二章二十三話[雨にも負けず]
※挿絵あり
「――よし! 必要なもんは、揃ったな!」
目の前に並んだ食材や調理器具を眺めて、俺は頷く。
「うにゃ〜。走り回ったからお腹ペコペコにゃ……ご飯、はやく〜」
「まあ、待てって」
雨は落ち着いてる。今がチャンスだ。
急かしてくるレイをあしらいながら、俺は早速準備に取り掛かる。
「さ〜て……んじゃ、いっちょやりますかね!」
調理台の前に立ち、腰の包丁を引き抜く。
対するは、壊れた屋台を駆けずり回ってかき集めた食材達。
島の人から分けてもらったその中から、まずは……コイツの出番――
『――料理人スキル。食材鑑定Lv4、発動』
アイテム名:キャベジー
種別:食材
可食適性:〇
毒性:無
調味ランク:B
効能:HP小回復、水耐性小向上
白い葉に緑の筋があるキャベツっぽい野菜をまな板にドンと置く。
「オラオラオラァ!」
掛け声と共にキャベジーを粗めに刻む。
ザクザクと小気味いい音が、雨音に混ざって広場に響いた。
「――おっ、やってんな! 今度はなに作ってんだ、兄ちゃん?」
「まあまあ、それはできてからのお楽しみ……って」
突然の声に振り向く。
すると、そこには見覚えのある人物――
「――ギリアンさん! 来てたんですか?」
「まあな! 船長さんから島が大変だって聞いたもんでよ!」
そう言ってギリアンは、ぐるりと広場を見渡す。
「……ったく、派手にやられてんなぁ」
「ええ、まあ……でも、大丈夫です。皆手伝ってくれますし、たった今加勢も来ましたから」
俺はニヤリと笑ってギリアンを見る。
「へっ! そりゃあ、この島の連中にゃうちの商会も世話になってるからな。ま、恩返しってやつだ! 人手が必要なら手伝うぜ!」
「無料で?」
「格安でな……って、冗談! 冗談だよ! んな顔すんなって兄ちゃん!」
流石の商売魂に思わず苦笑い。
「商人が言ったら笑えませんって」
「だっはっは! 悪い悪い……んで、何作ってんだ兄ちゃん?」
「ソレ! レイも気になる!」
飯の話題を聞きつけて割り込んでくるレイに、本日二度目の苦笑。
「まあ、見てろ。すぐ出来っから!」
さて、調理再開だ。
まず大きめのボウルを用意。
そこへ、この小麦粉っぽい――カムギ粉と玉子、水を加えて混ぜる。
「山芋……はねぇか」
という訳で、このジャガイモみたいな野菜をすりおろしてボウルに入れ、更に混ぜる。
次に刻みキャベジー投入!
これで生地は準備完了だ!
「何種類か欲しいよな〜……」
同じようにしたボウルを複数用意。
「なあ、嬢ちゃん。兄ちゃんはなに作ってんだろうな?」
「知らんにゃ! でも、ご主人なら、きっと美味しいやつにゃ!」
外野の声を背景音楽として、更に作業を進める。
いよいよ、コイツらの出番だ――
『――料理人スキル。食材鑑定Lv4、発動』
アイテム名:クラーケン(幼体)
種別:食材
可食適性:〇
毒性:無
調味ランク:B+
効能:HP小回復、筋力小向上、水耐性小向上
アイテム名:笛吹き貝
種別:食材
可食適性:〇
毒性:無
調味ランク:B
効能:HP小回復、防御力小向上、水耐性小向上
アイテム名:白豚バラ
種別:食材
可食適性:〇
毒性:無
調味ランク:B+
効能:HP小回復、筋力小向上
アイテム名:コーマッツ印の濃厚チーズ
種別:食材
可食適性:〇
毒性:無
調味ランク:A
効能:HP小回復、MP中回復
屋台の人達、いいもん使ってたんだな〜。
錚々《そうそう》たる面子に、思わず笑みがこぼれる。
「さてさてさ〜て」
何も小細工はいらない。
目の前に並んだ食材を、全てざく切りに。
種類ごとにに分け、それぞれ別々のボウルに混ぜる。
それで、準備は整った!
「こっからが本番だ!」
屋台で使ってた鉄板。
予め熱しておいたそれの元へ、ボウルを持って立つ。
鉄板の上に落ちた雨水が玉状になって弾け飛んだ。
「よし!」
温度は完璧だ。
屋台の人に借りたヘラっぽい調理器具を装備。
「――いくぞ!」
ボウルの中身を、油を引いた鉄板へ一気に流し込む。
――ジュゥゥゥッ!
「なんだなんだ!?」
「すっごい音にゃー!」
湧き上がる歓声。
油と生地が弾ける音が、雨音を押しのけて広場に響いた。
生地の焼ける香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
「にゃ〜、いい匂い!」
「手ぇ出すなよ! 火傷すんぞ!」
一気に三枚、ヘラで形を整えながら焼いていく。
焦らず、待つこと数分。
「……そろそろ、かな?」
ある程度生地が固まったのを確認して、最終段階。
「見せてやるよ、俺の力をな!」
両手にヘラを持って生地の下へ潜り込ませる。
そして、
「あらよっとぉ!」
鉄板の上で宙を舞う生地。
天地がひっくり返ったその後には、見事な満月が出来上がっていた。
最後にソースだ。
これも屋台から借りてきた――
『――料理人スキル。食材鑑定Lv4、発動』
アイテム名:クラーケンソース
種別:食材
可食適性:〇
毒性:無
調味ランク:A
効能:HP小回復、筋力小向上、水耐性中向上
磯の香りと酸味のある、ちょっと辛口の黒いソース。
これを、豪快に焼き上がった生地にぶっかける。
「やっぱ面白ぇな! 船の時といい、こんなの見たことねぇよ!」
「にゃははー! レイのご主人は凄いにゃ!」
などと、観客の方々が話している間に――
「――出来たぞ! 俺特製、三種のお好み焼き。プレヌメール風味だ!」
俺が告げた瞬間、
「おおおお! 待ってたぜ!!」
「早く寄越せにゃーー!!」
爆発みたいな歓声が広場に広がった。
「落ち着けって! 順番な! 順番!」
押し寄せてくる人の波をなんとか制しながら、俺は焼き上がったお好み焼きを切り分けていく。
「レイが一番乗りにゃ!」
「待て、まずは手伝ってくれてる人達からだ!」
「おっしゃあ!」
「ありがてぇ!」
シュンとなったレイを尻目に、ぞろぞろやってきた大工達へお好み焼きを配る。
少しずつ皿に盛られた三種類。
大工達がそれを口に運ぶのを、俺は静かに見届けた。
――ぱくっ。
さて、感想は。
「う……っ、うめぇ! うめぇぞ!」
「なんじゃこりゃ、肉もイカも……最高だぜ!」
「チーズのやつ、反則だろこれ……!」
笑顔が広がった。
雨のことなんて忘れるような、晴れやかな空気が広場に充満していく。
「レイも! レイも食べるにゃー!」
「はいはい、熱いから気を付けろよ?」
皿を受け取るや否や、レイは熱々のままかぶりついた。
「はふっ……はふっ……っ! 熱っ、うまぁぁ……!」
「だから冷ませって……まあ、いいや」
涙目になりながらも手が止まらないレイを、俺は苦笑しながら見ていた。
「兄ちゃん、こっちにも頼む!」
「あいよー!」
切って、配って、また歓声。
気が付けば、さっきまで復旧作業してた連中も、商人達も、島の人達も集まって――全部ごちゃ混ぜになって、笑っていた。
「……流石、じゃのう」
ぽつりと、呟く声。
見れば、いつの間にか船長が目の前に立っていた。
俺は静かにお好み焼きを切り分け、船長に渡した。
「ふぉっふぉ……雨の中で食う飯も、なかなか風情があるもんじゃ」
「そうですね……」
空を見上げる。
相変わらず、雨は降っている。
でも、不思議と――さっきまでみたいな重さは感じなかった。
皆の熱気と笑い声が、それを押し返しているみたいで。
「美味い……ふんわりとした生地の食感にコクのあるソース……それぞれの素材の良さを最大限に生かしとる。やはり、ニックのやつが認めただけはあるの」
「それは、よかったです」
鉄板の前で、俺は小さく笑った。
「皆が笑っとる。いい仕事じゃわい」
「まあ、それが料理人の役目ですから」
「ふぉっふぉ、そうかね」
俺にできるのは、それだけだ。
そして、まだ足りない。
この島で、笑顔にしなきゃいけない人間が、まだ残ってる。
だったら、俺は――
「――ご主じーん! 大工さんがテント作ってくれたにゃ! こっちで食べるにゃー!」
「うわ! ちょ、引っ張んな! こら!」
唐突に戻ってきたレイに連れられ、半ば強制的に俺も一休みに入る。
すぐそこに建てられた簡易的なテント。腰掛けたその時――
「――あれ? その皿は……? 何個か余ってるにゃ? レイが食べていい?」
「いや、これは駄目だ。後で届けるんだからな」
「へ? 誰ににゃ?」
きょとんとするレイを尻目に、俺は自分のお好み焼きに齧り付いた。
少し酸味のある味わいが口いっぱいに広がる。
「なあ、レイ。お好み焼きの良い所、知ってるか?」
「そんなの簡単にゃ! 美味しい所!」
「はは、まあそれもあるけどな……」
コイツの一番良い所は、
「“冷めても美味い”って所さ」
そう言いながら、俺は残しておいた“二人分”の皿に目をやる。
テントの外の雨音が、少しだけ穏やかになった気がした。
次回「雨上がりは遠く」
乞うご期待!




