の極小の光だけを頼りに、車へ乗り込もうとしていた。


「おじさん達、何を持ってるの?何か遊ぶ道具?ねえ、見せて?」


 セイクリッドは好奇心旺盛な何も知らない子供のように尋ねると、男達はその声にびくりと体を震わせて驚き、勢いよく振り返った。すると急に、男が抱えた太長い何かが、小動物のような高い声で叫びウネウネしなった。男達はそれを押さえながら引き攣った笑顔で答えた。


「ああ、子供か。急に暗くなったんで犬が驚いて暴れたから、大人しくさせるのに目隠ししてるんだよ」

「ふうん…オレ、犬好きなんだけど見せてもらってもいい?」

「他人には凶暴なんだ、悪いな」

「ふうん、そうなんだ…ふっ。おじさん達、自首するなら今だよ」


 口端を少し持ち上げたセイクリッドは、すっと右手を上げ、宙を指先で払う様に撫でると同時に光の球を二つ生み出した。


「魔法!?」

「何だと!」


 未だ短い時間の天体ショーは続いていて真っ暗な中、セイクリッドが生み出した光で周囲が明るく照らされる。丸太ではなく毛布の様な物で巻かれた隙間から、子供サイズの白い靴が見えた。


「中がはみ出てるよ。それ、犬じゃなくて人だよね」

「ちっ!早く車に乗せろ!魔法が容易く使えるって事は、多分どっかの機関に飼われてる!面倒なことになる前に逃げるぞ!」

「テメェも動けない様に一緒に捕まえてやる!」

「やめろ、構うな!逃げるのか先だ!」


 誰かを抱えた男が素早くそれを車に押し込め、セイクリッドを襲おうと紐を手に、いきりたって近づく。もう一人は早く車を出そうと、運転席に乗り込む。

 セイクリッドは魔法で作った明かりを一つ投げつけ、素早く雷魔法を放って襲ってきた男の腕に食らわせた。男はおかしな悲鳴を上げ、感電して気を失う。

 もう一人の男は倒れた仲間を気にすることなく、車のエンジンをかけて思い切りアクセルを踏むが、空ふかしで車が進まず。焦った男は思わず叫ぶ。


「おらァ!!!進めえー!!!」


 男は何度もアクセルを踏むが、車は全く進まない。窓から顔を出して車の周囲を確認すると、氷漬けのタイヤを発見した男が怒り叫ぶ。


「何しやがんだ、このガキ!!」


 男はこの子供がタイヤを氷魔法で固めて動かせなくしたのだと確信し、怒りで目を血走らせる。

 想定外の邪魔が入り、逃走が遅れ、しかも子供の仕業という事で頭に血の登った男は、車を降りて殴りかかった。その手にはナイフが握られていた。

 セイクリッドは無表情のまま後方に下がって躱し、攻防どちらにも移れる様に距離を取りつつ、右手には魔力を込め、手袋を装着した左手には氷で作った細剣を具現化した。


 男はニヤリと笑い、素早く片足を踏み出してナイフを突き出す。フェンシングの突きの様に素早い動きだったが、セイクリッドは無表情でそれを躱す。

 瞬間、ピリッと腕に痛みを感じた。

 何が起こったのかとセイクリッドが男の左手を見ると、男の腕は放電してパチパチという音と共に無数の小さな光を放っていた。セイクリッドと同じ雷魔法を繰り出たのだ。

 驚きを見せたセイクリッドだったが、男がニヤリと口元を上げ終わる時間も必要とせず、瞬時に右手に込めた魔力の属性を変えて相手に放った。


「ぐががががごぶっ!!!」


 水魔法。


 男の体が水で覆われた。

 雷魔法を放とうとした相手を水浸しにして感電。自滅させたのだ。

 ほんの一瞬の出来事だった。


 自分が放出する前の生成中の魔法は自分には効かない。この世界の魔法の理屈だが、生成中でも別のエネルギーを通した魔法なら、それは純粋な自分の魔力ではなくなり、自分にも影響が出る。

 セイクリッドに不意打ちを喰らった男が避けられるわけがない状況だが、魔法を使う者が初期に習う、気をつけなければならない事の一つだ。


 セイクリッドは一呼吸の隙も入れず、泡を吹いて気を失った男達の側に近寄る。完全に意識がない事を確認し、下半身を分厚い氷で固めて動けなくすると、被害者が押し込められたワゴン車に近づき後ろのドアを開ける。

 毛布に包まれた誰かが、ぴーぴー叫びながらモゾモゾ動いていた。


「今助けるから暴れないで」


 その言葉に、包まれていた誰かはすぐに動きを止める。セイクリッドが光魔法で照らすと、巻かれていたのは厚手の毛布と、結束バンドの様な太く丈夫なベルトだった。夏に厚手の毛布巻きは酷すぎる…と、セイクリッドはちょっと遠い目をしながら、過酷な暑さを経験した魔法訓練の事を思い出した。


「ベルトが取れにくいから切る。絶対に動かないで」


 毛布に巻かれた誰かにそう伝え、氷魔法で作ったナイフで切っていく。


「…はあっ、はあっ、」


 そこから苦しそうに出てきたのは、予想通り観光案内係をしていた少女だった。

 夏場の暑い時期に厚手の毛布に何巻も巻かれていた為、毛布の内側は熱とたっぷりの汗が充満していた。

 セイクリッドは少女の容姿に少し驚く。服装だけでなく、髪の色も肌も真っ白。不思議な色合いに変わる目の色以外は、動いていなければ陶器で作った無機物かと思う程だ。


 少女は苦しそうに眉間に皺を寄せながら大きく息をする。10分程度とは言え真夏の閉鎖空間で全力で抗って、全身汗だくになっていたのだ。すぐに熱中症対策をした方がいいと判断した。


「あいつらは拘束したから、もう大丈夫だ。魔法で氷を出すから、少し体を冷やした方がいい」


 セイクリッドは氷をどこに出そうかと周囲を見渡す。声をかけられた少女は、魂が抜けた様にぼんやりとセイクリッドを見つめた。暑さと酸欠で全身が赤らんではいるが、恐怖と脱水で生気を失っており、案内をしていた時の溌剌とした印象は失せていた。ただ、救出された時点から目の輝きだけは強さを増していた。


「う…」


 少女はセイクリッドを見つめて驚いた様に目を口を開き、そのままポロリポロリと涙をこぼす。次にくしゃりと表情を崩すと、脱力して力の入らない腕で少年にしがみつき、声を上げて泣き始めた。

 面を食らったセイクリッドは、どうしていいかわからず、魔法を使おうとした手を伸ばしたまま、体を硬直させて目を瞬かせた。


 それも数秒のこと。冷静さを取り戻して(?)魔法は取りやめ、端末を取り出したセイクリッドは、手慣れた様に警察に連絡をした。


 こうして誘拐未遂事件は終息した。

読んでいただいてありがとうございます!

あれ?まだ主人公の名前が出てこない…

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