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〈Re;əЯ〉わたしは幸せで平穏な転生人生を目指したい!〜平穏の意味には個人差があります〜   作者: 簓(ささら)
第1章

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14 不穏な動き

誘拐未遂事件から5日目。


『シエル、事件の詳細について少しわかった』


 その朝、シエルは警察官のガーディからの連絡で、ヒメルを狙った二人組の犯行の意図が少し明らかになったことを知った。


 二人は元は中央都市の学園に所属し、騎士を目指していたが挫折。なまじ魔法を使えるため、犯罪まがいの仕事を取り扱う業者に目をつけられて、そのまま引き込まれたという。

 今回の依頼者は「魔法関連の特殊な裏機関からの依頼」としか聞いていないらしい。

 その組織の人間が口にした言葉の端々には、癒しの魔力を持った子供をモルモットにするとか、祀りあげるとか、生贄にするとか…とにかく犯人たちから出た情報はどれも曖昧だが非人道的な内容だった。

 そして街の人間からの情報から、新たな不穏分子が街に潜んでいるという事も知らされる。



『ここ数日、街の人間から複数情報が入った。怪しい奴らが街をあちこちウロチョロしてるらしい』


 ベテラン警察官のガーディは、長年の付き合いのあるシエルと端末の映像通信で新たな情報を伝える。


『奴らは確実にお嬢ちゃんのことを狙ってる。…ったく!どこから情報が漏れたんだろうな』

「はあー、本当に碌でもない事を考える奴らだね〜。心から辟易するよ」

『地域のみんな、あんた達親子が大好きだが、娘となると心労の重さも違うよな。まあ気晴らしにしかならないが、いつでも愚痴と相談に乗るよ』

「ありがとう。そう言ってもらえるだけで気持ちが軽くなるよ」


 なるようにしかならない。シエルはいつも本心を見せずニコニコしているが、やはり内心は重たい空気が渦巻いている。年嵩のガーディにはお見通しだ。


『で、これからどうするよ、対策は』

「はぁ…ずっとあの子を見ているわけにもいかないし、周りに協力を仰ぐとか、行動場所の安全確保をするしかないよねぇ」

『こっちも協力したいが、今は人員を割くのは難しいんだ。すまないな』

「わかってるよ。昔、あの子のことを話してから君たちには十分協力してもらってる。本当感謝してるよガーディ」

『けっ、そんな言い方されると、ケツが痒くなるわ!長い付き合いだ、礼なんていらんよ』

「うん。それでもありがとう」

『それじゃあな、気をつけて行動してくれ。また何かあったら連絡する』

「わかった」


 ガーディはいつものように、たこ焼きみたいにムッチリと頬肉を上げて笑顔を作り、通信を切る。

 長年の警察官の勘がザワザワ逆撫でられるように何かを感じ取っていた。




「先生、通信終わった?」


 シエルの部屋の外で待っているヒメル。朝ご飯の用意をみんなで一緒にしようと、昨日約束していたので、その話だろう。


「おはよう、ヒメル。今行くよ」


 シエルは端末をポケットに入れ、部屋を出る。




「ほらね、膝の傷も鼻の腫れも、もう良くなってるでしょ?」

「本当だ、内出血になってたのに、もう治ってる。ものすごい速さだな…」


 リビングの台所では、ヒメルとセイクリッドが、エプロンを着て雑談をしながら食材を出して待っていた。話の内容から、セイクリッドはヒメルの秘密の一つ、驚異的回復力の体質も知ったようだとシエルは悟った。


「お待たせ。今日は簡単に目玉焼きを作ろうか」

「うん!わたし目玉焼き作れる。セイクリッドは?」

「オレも訓練に出た時、野営で作ったことがあります」

「…この年で野営かぁ。そっかあ、うちでも作り方は変わらないからやってみよう。それからミニトマトだね。ヒメル、庭のミニトマトと葉野菜を三人分適当に取ってきてくれるかい?」

「はーい」

「セイクリッドにはこの調理器具の使い方を教えるよ」

「はい、お願いします」


 家庭菜園の畑はベランダを出た目の前だ。ヒメルはカゴを持ってリビングの窓を開け、置きっ放しのサンダルを履いて外へ出た。その間、シエルがセイクリッドに電子魔導調理器の使い方を教える。


 五分…十分……ヒメルが戻らないのをシエルが不安に思う。選ぶ時間や沢山取るにしても、時間がかかり過ぎている。気になって外を見にいく。


「ヒメル〜、もう戻っておいで〜。おーい…」


 ベランダから顔を覗かせ外を見るが、畑には誰もいない。高く生えた植物の影にもいる気配はない。シエルは外に出て背の高い植物をかき分け、彼女の居た場所確認する。


「……………」


 急に静かになったシエルの気配に、セイクリッドがリビングから顔を出す。


「シエル先生、どうかしたんですか」

「セイクリッド……やられたよ、まさかこんな近くで…」


 畑には、ヒメルが持っていたカゴを拾い上げ、絶望の淵に立たされたような顔をしたシエルが立っていた。


「シエル先生、警察に連絡を。端末は持たせているんですよね?」

「家の中だから、もしかしたら身に着けていないかもしれない…くっ、僕はなんて油断を!」

「先生、落ち着いてください。オレも探します」

「…ごめん、ちょっとパニクっちゃった。端末の充電は大丈夫かい?何かあったらすぐに連絡をするんだよ。決して無茶はしないこと、いいね?」

「はい。オレの端末は電力と光と魔力のトリプル充電なので、電池切れはまず心配ありません。行ってきます」


 セイクリッドは端末を手にし、玄関に行って靴を履く。

 ドアを開けると、あの黒猫の精霊がいた。


「え…君、どうしたの?」


 態々精霊が家の前に来るなんて、常識では考えられないことだ。


「ニャアーン」


 風の匂いを嗅ぐように、鼻を高くしてクンクン嗅ぐ仕草をする。そして走り出し、途中で止まって後ろを振り返る。


「ついて来いって言ってるの?ヒメルの居場所がわかるの?」

「ミャ」


 黒猫の精霊が短く鳴き、風のように軽やかに駆けていくのを、セイクリッドは迷わず追いかけた。




「どこまでいくんだ?!森を過ぎたけどヒメルは近くにいるの?」


 しばらく猫を追いかけていたセイクリッドが、森を抜けてすぐに尋ねる。

 走り続けて山が見える草原に出たところで、黒猫の精霊がぴたりと脚を止めて遠くの一点を見つめる。


「あの坂になっているところ、山の入り口に何かあるのか」


 再び黒猫の精霊が走り出す。その方向には、緩やかな山の裾野に凸凹した苔の生えた岩があり、洞穴を視界から隠していた。


「ここか」

「ニャン」


 ピョンと飛び上がって洞穴に入る精霊。洞穴の中に入り、セイクリッドは魔法で明かりを放った。


「ありがとう。この奥にヒメルはいるんだね。危険だから君は外で待っていていいよ」


「シャー!」


 急に精霊が立ち止まり威嚇をする。

 誰か来る。

 セイクリッドは身構えていつでも魔法を放てるよう、手に魔力を込める。


「誰だぁ!!」


 奥から出てきたフードを被った人物が大きな声で怒鳴り、洞穴に声が反響する。


「迷子か。ここは工事中なんだ。危ないし邪魔だから早く出ていけ」

「失礼ですが、確認の名札を見せてください。つけているはずですよね」

「は?!生意気なガキだな。ほら、はやく出ていきな」


 男がセイクリッドの肩を掴もうとした。それを躱してセイクリッドは奥へとダッシュする。


「こら待て!!おい、侵入者だ!」


 男が叫びながら追いかけてくる。奥に誰かいるようだ。

 奥に進むと、力士のような大きな体格の男がいた。鞘をつけた剣を持っている。


「坊主、痛い目に会いたくなかったら、大人しく捕まるんだな。そうしたら傷一つつけずに明日には必ず帰してやるよ…って、何だこりゃ!」

「しばらく凍っててください」

「なっ…!!」


 セイクリッドは最後まで言わさず、前回より魔力を込めて遠慮なく氷魔法を放った。そして後ろから追ってきた男も首を残して全身凍らせる。前よりも氷が分厚い。


「おい!つめてーな!!坊主、これどうにかしろ!!!」

「寒っ!お前があいつらがやられたっていう、魔法を使う子供か」

「あなた達はこの奥に誰か誘拐したんでしょう?犯行内容を白状して抵抗しなければ、罪は増えませんよ?」

「くそっ、動けない!なんて魔力だ!」

「静かに。電撃で気を失わせますよ」

「畜生、子供に一瞬でやられるなんてざまあないぜ!お前が入り口でアレを使って追い返してりゃ、こんなことにはっ!」


 仲間同士のなじり合いが始まり、セイクリッドはそれを完全無視して奥へと進む。


「セイクリッド!」


 ヒメルが彼を見つけ声を上げる。手足を拘束され、大量の屑魔石を入れて重たくなった木箱に縄で繋がれていた。

 セイクリッドはすぐに駆け寄りそれを外す。


「ヒメル、無事でよかった。怪我はない?」

「すぐ治る程度」

「!?…良くないけど、無事で良かった。先生に連絡を……っ!?」


 端末を取り出そうとしたセイクリッドが、突然膝をつく。


「どうしたの?!」

「…体が、急に…重たくなった」

「え?」

「早く、脱出を…」


 何が起きたのかわからないまま、ヒメルは急に動きの鈍くなったセイクリッドに肩を貸す。

 洞穴から出ようと歩き出したセイクリッドがふと後ろを振り返ると、互いを貶し合いながら首だけもがいている男達を閉じ込めた氷が溶けかかっていた。


「へへっ。氷が溶けたら待ってろ、すぐに捕まえてやるからな」

「セイクリッド、急いだ方がいいかも」

「ああ…わかってる」


 黒猫の精霊が宙に飛び上がってヒメルに擦り寄る。


「カイト、心配して来てくれたの?」

「ミャウーン」

「精霊が…ヒメルの居場所を…教えてくれたんだ」

「ありがとうカイト、助かったよ。ね、セイクリッド辛そうだよ?一体どうしちゃったんだろう」

「…多分、魔石結界だ…魔力を抑えて…動きにくくする…」

「そっか、だから私には効かないんだね」


 魔石結界。魔力の多い少ないはあれど、街の生物全てが影響を受ける。特に魔力が多い人ほど影響が強く出るのだろう。周りを見ると、虫や動物はほんの少し動きが鈍った程度だが、セイクリッドは話すのも億劫だという顔で酷く怠そうにしている。


「気に、するな…はやく、家に…」

「うん、そうだね。カイトは大丈夫?」

「ミャン!」


 精霊には何も影響なく元気そうだ。


「カイト、お願いがあるの。セイクリッドを家まで運ぶことってできる?」


 ヒメルが懇願すると、黒猫の姿をした精霊はクルリンと宙返りし、遠吠えのように鳴き始めた。


「ミャアアアアアアーーーーー!」


 洞穴のあちらこちらから、大人の拳大の光球が集まってくる。


「えええーーー!?」


 セイクリッドは光球に包まれ、消える。


「な、な、な!何?一体何が起こったの??」

「ニャーン」

「あ!カイト待って!」


 カイトはついて来いと言うように、走り出して後ろを振り向く。


「セイクリッド、一体どこ行っちゃったの…?」

 読んでいただいてありがとうございます!


 再びガーディ登場です。

 頼りになるヒメルを守る大人の一人です。

 犯人達の大掛かりな仕掛け、そしてセイクリッドは一体どこに?

 明日に続きます。


 ブクマ、評価、いいね、感想、誤字報告、

どれか一つでもいただけたらありがたいです。

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