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〈Re;əЯ〉わたしは幸せで平穏な転生人生を目指したい!〜平穏の意味には個人差があります〜   作者: 簓(ささら)
第1章

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11 精霊と魔石と増える秘密

 誘拐未遂事件から3日目の昼。


 ヒメル達は昼食と駄菓子をいくつか食べたあと、リュックに水と端末を入れ、近くの小さな森へ行くことにした。

 その森は子供の足でも診療所から30分もかからない場所にあり、地元の人間も余り立ち寄らない隠れた自然の観光名所の一つだ。


「ここだよ。こんな近くに森があるなんて、すごくいい場所でしょ?」

「自然が適度にあって、大らかな人がいて、いい街だね」

「セイクリッドの住んでるところは、どんな場所?」

「大きな街だよ。建物がいっぱいで整然としてる。建築物は芸術品みたいだと思う。普段は建物の中ばかりだけど」

「ふうん、今度見てみたいな」

「もし外出が許されれば、案内するよ」

「うん、嬉しい。いつか行くから案内してね。美味しいものも食べたいから、一緒に連れて行ってね」

「わかった、調べておくよ」


 森に足を踏み入れようとした時、黒い何かが足元を掠めて行った。ヒメルなら知っているかもとセイクリッドが尋ねる。


「多分、黒猫ちゃん」

「黒猫?」

「わたしが小さいころからいつもこの辺に居て、会いに来てくれるんだ。ここに迎えにきてくれたってことは、森の奥に入ったらゆっくり姿を見せてくれるんだと思う」

「賢くて変わった猫だね」

「ちょっと、ね」


 セイクリッドは含みのあるヒメルの言い方に疑問を持ちつつ、とにかく奥に行けばわかるだろうと、詳しくは聞かなかった。


 しばらく歩いて森の奥にいくと、幅数メートルのそれほど大きくない池と、真ん中に祠のようなものがあり、祠の上に黒い猫がいた。


「ニャーン」

「こんにちは、遊びにきたよカイト」

「ニャ!」


 カイトと呼んだ黒猫は祠から飛び降り、池に浮かぶ石畳の上を軽々と飛び、ヒメルの前に来るとピョンと地面を蹴って蹴って飛び上がる。

 そしてそのまま宙へ飛んだ。

 飛び上がった、ではなく、飛んだまま浮いているのだ。

 セイクリッドは目をぱちくりさせて驚く。


「!!」

「びっくりした?この子、精霊なんだよ」

「精霊って…人前には滅多に出て来ないのに」

「わたしが赤ちゃんの時に知り合ったの。だから仲良しなんだ。セイクリッドにもよろしくって挨拶してるよ」

「ニャン」

「信じられない…こんな事って…」


 ヒメルの秘密を一つ知る事が増えた。

 彼女に出会って驚くことばかりだった。


 "精霊"とは、この世界の魔法と深く関わっていて、魔法の源となる魔素というものを生み出すという説がある。

 人前には全くと言っていい程姿をあらわさないが、気まぐれに人を揶揄ったり、助けたりもする。世界の七不思議と言われるほど解明が難しい存在だ。

 さらに、精霊の上位に位置する"聖霊"という、誰がつけたのか同じ発音のややこしい名称の存在もいる。その為、聖霊は様をつけて呼ぶのが一般的だ。聖霊様はもっと出会うのが難しい。


「わたしの魔力が好きみたいで、ほら、回復魔法をかけると喜ぶんだよ〜」

「ゴロゴロゴロ……」


 ヒメルが宙に浮く精霊に触れ、ぼんやりとした柔らかな白い光が放たれる。喉を鳴らして目を細める黒猫の姿の精霊。


「ヒメル、本当に魔法が使えるんだな。実際に見ると精度の良さもよくわかる」

「魔法に詳しいんだね」

「たくさん練習させられた」

「…確か、十歳以上にならないと、魔法を使うのは体に負担になって良くないって聞いたけど」

「法律で決められているみたいだけど、オレはその枠外らしい。だから研究所に所属して、そこで暮らしてる」

「研究されてるの?辛くはない?」

「大変なこともあるけど、気がついたらそれが当たり前の事だったから」

「そっか…」


 ヒメルは返答の内容を決めかね、後でシエルに相談しようと考えた。

 二人と一匹は森の中を少し散策し、植物や生き物の観察をした後、また池のほとりに戻ってくる。


「カイト、そろそろ行くね。またね」

「ニャンニャーン」

「え?」


 別れの挨拶をすると、突然、黒猫の精霊が池の中央にある祠に向かって、風のように飛んで行った。十秒もせず、猫らしからぬ両前脚の使い方で、キラキラ光る何かを抱えて戻ってきた。


「これ…」

「ミャン」

「またくれるの?」

「ミャウ」

「ありがとう。大切にする」


 黒猫の精霊の頭をそっと撫で、とても嬉しそうに笑うヒメル。貰ったキラキラする何かをセイクリッドに見せる。


「セイクリッド、見て」


 ヒメルが両手に山盛りになった、至極透明なビー玉のようなものを見せた。


「魔石?しかも何個も。ええと、ちょっと待って…凄く大きいサイズもある」

「この街は屑サイズの魔石がたくさん埋もれてるけど、偶に大きいのが見つかることがあるんだよ」

「ヒメル、このサイズはたまに出るサイズじゃないよ。それに、小さな石だけど透明度が異常に高いよ」


 ヒメルが手にした魔石は、1センチ前後くらいから5センチ前後までの大きさの、水に入れたら完全に見えなくなるほど希少な透明度の物だった。


 魔石とは、魔法の源である魔素が、鉱物と融合したものと言われている。魔力や魔法を蓄える力があり、科学と魔法を融合させた製品によく使われている。シエルが検査に使っていた電子魔導医療機器もその仕組みに魔石が組み込まれている。

 魔石が出来るまでの工程は、いくつか種類があり、長年かけて地層に出来る宝石や石炭と似ている。一般的な魔石は色とりどりで、半透明に少し濁っている。大きく透明度が高い程、力を蓄えやすい。屑石(くずいし)とは5ミリにも満たないものを指し、数センチの大きいものだと、家が何個も買えるくらいの値段で取引されることもある。


「ヒメル…これはまずいと思う」

「え?」

「この魔石は誰にも見せない方がいい。シエル先生は知ってるの?」

「…前にもっと大きいのをもらって見せたら、後退(あとずさ)りして壁にぶつかって腰抜かしてた」

「だろうね」


 バツが悪そうに目を斜め下にそらすヒメル。セイクリッドはそのシーンを思い浮かべて、シエルの苦労に同情した。

 屑石以外の魔石は、子供がおいそれと簡単に手にできるものではない。ヒメルの秘密は何度も驚いたが、幾つもが頭の痛い隠し事だと改めて感じた。


「家のどこかに隠しておいた方がいい。この存在を周りに知られたら、誘拐犯どころじゃなくなる」

「先生にも言われた。最初は返しておいでって言われたけど、カイトに拒否られたの。部屋に咥えてきてその辺に転がして帰ることもあって…仕方なくここに来て貰ってたら、毎回両手にいっぱいくれるから、先生も諦めてるみたい」

「毎回?!いっぱいっ…?!」


 セイクリッドは表情を引き攣らせ、過去にシエルがもう考えるのをやめたんだなと理解した。ただでさえヒメルの魔法の秘密を守らなければならないのに、精霊と会える事に加え、国が管理する魔石保管庫に収めるべき魔石が大量にあるとは。この石を手にするだけで胃がキリキリ痛みそうだ。


「欲しいのがあったらあげる。どれがいい?」

「いいよ、ヒメルがもらったんだ。大切にしまっておくといい」


 子供の自分には手に余り過ぎる貴重品だと、セイクリッドは本気で拒否したかった。


「セイクリッドは信用できるから、カイトが姿を見せてくれたんだよ。遠慮しないでもらって」

「じゃあ…この一番小さい石をもらうよ」

「えー?もっと大きいのあるのになぁ…うーんちょっと待ってね」


 セイクリッドが屑石より微妙に大きいかどうかの石を選ぶが、それにヒメルは不満を漏らしその魔石を手にすると、ふーっと深い息を吐いて目を閉じる。すると、先程黒猫の精霊にかけた回復魔法の光よりも少し強い光が、魔石の中に放たれた。


「はい。これならお守りになるでしょ?」

「……回復魔法入りの魔石…魔石に魔法を入れるのは技術がいるんだ。魔法関連の店で見たことがあるんだけど、相当希少だよ」

「先生にはナイショにしてしててね。前に何個も作ったら怒られたから。…もっといる?」

「遠慮しとく。その魔法を入れた一番小さいのと、もう少し小さいカラの魔石一つだけもらうよ」

「え〜?ひとつだけでいいの?」


 とばっちりでシエルに怒られるのも嫌だし、普段もなるべく平穏な生活を脅かされたくないので、本当なら5ミリ以下の屑石が良かったが、ヒメルが魔法を入れたものに屑石サイズがない。彼女と精霊の好意を無下にするのも心が痛むので、無難に魔法入りと無しの魔石共に小さいものを選んだ。

 セイクリッドが選んだ5ミリちょっとのカラの魔石。せっかく少し大きめの魔石にも回復魔法を入れたのにと、ヒメルは不満そうだが、今は小さいので十分だ。

 例え屑石より少し大きい程度のサイズでも、球体で透明で魔法入りという付加価値がつくと、一般家庭の年収を軽く超えることもある。そんなもの子供が持っていたら、問い詰められて面倒なことにしかならないのだ。


「ヒメル、そろそろ帰ろうか」

「うん。じゃあカイト、またね!」

「ニャァーン」


 黒猫の精霊はくるりんと宙で一回転し、二人を見送る。

 ヒメルは魔石をリュックに詰め込みながら歩き出す。荷物に気を取られたヒメルが木の幹に足を引っ掛けて転ぶ。


「あたっ、」

「大丈夫?」

「あちゃ〜、やっちゃった。えへへっ」

「待って、血が出てる。座って膝を見せて」


 セイクリッドはヒメルのリュックから口をつけていない水のボトルを取り出し、彼女の膝の傷にかけて土を洗い流した。そしてポケットティッシュで軽く水と血を押さえ取り、ハンカチで傷を縛った。流れるような手慣れた様子にヒメルは驚く。


「セイクリッド、女子力高いね〜」

「訓練で慣れてるから」

「んーその話、後で聞かせてね」

「手は?」

「擦りむいてるけど、膝ほどじゃないよ」

「早く帰ってシエル先生に診てもらおう」

「うん…でも、これくらいなら明日には治ってるかな」


 聞き間違えをしたかなと、セイクリッドはもう一度聞き返す。


「え??…ごめん、今何て?聞き取れなかった」

「あ。シエル先生から聞いてなかった?わたし魔法が効かないせいなのか、異常に傷の治りが早いんだよね。これくらいの傷は2日もあれば跡形もなく完治するから。シエル先生にはセイクリッドに言ったことはナイショね」


 そう言ってヒメルは指を立ててナイショポーズをした。

 セイクリッドはまた秘密を聞いてしまったと少し気が重かったが、ヒメルと同じ様にシエルがしていたポーズを思い出し「親子だな」と思わず笑った。

〜新しい登場人物〜

☆黒猫の姿をした精霊

 ヒメルと仲良し。時々貴重な魔石を両手いっぱいにくれる。


 セイクリッドは観光兼お散歩のつもりが、ヒメルが精霊と国宝レベルの魔石をいとも簡単に手にしているという、とんでもない秘密を知ってしまいました。そして傷の治りも早いという秘密も。

 彼女は幾つの秘密を抱えているのやら、その分周りの人は隠蔽工作にとても大きな心労を抱えます。セイクリッドは子供ながらシエルに心から同情します。


 読者様に感謝です。

 明日も読んでいただけたら嬉しいです。

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