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〈Re;əЯ〉わたしは幸せで平穏な転生人生を目指したい!〜平穏の意味には個人差があります〜   作者: 簓(ささら)
第1章

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〈閑話〉08.5 白い帽子の行方

短めの閑話です。


最初の誘拐事件の翌日、「08朝の団欒」の後の時間帯の話です。

 ヒメル誘拐未遂事件の翌日午前


 朝食を食べ終えた三人は、リビングで雑談をしながらくつろいでいた。すると、突如玄関チャイムが鳴る。


「おや、朝から誰かな」


 シエルが席を立ち、インターホンの画面を見る。見知った顔の人物が笑顔でインターホンのカメラに向かって手を振る。


「ああ、お隣のクレイさんだ。おはようございます。朝からどうしたんですか?」

「おはよう、シエル先生。ヒメルは無事だって聞いたけど、今会えるかな?ちょっと届け物があってね。すぐ帰るから玄関の外で構わないよ」

「今行きます。ちょっと待っててくださいね〜」


 シエルは振り返ってヒメルにおいでおいでする。


「クレイさん、心配して来てくれたみたいだよ。あと、渡すものがあるって。ヒメルと観光案内のバディだから、その関係かな?」

「う〜ん何だろ?」

「とりあえず玄関へ行こうか。セイクリッド、お客さんが来たから少し話してくるよ。一人にして悪いけど、ゆっくり寛いでてね」

「はい、オレに構わずどうぞゆっくり話してきてください。これを食べて待ってます」


 食後のおやつに北の地方名物のチーズをつまみながら、セイクリッドは二人を見送る。




 二人が玄関のドアを開けて外に出ると、元気そうなヒメルを見たお隣に住む夫婦が、揃って破顔した。


「ヒメル! いやあ、無事でよかった!」


 クレイは若干疲れた顔をしていたが、安堵の表情でヒメルの頭をわしゃわしゃと撫で、続いて妻のアルデがヒメルをぎゅうぎゅうと抱きしめる。

 

「本当だよ、また誘拐されかけたって聞いて、あたしは心配と犯人への怒りで昨日は眠れなかったよ。誘拐犯めっっ!!」


 クレイの妻アルデは茶色の瞳をギラリと光らせ、ヒメルを抱きしめながら、牛の乳を絞るように、力強く両指を一本ずつゆっくり握り締めた。それを見たクレイは、にじり足で奥さんから少しずつ離れる。


「あー、アルデさん、まずはヒメルを離そうか。苦しがってるみたいだから……」


 シエルいそう言われ、アルデが自分の胸に顔を埋めるヒメルが上半身を震わせてもがいているのを見て、パッと両腕を上げて解放する。「ぷはっ」とヒメルが勢いよく息を吸うと、シエルもホッと小さく息を吐く。


「二人ともありがとう、心配をかけたね。この通りうちのヒメルは無事だったから、心配しないでちゃんと寝てよ〜? 睡眠は大事だからね」

「ああ、ヒメルの無事を確認できたから、今日はもう安心して眠れるよ。ところでもう一つの本題なんだが、ヒメルに渡すものがあって来たんだ。ほらこれ」


 ガサゴソと大きめの手提げカバンからクレイが何かを取り出す。アルデの強靭な腕と豊満な胸から解放されて一息ついたヒメルは、振り返ってクレイを見る。それは、昨日ヒメルが被っていた小鳥の刺繍が入った白い帽子だった。


「わあっ、おじさんありがとう!! 帽子、なくしたと思って諦めてたから嬉しい」


 目を見開いて頬を桜色に染めたヒメルは、嬉しそうにそれを受け取る。

 この三ヶ月、イベントスタッフとして打ち合わせから始まって、昨日事件が起こる途中まで参加した、みんなとワイワイ時間を過ごした大切な思い出が詰まった帽子。まだ8歳のヒメルの強いアイデンティティが込められているアイテムの一つだ。


「どういたしまして。君を最後に見た場所の近くに落ちてたんだ。観光客の人が拾ってくれてね。君のことを褒めてたよ。明るく親切に案内してくれて楽しかったって」

「うん、すごく嬉しい。また来年もやりたい、な…」


 ヒメルは急に萎れた花のように元気を失う。来年も自分が参加することで、また同じような事が起こるかもしれない。そうなれば再び多くの人に迷惑をかけるのではと懸念し、何年も関わり続けたイベントスタッフの次の参加に躊躇いを覚えた。


「ヒメル、君は好きなことを選んで行動していいんだよ。何か起こった問題を取り除いたり、軽くするのは大人の役目だからね」


 シエルは娘の頭に手を載せて、穏やかに微笑む。夫婦もその言葉に頷き、アルデがしゃがんでヒメルの手を取る。


「そうだよ。来年はあたしもヒメルのボディーガードについてあげるから安心しなよね。悪いのは悪いこと考える奴ら。あたしがその場にいたら、けっちょんけっちょんにしてアソコを捩じ切っ…」

「……ゴホンゴホンゴホン」


クレイが「捩じ切…」辺りでアルデの肩をポンポンと叩き、健全な青少年に聞かせないよう咳をして言葉を掻き消す。


「ゴホンッ、ヒメルはもうベテランスタッフなんだ。来年も新人の大人に色々教えてやってくれよ。頼りにしてるんだから」

「そうだよ、来年はあたしがヒメルの護衛に立候補するからさ、また参加してよ」

「えへへっ。クレイおじさん、アルデおばさん、ありがとう。わたし来年も頑張るよ!」


 来年のスタッフにスカウトされたヒメルはいつもの輝くような笑顔を取り戻す。そして、アルデの温かな手を握り返し、もう片方の腕で帽子を潰さないようそっと抱きしめた。

 冒頭に出てきた観光案内のクレイと奥さんのアルデの登場です。アルデさん、ギリギリ発言危うい…


☆新しい登場人物☆

クレイの奥さん:アルデ


 次回更新は来週の19時頃の予定です。

 ブクマ機能で新規話の更新の通知が届くので便利です。

 活動報告も物語更新の度にほぼ毎回書いています。お時間あれば、そちらもご覧ください。

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