名前
少年の一人称視点です。
一応終わりです
神殿が崩壊した。
なんで崩壊したんだよと混乱しつつ。
僕と彼女は無事で。祭壇と女神の像すら傷一つなかった。申し訳程度にあったステンドグラスは割れていたけど。
あれからかなり時間が経っていたのか星と共に満月の光が照らされていた。
月が綺麗だと、初めて思った。
何故ならあの落石事故は満月の日に起きたから。
まあ、今となっては事故なのかすら疑うけど。
彼女をちらりと見ると、女神像を眺めていて。
何が面白いのだろうかと僕は思った。
あの光が収束して彼女の胸に入ったっきり、彼女はずっと女神像を眺めていた。
「アルバ」
不意に彼女が呟いたとき、自分の中の何かがすっぽりと無くなった気がした。
なんだっけ……
呟いた言葉の意味を探る。そして思い出した。
───そうだ、僕の名前だ。
理解するのに時間が掛かった。
あれから名前を一度も呼ばれていなかったから自分の名前を忘れていたからだった。
彼女の名前はずっと覚えてたのに。どうして自分の名前を忘れてたんだろう。
まあ自分の名前なんてどうでもよくて。
彼女は僕の方を見るように身体ごと笑みと共に振り向いた。
振り向く際の靡いた髪が光って見えて。
月の光で照らされた彼女はとても綺麗で。
笑っているその表情が美しくて。
見惚れてしまって息をするのを一瞬だけ忘れてしまった。
自分の顔が熱くて恐らく……いや絶対に僕の顔は真っ赤だ。
「……レナ」
僕は彼女の名前──レナの名前を呼んだ。
ずっと呼びたかった名前。頭の中では何度も呼びかけてたのに、口に出せなかった彼女の名前。
レナは笑みを深めて噛み締めるように目を瞑っていた。
レナが目を開くと、先程とは違った優しい目をしていた。
口が勝手に開き、俺は無意識に何かを喋ろうとするが喉が掠れて声が出ない。
それが僕にとって情け無くて恥ずかしかった。だから顔を伏せてしまった。
こつこつとゆっくりとだが、僕に近付く足音がして。顔を上げると温もりを感じた。布が頰に擦れたことで腕を首に回し、レナに抱き締められているのに気付いた。
「レナ……?」
「アルバ、アルバ」
驚いて名前を言うと、レナは何度も何度も僕の名前を胸に刻むように言っていて。そして僕はレナの腕が震えていることに気付いた。
数年無かったのに突然行使したらそうなるだろうと、思ったがこの震えは僕が思っているのと違う気がした。
拒まれるのを恐れている気がした。
「ずっと好きだった」
「……」
「だけど忘れちゃって」
「……うん」
「今思い出したの」
「…………ぅん」
その言葉を聞いて目頭が熱くなる。
相槌を打つが、段々と声が出なくなる。
僕も、好きなのに。
いつも出るのは掠れた声で。言葉になってなくて。
だけど、今度こそ───
「ぼくも…………ずっと」
視界が歪むのを感じながら僕は言った。
「好きなんだ」
はっきりと口に出せれて安堵する。
すると告白の返事かのようにレナの腕に力が入った。
僕も自身の腕をレナの腰に回して抱き締める。
そして自分が無意識に出た言葉は「ありがとう」だった。
二人の名前出ましたね。