少年
ただ少女を助けたかった。呪われていたから。
だけど彼女は屋敷に暮らしており、偽りの家族がいて。その家族は少女を監禁という形で育てていた。
一体何故?呪われた少女なんて忌み嫌われるだろうに、どうしてそいつらは少女を養子にとったのか。偽善?身代わり?と疑問が次々と湧く。
自分のこの行為こそ偽善では?という疑問を脇に置いといて。
少年は調べた。
少女は禁術の生贄に捧げる物にする為に養子にとり、十五歳になるまで育てている最中だった。
だから少年は少女が生贄に捧げられる前にと、動き出した。
少女の屋敷までは一ヶ月程かかる。そして少女の誕生日は後一ヶ月ちょっとなので早速旅の準備をし、少女の元へと旅に出た。
一ヶ月が経ち、少女の家へと辿り着いた。
警備は厳しかったが、少年の能力で斬り刻んでドアを蹴破り行く道を阻む人間を斬り殺しながら廊下を歩く。
少年はなんでも斬り刻む固有魔法を持っている。だがその能力は生まれついてのものではなかった。それを本人は上手く扱えずそれが仇となったのか──
少女まで斬り刻んでしまった。
偽りの家族を斬り殺した際に白髪が血に染まった少女が視界に入り、何かが弾けたようなパチンという音と共に逃げてほしくないという気持ちが昂った。やばいと思った時にはすでに遅かった。
四肢を斬ってしまった。
ただ少年は呆然とした。
自身の吐息が漏れる音がする。
あぁ、やってしまった。
少女から声がした。
息をしている。
彼女はまだ生きている。後悔や絶望するのは後だ。
そして少女を背負って近くの無断で創られた人気の無い小屋に入り、少女の治療をした。
少女が目を覚ます前に場所を移し、少し街から離れた建物を買って暮らした。
少女は目を覚まし、暫くして少女の生活を補助する為に女性を雇った。
その女性は代々義肢装具士の家系で何故かここ数年は仕事が無いらしく、金銭に困っていたところを雇った。
目を覚ました少女の表情は無く能面のようで、少年に罪悪感が押し寄せた。
だが少し経つと、女性だけには感情を向けているらしく、それを愚痴を吐きつつ逐一報告する女性に、少年は羨望と若干の嫉妬を抱きつつも数年が経った。
この数年で分かったのは引き取られる前の記憶がないということ。
だからあの出来事を知らなかった。
ある日、女性越しに少女が質問してきた。
どうして私を生かしたのか?と。
少年は悩んだ。自分と彼女の関係性を話すべきなのかと。ふと当時の状況を思い出す。
少年の正体を知っていたのか偽りの親は絶望した表情になっていた。そして少女は──
先を見ていた。生きるという意志を感じた。生きようと足掻いていた。それに僕は……
これで生かさない理由があるのだろうか。
「生きる目、死にたくない目をしていたからかな」
「……そうですか。あ、そうだ」
「ん?」
「もうすぐ義足ができます」
「よかった。ありがとう」
雇ったときから頼んでいた依頼が完遂されることに安心する。
そしてその日の夜に質問に対する答えを改めて答えるつもりで少女の部屋に行った。
少女は相変わらず表情はなかったが、数年前と違い、少年を認識して見つめていたので内心でほっと安心した。
「質問聞いたよ。何故君を生かしたかった話だよね」
少年は少女の空色の瞳を見つめる。
「君は生きようとしてたじゃないか。君をその状態にしても君の瞳は変わらなかった。それに僕は……あ」
言い終わる前に少女がそっぽを向いたので口を閉じる。
少女の行動に当たり前かと、少年は苦笑した。そして無意識に呟いた。
「僕は君に呪われたから」
少年はハッと我に返った。
失言した。
少女を見ると先程と変わらずそっぽを向いたままなので聞いてないかと思い、謝罪して退室した。
◇◇◇
数日後、少女用の義足ができた。
女性が義足ができたと少女に報告をすると、僅かだが驚いた表情をしていたらしい。
義足の装着の仕方は簡単で、脚に嵌めて魔力を込めるだけ。魔力を込めると義足が脚と結合し、暫くすると義足が馴染んで生身の脚のように歩けるようになるという仕組みだ。
装着すると、肌と義足が馴染み始め継ぎ目が見えにくくなった。一見するとほぼ脚だが、関節が球体関節なので目を凝らして辛うじて義足だとわかる程度になった。
女性が前から思っていた疑問が一つ。
「どうして義足だけなんです?」
そう、少年が女性に頼んだのは両足の義足だけなのだ。
両手はどうするのかと疑問になるのは当然で。
「……神殿に行くつもりなんだ」
「ということはそこで腕を治してもらうということなのでしょうか」
神殿はどんな傷も癒すことができる。たとえその部位が欠けていても。だがデメリットもあった。
何故義足を造らせたのか。
「昔同じような怪我を彼女は負ったから」
神殿で一度治した箇所は再び治せないのだ。
過去を思い出すかのように遠くを見つめながら。
「本当は僕が受けるべきだったんだけどな」