19 "かみさま"の激励
キィィィ ーーーーーーーーィン………
最近聞いたばかりの聞き覚えのある、あの音。
暑さも寒さもない、不思議な浮遊感。
わたしは目を開ける。
「ニャア!ヒメル!」
「ぎゃあっ!」
お決まりの至近距離の白い物体。
タキシードを着た白猫のリアルな着ぐるみみたいな姿。この世界の"かみさま"だ。
「ちょっとちょっと、つい数日前に会ったばかりだよ?驚くことないよにゃー」
「眠ってる人の前にいきなり来られたら、何度でもびっくりするよ!ちょっとは学習してよ、"かみさま"の意地悪!」
「てへ」
タキシードを着たリアル白猫着ぐるみのてへぺろ。…可愛さ余ってムカつき度100倍だよ。
「もうすっかりベテラン域で、子供らしい態度が板についてるよねえ。女優だね」
「やーめーてー!中身大人で、子供の振りするの、何回人生やっててもそう言われると羞恥心で死にそうなんだから!ていうか、だんだん子供らしさがわかんなくなって素になってきてやばいんだから」
ニャッニャッと上品な笑いでわたしを揶揄う"かみさま"。そして、白いテーブルと椅子がどこからか現れ、そこに座って足を組んであご肘ポーズを取る。
「なーんか、君の体質バリバリ使って、派手にやったねぇ。君の親のシエル、もう君の能力を隠し切れないよねぇ?」
「ううっ、先生、迷惑かけて申し訳ない…。こんなに早く大事になるなんて…セイクリッドと出会えたのはよかったけど」
「ふふっ、僕から見たら今回の転生は順調に見えるけどね」
「そう言って今までうまくいかなかったんだけど…わたしがチャンスをしっかり生かせなかったから」
「まあ、今生の君のトラブル引き寄せ体質は、世界の補正みたいなものかなあ。魔力が効かないとか、相当異常でしょ?」
"かみさま"は何のオブラートにも包まずにそれを言い放った。
「この世界の魔力の理は、全ての物質に魔力が宿って、全てに魔法が干渉する。君だけ認識されないなんて、今回は僕も想定外なんだよね〜」
「"かみさま"も想定外の事あるの?はあ〜、なんか面倒だね。わたし、そんな状況でセイクリッドを救ってこの世界の寿命を延ばせるのかな?」
「可能性はゼロじゃない。僕が言えるのはそれだけだよ」
「…いつもと同じ答え。やり直し転生も最後だから、もうちょっとだけヒントとか、力を貸すとかないの?わたし焦ってるんですけどっ」
「んー、僕が干渉できるのは、生まれる前の魂の時と、それ以外は口だけだよ」
「口だけ…はぐっ、」
ガクリと項垂れるしかない。
"かみさま"にはアドバイス程度しかもらえないけど、タイミングは重要だ。口だけでも過剰に出してもらって、たんまり利用させてもらわなければ。
「君、言い方言い方〜」
「考えてることに突っ込まなくていいよ」
「ニャハッ!君みたいに長く付き合える他人なんていなかったから、とっても面白くて。もっと手助けしてあげたいんだけどね〜、こちらにも制約があるからできないんだ。それこそ、僕が消滅して世界も消滅しちゃうからさ」
「元も子もないね」
「うん、だから、君がこの世界の寿命を伸ばしたいなら君自身に頼るしかない。僕はどちらでもいいんだけどね。でも、君がどんな目に遭っても何度も転生を繰り返す姿を見て、ちょっとだけ世界の未来を見たくなったよ」
目の前のタキシード白猫姿の"かみさま"。面白好きで人知の及ばない先のことを考えている、のんびりすぎる"かみさま"。そんな存在がほんのちょっと先の未来を楽しみにしてくれている。そして、わたしはそんな"かみさま"に協力を仰いでそれを成そうとしている。
きっとこれは凄い奇跡。そしてわたしにとって凄く大変で大切な、最後のチャンスだ。
「うん…わたし、この世界の人達の事、本当に本当に大好きなんだ。だから、絶対に酷い死に方をして欲しくない。何で世界の滅亡のきっかけがセイクリッドなの…あんなに綺麗で優しい魂なのに…」
じわりと涙が溢れる。
「どうしたら上手くいくの?どうしたらいいか、何十、何百のやり直しても、どの次元のこの世界も助けられなかった!みんなもわたし自身も守れなかった!」
この吐露は"ここ"でしかできない話だ。
「わたしが境を救えず死ぬとセイクリッドの心が暴走して世界は終わり、セイクリッドが死んでも力が暴走して世界は終わり、何もしなくても自動的に世界は終わり!どうしたら世界とセイクリッドの存在を救えるの?世界のボタンの掛け違いがどれか分からないよ!もうどうしたらいいのよぉーーーー!!!」
わたしは泣き叫ぶ。
転生の度にこうして夢の中で何度も"かみさま"に愚痴を聞いてもらっていた。
わたしが一通り愚痴を言ってわんわん泣いて、落ち着いてきたところで"かみさま"がポツリと言葉を放つ。
「今回の出会いとか、君の体質とか、今までとかなり違うと思わない?側から見たら小さいことだけどさ、人との縁とか精霊が出てくるとか、こんなにタイミングよく進むことってなかったよね。僕は何か新しい運命の糸が見えたような気がするよ。それを手繰っていくのは君次第。君が諦めたら終わり。それだけだよ」
「うん…いつもありがとう、"かみさま"」
"かみさま"の激励に、わたしは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、前を向く。
「この世界のみんな、街のみんな、シエル先生、そしてセイクリッド…みんなそこそこ幸せな寿命を全うさせてあげるからね!わたしも一緒にね!」
意気込むわたしの目の前に、"かみさま"のもふもふの手がひらひらと仰がれる。
「"かみさま"、今感動的ないい所なんだから、邪魔しないで」
「うーん。今日セイクリッド帰る日だよね?寝てていいのかな〜?」
「嘘でしょっ?またなの!?"かみさま"はやく戻して!起こして!目を覚まして〜!」
わたしは懸命に"かみさま"の服の裾を掴んで力一杯揺らす。
……このやりとり、既視感。
「ニャッニャッ、"そこそこ幸せにする"って、ほ〜んと君らしいね。…これから"君"と"この世界の彼"はまた世界の滅亡の渦に引き寄せられる。今のうちにここで魂を休めておいで」
ポンポンと猫の手で器用にわたしの頭を撫でる。サラサラの細い毛とピンクの肉球がふわふわフニフニと心地よく、うっとりと悦に入ったわたしは再び立ったまま目を閉じた。
ヒメルの魂の叫び。
"かみさま"は、寄り添ってただ大らかに見守るだけです。
(ちょっとだけヒメルを揶揄って楽しみます)
次回、第1章の最終回です。
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