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インバース・クロニクル ~逆転料理人は異世界を救ってとっとと帰る~  作者: 夜長月虹
第二章【甚雨の邂逅編】

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ニ章一話[闇の中にいる]

『――市内の住宅地で発生した大規模な火災により、多数の死傷者が確認されています。現在も懸命な復旧作業が続けられていますが……』


 どこからともなく、無機質な声が響いている。

 ここは……どこだ?

 ぼんやりとした意識、妙な浮遊感に包まれながら、俺は周りの景色を見渡した。

 白い天井と壁、白いベッド。備え付けのテレビでは、アナウンサーらしき女性がニュースを読み上げている。

 ピッ、ピッ――と規則正しいリズムで鳴る機械。そこから伸びる無数のチューブが、ベッドに横たわる“誰か”の体へ、これでもかと繋がれているのが見えた。


 ――俺だ。


 そこにいたのは、紛れもなく“金田凌平としての俺自身”だった。


 ――帰ってきた?


 病室。見慣れた現代的な部屋の雰囲気に、俺は戸惑った。

 なにかが、おかしい。

 この俯瞰するような視点。

 なんで、そこに、俺がいるんだよ? じゃあ……ここにいる俺は、なんなんだ?

 ここは、現実なのか……?

 訳が分からなくて、俺は頭を抱えた。


「――りょうちゃん……」


 声が、静かな病室に響いた。

 ハッとする。

 そこにいる女性。ベッドの傍で、じっと俺のことを見つめる彼女は――


 ――“優莉ゆうり”?


 間違いなく、優莉だった。

 会いたかった人。いつも笑顔で、陽だまりのような温かさを放っていた彼女。でも、今は日が落ちたように、疲れ切った表情でそこに座っていた。


 ――優莉! 優莉ッ!


 叫ぶ。声の限り。

 だけど、反応がない。

 優莉はこちらに見向きもせず、ベッドにいる俺の手を握ったまま、微動だにしなかった。


 ――優莉、聞こえないのか?


 だったら、と俺は手を伸ばす。そこにいる彼女の肩に触れようとして、しかし――それは叶わなかった。

 当然のようにすり抜けた己の手を、思わず引っ込める。


 ――畜生ッ!


 なんでだ! 俺は、ここにいる!

 すぐ傍にいるのに、なんで……っ!


 声は届かない。触れることもできない。伝えたいことがいっぱいあるのに、なに一つ伝えられない。

 まるで、幽霊にでもなったみたいだった。


 ――クソッ! せっかく会えたのに……!


 なにもできない。

 ここにいる俺も、そこにいる俺も。

 もどかしさだけが、胸に積み重なっていった。


「……待ってる」


 ポツリと、優莉が呟いた。


「私、待ってるから……だから、お願い……!」


 悲痛な声が、俺の心を貫く。


「神様……りょうちゃんを、助けてください……!」


 縋るような彼女の声に、俺は――


 ――ごめんな。


 こんなことになって、本当にごめん。

 俺、帰るから……必ず、帰るからな!


 次の瞬間――視界が黒に染まった。

 突然テレビの画面を消されたような暗転。


 ――優莉。


 また会おうな。


 意識が、闇に呑まれて消えていく。

 そのさなかで――


『――勇者を探せ』


 微かに、そんな声が聞こえた気がした。

第二章、開始!


次回「潮風の出会い」

乞うご期待!


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