過去
二人の過去話
同じ箇所は直せない。
少年は神から直々に言われた。
十年前、少年と少女はお使いで森に赴いていた。
少女は聖女だと持て囃され、年齢も力も申し分ない少年が護衛に任された。
だが、道中で落石に巻き込まれた。
少年は少女を庇ったことで脚が潰れた。
激痛が走るが、歯を食いしばり声を我慢して少年の固有魔法である風を操り、岩を退かす。
すると少女が少年の潰れた脚に手をかざし、固有魔法を使用した。
少女の固有魔法は治癒──ではなく、傷の転移だった。だからか──
「は?」
ぐしゃりと生々しい音が少女の脚から鳴り響いた。
一瞬の呆けた声の後に激痛による悲鳴。
「馬鹿……やめてくれ」
制止の声が少年の口から漏れるが、彼女の悲鳴は鳴り止まない。
少年は足を引きづりながら少女の元へと向かう。
嗚呼。
これが祝福という名の呪いか。
これのどこが神に選ばれた子だ。
これのどこが神の子だ。
何が聖女だ。
やっぱり普通の女の子ではないか。
彼女を庇った意味がないじゃないか。
早く彼女を連れて森から出ないと。早く潰れた足を治さないと。早く神殿に行かないと。
今少年が着ている服を脱ぎ、少女の潰れた足に当てて止血しようとするが、すぐに真っ赤に染まる。
少女の顔が青白くなっていく様に、焦ってしまい思考が乱れる。
幸いにも森から神殿までの距離は短い。
その後は無我夢中だった。
だからかいつの間にか神殿に着いていた。
神殿の中は特徴的なステンドグラスに祭壇とその後ろにある女神の像だけで。
祭壇には少女が寝ており、潰れていた足が治っていた。
安心すると同時に重厚な声が響き渡った。
少年と祭壇で寝ている少女以外周囲には誰もいなかった。
『彼女の記憶と魔力を引き換えに足を直した』
「……は?」
つまり、今まで築いてきたことが全て無駄になるということなのか。
でも彼女が宿命から逃れられるならいいのかもしれない。
『彼奴の莫大な魔力のお陰で修復できたのだ。人形は二つと無い。二度はないと知れ』
「何言って……」
『神からしたらお主らは玩具だ。気まぐれで慈悲を与えたに過ぎん』
『そうだ、この二つ気に入ったから祝福を授けよう』
パキンという音が鳴ると同時にケラケラと笑う声が二重になり、少年の脳に破裂しそうな程の激痛が走った。
『彼奴と再び訪れたら褒美をやろう』
声は無くなり、ドアが開く音がした。
そこから先の少年の記憶は無く、少女とはいつの間にか離れ離れになっていた。
目を覚まして気付いた。
あの日から神によって勝手に身体に見合わない、固有魔法が変質する程の魔力量をぶち込まれて聖人にされていた。
神のせいで少年の感情が殆どなくなった。
だけど少女に対する恋心だけが残っていた。
だからそれだけを糧に生きてきた。
少女は魔力が無くなったせいなのか、固有魔法が使えなくなった。そして聖女としての権能を失い、いつの間にか消息不明になった。
消息不明になった少女を探すが、少年の足だけでは見つからなかった。
七年が経ち、十五歳になった少年は成人になった。
成人になったことで捜索の幅が広がり、七年間消息を掴めなかった少女を見つけた。
一カ月掛けて馬に跨り、少女が住んでいる屋敷に辿り着いた。
そして───
少年と少女の目が合い、呪いによって感情を転移させられた。