アナタガイタカラ…
私は、「ただいま」って言ったら、「お帰り」が返ってくる家庭に、憧れていた。
「……ただいま…」
返ってこないって解ってはいるケド、期待して…。
自分が帰宅した事を告げるも、やっぱりお出迎えの言葉は聞こえてこなくて、××は力無く笑った。無理矢理に笑みを浮かべてないと、己を保てる状況では無かったからだ。
どんなに辛い事が身に降り掛かっても、〇〇との絆を信じていたから、耐えられた。
それが、生きる糧でもあった。
例え、ずっと昔の出来事で、彼女が忘れていても…。いつか、あの頃の彼女が戻ってくる事を願って……。
『馴れ馴れしい呼び方をするなっ!!! 』
忘れられてもイイと思っていた。
そう思っていたのに……実際〇〇に、もうアレは過去の事だから…と言われたみたいに突き放されると、胸がズクリと痛んだ。
迫る男達の汚い手。何度も〇〇に助けを求める声を上げたって、彼女がやってくる事は無かった。
“たすけてほしい時は、たすけをもとめたってイイんだよ? ”
小学生の頃、家に帰っても誰もいないので、××は近所の公園で時間を潰していた時、見知らぬ男が近付いてきて、一緒に遊ばないか? と誘ってきた。その声が、纏う雰囲気が、おどろおどろしくて、「一人であそんでいたいのでゴメンなさい!! 」と、子供なりに知恵を絞って、角が立たない様に断るも、男はいやらしい笑みを浮かべて、遠慮なんかしなくてイイから、と××の手を掴んできた。
「ぁっ……やっ……」
上手く、声が出せない。叫び声を上げたいのに、少し離れた場所で遊ぶ子供達に助けを求めたいのに、ちゃんと声を上げられたとして、誰も助けてくれなかったら? という、見捨てられた時の気持ちの行き場の無さに恐怖を抱いて、××は声を上げる事を止めた。
その様子を認めた男は気を良くし、掴んだ侭になってる少女の腕から、少し力を緩めた時ーー
「しねっ!!! ヘンタイっっ!! 」
絶叫とともに、男は何者かによって後頭部を殴られ、その場に倒れ込んだ。
「っっ…ぅうっ…」
「!?」
「なにしてるの!? いくよっ! 」
先程までのドスの利いた声音とは違い、柔らかい口調でそう言った人物は、××の手首を掴んで、走った。その為、××も一緒に走る事となる。
××が通う小学校の校門前まで辿り着くと同時に、手首を掴んでいた人物は、パッと手を離し、
「たすけてほしい時は、たすけをもとめたってイイんだよ? 」
と言った。
どうせ誰も助けてくれない…。危険な目に遭うなら、自分だけでイイ…。なら、無駄な体力を使わず、されるが侭でイイや、と抵抗する事を諦めていたら、これから起こるであろう最悪な出来事を、同じ学校で同級生だと判明した〇〇は変えてくれた。
そして、自分を大事にする事、その次に大切な人を大事にする事、と〇〇なりの命の偉大さや、大事にしなきゃならない事を説き伏せて、
「わたしと【トモダチ】になろ? それでさ、つらいコトはいっしょにわかち合って、楽しいコトはいっしょにもっっっと楽しもうよ? んで、わたしたちのしあわせオーラにあてられた人たちが、自分たちもこうなればしあわせになれるんだ! ってなって、みんながなかよくなるセカイをめざそうよ」
××を真っ直ぐに見つめていた。
「っ………セカイが一つにならないりゆうは、みんな、それぞれの考え方がちがうから。それに、たった一つしかないものを、みんながほしがったって、けっきょくは一人しか手に入らないのだから、みんながしあわせになれるミライなんてないのよ」
水を差して悪いとは思ったが、現実的な話、全員が幸せになる事など無いのだ。
両親が共働きな為、裕福では無かったが、お金に困った事は無いものの、学校から帰ったらいつも一人で、××は寂しかった。なにかを得る代わりに、必ずなにかの代償を支払わなくてはならないと考える様になったのは、そーゆう事情で…。
お金に困らない生活の代わりに、××が寂しさを我慢する事が代償だったのを、両親は知らない。
「むうぅっ!!! ××ちゃん、ユメがないなぁ? そんなの、わたしだってわかってるわよっ! でもさっ、食ざいになる生きものたちをいただくから、『いただきます』と『ごちそうさま』があるのは、食ざいになってしまった生きものたちへの、シャザイとカンシャをこめてのあいさつだからよね? 人はさ、なにかを食べなきゃ生きていけないんだよ。だから、ショクザイを食べるのなんか当たり前なのに、シャザイを…カンシャを…して、それをいただく。つまり、やさしい心があるから、そーゆうコトができるんだよ! 食べなきゃ自分はしぬ、ってわかってるのにね? 」
「……えーっと……けっきょく、なにが言いたいわけ? 」
「えっ? つたわらなかった? えーっと…そうだなぁ…うーん……だからね、」
さっきも言ったケド××ちゃんと【トモダチ】になりたいんだよわたし、と〇〇はフニャッと笑って…でも本音をぶつけるみたいに、真剣な声音で。
それに××は、泣きたい気持ちに襲われた。
ーーかなしくないのに…くやしくないのに……なんで…?
嬉しくて泣くという事を知ったのは、〇〇に気を許す様になってから。
それから、××と〇〇は【トモダチ】になり、数年間、仲良しだった。“彼女”が、転校してくるまでの間は…。
二人の仲を引き裂くキッカケは、彼女が〇〇の事を気に入らないという身勝手な理由だけで、イジメを始めた事から。周りにも楽しいからやりなよ? と巻き込んだ事で、イジメはエスカレートしていった。
そんな状況に見て見ぬフリが出来なくなった××は、〇〇を助ける為、担任や周りの教師達に、イジメの状況を説明した。最初は、自分と同じく見て見ぬフリをしていた大人達は、真剣に取り合う事をしなかったが、××の熱意に負け、重い腰を上げて、〇〇のイジメは止んだ。
イジメの趣味を奪われた彼女達は、それを取り上げた××に逆恨みをし、ーー××をイジメの標的にした。
昔の事を思い出し、××は「ふふっ…」と力無く笑った。
「〇〇ちゃんがいたから、私ーー」
その晩、帰宅した母親が××の変わり果てた姿を見つけると同時に救急車を呼んだが、間に合わず…。
××は息を引き取った。
“〇〇ちゃんがいたから、私はちゃんと生きようと思ったんだ。今迄…有難う!! ”
*
「××ーーッッッ!!!!! 」
〇〇は飛び起きた。日はまだ昇っていないのか、部屋の中は薄暗い。
「なに…いま、の…」
“これから起こる、未来の夢だ”
「!?」
部屋の中を見渡すも、自分以外に他人の気配は感じず、〇〇は首を傾げる。
「………きっ……気のせい…? 」
“気のせいじゃないッ!!! ”
「だっ…誰ッ!? 」
“私の事は如何だってイイだろ!? そっ…そんな事より、先程の夢を見て、お前はどう思った? ”
「どう、思ったって……××が、いなくなっちゃうかもしれない未来を、変えたい…ッ!! 」
いつからか、××の事を雑に扱わないといけない空気に、自分も乗っかっていた。そうしなきゃ、学校では居場所が無かったから…。
久々に××の事をちゃんと考え、素直にソレを言葉に出来たのは、現在起こってる出来事さえも夢の続きか、姿が見えぬ者だったからなのかは判らないが、つい口を滑らしたのかもしれない。
“チャンスは一度だけだ。【記憶】を頼りに、未来を変えてくれ”
「……えっ…? 記憶って……私、“未来の出来事”なんか、知らないわよ? 」
“大丈夫。場面に遭遇したら、【思い出す】から…”
絶対に××が生きる未来に変えてくれ、の言葉が聞こえた直後、〇〇は意識を手放した。
【to be contnued…】