少女
少女は見た。
家族が黒髪金眼の少年によって惨殺される様を。
少年の手には何も持っておらず、家族がなにか口に出す度に切り刻まれていた。
その返り血が少女の白髪にピシャリとかかる。そんな事も気にせず少女は自身の空色の瞳で少年を捉えた。
互いの目が合うと、時が止まったような感覚に囚われた。だがそれも一瞬で。
少女は少年によって四肢を失った。
家を失い、少年に拐われた。
何故私はまだ生きているのだろうと、疑問に思う。
何故少年は私を殺さなかったのだろう。
私はこんな気持ちに気付きたくなかったのに。
何故私は家族を殺した少年に惚れてしまったのだろう。
恨むべきなのにそんな感情も出ない。家族を殺された哀しみも湧かない。四肢が無い状態で楽しいことなんてできないし、ずっとベッドに磔にされているのだから嬉しいことなど全く無い。だから今の少女には何もない。
舌を噛みちぎって死ねれば良いと思う。だけど少女はできなかった。
何故なら、家族が生きた証が無くなるから。
少年は、女性を雇って排泄処理をしてくれるし食事もくれるが食欲が無いので食べれない。食べてもすぐにもどしてしまう。
そんな生活を送っていた。
それから数年が経った。
少女は、少年を見る度に胸が苦しくなるようになった。少年を思い出す度に声が出なくなるようになった。
恐怖で喋れなくなっているのかと思っていたら違うみたいで。なんだろうと、現在少女の無い脚をじっと見つめている女性に聞いた。
「あの人が会いに来る度に胸が苦しくなる」
すると少女のことを感情がなくて不気味と嫌っていた女性は一変して、目をキラキラさせながら言った。
「恋じゃないですか?恋ですよきっと。いえ絶対恋です」
彼女は恋愛脳だったらしい。
そして少女は恋とはなんぞやと、首を傾げた。
女性は少女が恋愛を知らないと気付き、ペラペラと話し出した。恋愛小説の台詞を引用して。
「──というわけです!分かりましたか?」
「わかったけども」
私はこんな感情を持ってて良いのだろうか。
だけどこの感情は少年にだけはバレたくない。
どうして私を生かしたのか、と雇った女性越しに聞いてみた。答えは次の日に返ってきた。
「生きる目、死にたくない目をしていたからかな。らしいです」
「???」
思わず首を傾げた。
いったいどういうことなのだろう?と。
誰でもみんな死にたくないと思う筈なのに。
両親は思わなかったのだろうか。でも少年に命乞いをしていたのを知っている。だから少女は分からなかった。
女性はいつも通り仕事が終わり、いつも通りの時間に帰って行った。少年が少女の部屋にやって来た。
「質問聞いたよ。何故君を生かしたかった話だよね」
少年の金の瞳が、少女の空色の瞳を射抜く。
「君は生きようとしてたじゃないか。君をその状態にしても君の瞳は変わらなかった。それに僕は……あ」
少年が言い切る前に少女はそっぽを向いた。否、向いてしまった。少年から顔が見えない様に。
少女も困惑する。
どうしてこんな行動をしているのかと。
少女の行動に少年は苦笑する。そして独り言のようにぽつりと呟いた。
「僕は君に呪われたから」
その一言が少女の脳にこびり付いた。
一週間よろしくお願いします