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〈Re;əЯ〉わたしは幸せで平穏な転生人生を目指したい!〜平穏の意味には個人差があります〜   作者: 簓(ささら)
第1章

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〈閑話〉18.5 小さな騎士の約束

第一章18話の途中、昼ご飯後、シエルが仕事に戻った後の時間帯のお話です。

 街の危機を防いだ翌日、セイクリッドはホテルに帰るための用意をしていた。

 未だヒメルは眠ったまま。しかし、シエルの家に居られるのもあと僅かな時間だ。


 荷物を詰めていると、玄関チャイムの鳴る音がした。シエルはまだ診療所で仕事中なので、二階にもあるインターホンで来客に応答する。


「よっ、今いいか?」


 インターホンの画面には、ノアの姿があった。多分ヒメルに用があるのだろう。セイクリッドは少しだけ視線を落とした。


「ヒメルに会いに来たのか。今はまだ……」

「わかってる、また寝てんだろ? ……って、お前何か落ち込んでる? そんなの気にすんなって。あいつ、いつも何かある度にずーっと寝てるんだよ。それより、今日はお前に用があって来たんだ。外で話したいんだけど、今いいか?」

「オレに? わかった今行く」


 ノアがヒメルが眠ることについて、どこまで詳しく知っているのかはわからないが、日常茶飯事のようにあっけらかんと話す。セイクリッドは己の気持ちの重さと、ノアの軽い口調のギャップに戸惑い、モヤモヤしながら玄関へと向かう。


「手間とらせて悪いな、セイクリッド」


 家の外で話したいと言うノア。セイクリッドは靴を履き、家の鍵は自動で戸締りされるため扉を閉めてそのまま外へ出る。「少し歩こうぜ」と、ノアが親指を立てて後ろを指し、セイクリッドを誘う。


「俺さ、母さん達の立ち話を聞いたんだ。ヒメルの体質がどうこうって話と、今回の事件のせいで中央に行くかもしれないって。だからもしヒメルが中央に行ったら、見守れる範囲でいいから、お前が守れよセイクリッド」

「オレが?」

「そうだよ。セイクリッド、俺に言っただろう。ヒメルを傷つけるなって。それは守れって事も含まれるよな? お前はあんな凄いこと出来るんだからさ、俺なんかよりずっと強いんだろ? 剣だけじゃなくて魔法も使えるって、じいちゃんから聞いたし」

「じいちゃん?」

「ははっ、おまえ聞いてばっかだな。ガーディって警察官知ってる? それ俺のじいちゃん」

「ああ……そうか、驚いた。血縁だったのか。あの人にはとてもお世話になった」


 ノアが正義感が強くて暑苦しいのは、あの頼もしいベテラン警察官の影響だったのか。


「へぇー、じいちゃん、いい仕事したんだ」

「いいどころじゃないよ。あの人は経験も勘も凄い」

「ええ? じいちゃんそんなにスゴイの? いっつも俺に会いにくるとさ、メチャクチャ顔ぐりぐりくっつけてヒゲ痛えし、遊ぶ時は子供以上に全力で汗かいてるし……孫バカで全然スゲェ感じしないんだけど」


 ノアがガーディとどんな遊びをしているのか気になって聞いてみると、木登りから始まり、朝から日が暮れるまで街を一周する鬼ごっことか、川を遡上して泳ぐ遊びとか、友達何人出来るかな……じゃなくて友達何人運べるかな♪ という遊びをしているという。

 子供の遊びと言う名のハードな修行だ。ノアは気づいていないだけで、物凄い特訓になっているはずだ。


「ノアは何のために体を鍛えているんだ?」

「俺? 騎士になるためだ。剣術の訓練はまだ騎士やってる兄ちゃんがうちに帰った時にしかしてないけどな。じいちゃんも、兄ちゃんも、街や世界中のみんなを守ってる。俺もそうなりたい。まあ、この街を守れたらそれだけでもいいんだけどな、上を目指した方がもっと強くなれるだろ?」


 照れ臭そうにニカッと笑うノア。頬をこれまでかと言うくらい上げる笑い方がガーディとよく似ていた。


「そうか。応援してる」

「あと何年か後、学園の高等科入学目指してるからさ、友達でライバルとしてよろしくな!」

「ああ、楽しみにしてるよ」


 ノアに元気よく手を差し出され、握手した手をブンブン振り回されながら応えた。


「話戻すけど、今回の事件、セイクリッドが活躍したんだろ? あまり詳しくは聞いてないけど、じいちゃんが誉めてたぜ。公園で木の枝で打ち合った時から思ってたけど、やっぱ中央にいる奴は超スゲェのな。ヒメルも色々抱えてるっぽいし」


 洞察力も祖父譲りか。心のまま真っ直ぐな言葉を放つノアに、セイクリッドの心がざわついた。


「違うのか? 何だよ、煮え切らない顔してんな」

「……オレと知り合ったばかりなのに、ここの街の人みんなが親切だと思ったんだ。そんな人間はオレの周りにほとんどいない。その親切のお返しをしたいけれど、どう返していいかわからない」

「ぶはははっ、何だよそれ、そんなのいらねえよ。一緒にいたら、知らない間にお互い返しあってんだって。知り合ったばかりって? 木の枝とは言え、剣も交えたし、もう何日も経ってんだから友達(ダチ)だろ?」

「安直だな」

「いいじゃん、いいじゃん、楽しいことはシンプルにいこーぜ」


 ノアは笑いながらセイクリッドの背をバシバシ叩き、叩かれた方は迷惑そうにジト目で睨む。


「それにさ、俺たちはもうおまえに返してもらってるだろ? ヒメルを守ってくれてありがとうな、セイクリッド」

「……いや、上手く立ち回れなかった」

「全ての戦略が上手くいくのは難しいから、全員が最小限の被害で済むように終わらせるのが最善だ! って、じいちゃん言ってた。おまえはちゃんとやれたんだよ。スゲェよ、誇っていいんだぜ?」

「けど……ヒメルは怪我をした」

「ヒメルが自分で選んでやったんだろ? 何か知らねーけど、あいつ怪我の治り早いんだよな。自分でやったなら治ることまで考えてるから、きっと心配ないぜ。シエル先生もいるし」

「ヒメルの怪我も治せないし、眠ったままだ」


 沈むセイクリッドの表情を見て「チッ」とノアが舌打ちをする。


「犯罪者に立ち向かうには、勇気と知恵と力が必要だって、これもじいちゃんが言ってた。それから、優しさもな。犯人も軽い怪我で済んでる。悔しいくらいにサイコーなんだよ、ちくしょー、どうやったらそんなに強くなれんだよ、セイクリッド」


 羨望を含んだ眼差しのノアが、セイクリッドの首に腕を回して苦笑いをする。


「はっ……オレが凄いことなんて何にもない。大人の言う通りに訓練してきただけだ。でも、今は違う。ヒメル、シエル先生、街の人たち、ノアもだ。みんなの心に触れて、何としても救いたいと思ったんだ」

「そっか、ははっ! それじゃあ俺たち同志だな!」


 ノアは嬉しそうにニカッと笑い、セイクリッドの首から腕を外し、拳を突き出す。


「みんなを守りたいっていう目標を持った同志だ。共同戦線しようぜ! この街の人たちと、ほかに守りたいものも守る、その為の努力をする! それが俺たちのミッションだ」

「ああ、それはいいな。乗ろう」


 セイクリッドは顔を上げて笑顔を見せ、ノアに拳を返す。


「俺はいつか、兄ちゃんみたいに中央の学園で学ぶつもりだ。そこで力をつけて騎士になって、この街と世界を守る。それまではここで頑張るからな。ヒメルが頻繁にトラブルを持ってくるから、その対処もな! セイクリッドは?」

「オレは中央でこれまで以上に力をつけたい。ノア、ヒメルが中央に来るまでは、ノアがヒメルを守ってくれ」

「おうよ! セイクリッドがいない時は俺が見てるから大丈夫だ。友達(ダチ)の約束だぜ」

「ああ。友達(ダチ)の約束だ」


 少し傾いて赤みを増した日の光が、二人の笑顔を照らしていた。

 読んでいただいてありがとうございます。

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 ぜひよろしくお願いいたします。


 次の更新は9月12日(木)19時頃予定です。

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