プロローグ〜案内係はバディを見失った
とある世界の、とある地域の北部にある、普段は閑静な街。
今日は大きなイベントのため、たくさんの観光客で賑わっていた。
流れ星の観測と花火大会。
毎年夏になると、この街では二つのイベントが同時に行われる。
広い河川敷には、集まった沢山の観光客がどんどん席へと誘導されていた。
観光客を誘導するのは"観光案内キッズ"。
街の子供達が夏休み中に"観光案内キッズ"として、大人の観光案内係とバディを組んで行動する。
観光キッズという社会勉強で、大人顔負けの行動力を発揮して成長していくのも、隠れた醍醐味の一つだった。
彼らのトレードマークは白いキャップ。夜でも迷子になりにくいよう様、暗闇でも目立つ白い色が採用されている。
その帽子には、この地方の固有種である"キタノユキエナガ"と呼ばれる、白く丸いフォルムの鳥の刺繍が入っている。愛らしい姿は観光グッズでも取り入れられる人気の小鳥だ。
観光案内キッズに参加した一人の少女が、担当の観光客達をビニールシートが敷かれた指定区画へと案内し、少女自身も観光客と共に、指定場所の区画の端に控えめにスペースを取って座った。
少女とバディとして動く案内係の大人が少女の仕事がひとまず終わり座った事を確認し、少しだけ気を抜いて、立ったまま通路から周囲を見守る。
スピーカーから流れる「光を放つ機械等の電源をお切り下さい」の放送に、観衆が一斉に端末などをバッグへ収納する音がガサゴソと響く。
このイベントの企画方針で、星が流れる今だけは街灯も家の明かりも最低限しか点けない。
その為、いつもよりもより周囲の暗闇が濃くなり、等級の大きい星もよく見えた。
それから数分して、空に星の軌跡が現れると、人々の歓声と感嘆の溜息が上がった。
ショーの途中で、大人二人と少年がものすごい勢いで飛び出していったので、案内係は一瞬驚いたが、少年が「トイレに行く」と保護者に大きな声で伝えていたので、問題ないだろうと見送った。
こうして恙なく10分程の天体ショーは終了した。
続いて花火のアナウンスが流れ、拍手が起こる。
音楽が流れ、花火が打ち上がり始めた。再び完成が起こり、花火一つ一つに人々の話し声や歓声が上がり、会場の空気を非日常のものへと大きく変えていった。
花火が終わり、観光案内の大人がバディの子供を探す。区画の端にいたはずだが、いつの間に姿を消したのか見当たらず、背筋をヒヤリとしながらあたりを見渡す。
先程の少年の様にお手洗いに行ったのかと考え、ひとまず観光客をホテルへ向かうためのバスへと案内する。
もしはぐれた場合の対処も、事前の打ち合わせで何度も言い聞かせている。
迷子になった時の心得の内容はこうだ。
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●迷子の心得●
・パニックにならず、まずは自分の安全を一番に考えて行動しましょう。
・すぐに端末で大人に連絡をすること。
・端末が壊れたりなくした時は、家の近くならそのまま帰宅するか、あたりが暗くなったり家から少しでも遠い場合は、ためらわずに、周りの人か、近くのお家に迷子の助けを求めること。
・周りに大人も誰もいない場合、近くのお家に電話を借りて、家か運営に連絡すること。
・車で来た人に声をかけられた時
・知らない人の車には絶対に乗らない事。
・小さな怪我をした時は、知っている大人を呼んでもらいましょう。
・大きい怪我の時は、車で病院に送ってもらってもかまいません。
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と、こんな文言だ。
端末は様々な種類があり、携帯電話型、アクセサリー類型、文具型など、本当に様々だ。親が子供によく持たせるのは、落としにくく、使いやすい腕時計型や、ペンダント型が多いらしい。
例え子供達がパニックで連絡先を忘れても大丈夫な様に、家や運営の連絡先も帽子と服の裏に貼り付けてある。
子供とはいえ、あの少女は毎年手伝ってくれている、いわばベテランだ。異変に気づけなかったことに、案内係のバディをしている彼は自己嫌悪で内心舌打ちをした。
少女は今日もいつもと変わらず、見るだけで気持ちがいいくらいの飛び切りの笑顔をしていたのが目に浮かぶ。
体調でも悪かったんだろうかと思ったが、赤ん坊の頃から知っている彼女は、将来免疫がつくのだろうかと逆に心配になる程、病気に罹る事がなかった筈だ。
考えるより先に運営に連絡を入れる事が重要だ。
彼は何事も起きていないことを願いながら端末に指をかけた。
その"何事"の心配事は、その少女をある程度知っている人達ならば、誰もが真っ先に思い浮かぶ事だった。
読んでいただいてありがとうございます。^v^
はじまりました。
これからどうぞよろしくお願いいたします。
ドキドキ…