聖女
少女視点
少女の視界が光に染まった。
思わず呆けていると少女の脳に記憶が濁流のように押し寄せた。そして思い出した。
少年の正体と自分のことを。
少女は彼のことが好きだった。だが聖女という立場上口外することも、会うことすら難しくて。
だからあの日、少女は我儘を言った。
彼を護衛にして欲しいと。
それが仇となった。
落石で彼が彼女を庇って彼の脚が下敷きになった。
歯を食いしばりながらも漏れ出ている苦痛の声に少女は焦った。死なせたくないと必死に岩を退かす。
ぐちゃぐちゃになった脚を見て顔を青ざめながらも少女は自身の固有魔法を使用した。
少年の止めろという声が聞こえた気がしたが、お構いなしに少女は使った。
ばきばきと少女の脚から異音が鳴り始め、少女は悲鳴を上げた。痛みによって少女は気絶した。
次に目を覚ましたのは、神殿の祭壇の上だった。
そのときにはもう脚は治っていたが記憶を失っていて、自身が誰なのかさえ分からなかった。
とある一家に拾われ、少女は安心した。何かを忘れていると脳の片隅に置きながらもそれを知らないふりして。
少女は気付いていた。自分はこの一家に軟禁されていると。優しく接してくれる義両親は私を利用しようとしてると。
だけど気付いてないふりをした。
だって縋っていい場所なんてここしかないのだから。孤独なんてもう二度と味わいたくないから。
そして15の誕生日が近付いたある日に義両親は少年の手によって殺された。
一家の本性を知らなかった少女は虚無感に襲われた。
少女の中にある何かが欠けた。
それが感情だと気付いたのはあの日から数日後で。
頭に血が昇るような怒りや哀しみを感じなかった。だけど胸に以前にはなかった何かが有った。でもこれを感じたことは何度かあった。
その正体がはっきりしたのは少女を介護してくれている女性──メイのおかげだった。
メイのおかげで彼の顔を直視できなくなったが。
ある日の夜に少女は窓の外を眺めていると、コンコンとノックする音がし暫くするとドアが開いた。
要件は知っていた。
神殿の件。
少女は神を信じるような環境ではなかったので、何も思わなかった。それより少女にとっての問題は、彼に返事をしなければならないことだった。
無事に話せたので後は準備だけだった。それも少女には準備するものなど殆どないので引き続きリハビリをする。
出発の日にメイが見送りに来たが、心なしか目をキラキラさせていたのは気のせいだと思いつつ。
向かっている最中はずっと大事に横抱きされていたので顔を被いたいのに手が無い少女はできなくて。おまけに若干酔ってリハビリした意味はないのでは?となったけども。
そして神殿に着いた。
回想が終わり、少女の背後から声をかけられた。
ただ真っ白な人型で神殿で聞いた女性の声だった。
『ごめんね、あたし達はこんなことしかできなくて』
「……」
『彼の願い、あたし達の褒美を貴女に』
「え……?」
一体どういうことだ?と疑問に思う前に光が収束し、神の褒美──少年の願いがこもった光は少女の胸に入った。
神殿は崩壊した。
女性の名前出ましたね