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「死」の付添人  作者: 堕罪
1/3

プロローグ


僕は『自殺付添人』という仕事をしている。


 


仕事内容は依頼者の「自殺幇助」、簡単に言えば自殺の手助けをするということだ。




 主に自殺するための道具の用意や場所の提供などをおこなう。依頼はメールや電話などで受けていて、依頼料は自殺方法によってことなる。例えば、首吊りや飛び降りなら安いが、練炭や服毒なら高いなどだ。


 


 ちなみに要望が一番多いのは首吊りだ。だから現場を何度も見たことがある。その度に縄を首に巻き付けて苦しくないのかと思ってしまう。




 そんな「同情」をするのは自殺付添人としてあるまじき行為なのだが、それを忘れてしまうほどの奇妙な光景を目にしている。


 


 僕が付き添った中で首吊りをした者はなぜか全員()()()()()()()()()()()()




 安らかな死に顔とも言える。その姿はただ眠っているだけのようにも思えた。こんな奇妙なこと偶然ではないはずだ。でも、なぜ彼らが笑っているのかは僕にはわからない。それを知ろうにも当の本人たちはもう死んでいるのだから知りようがない、真相は闇の中だ。


 


 こういう不可解で気味が悪いことが、この仕事ではよく起きる。僕はすぐに慣れてしまった。しかし実際はそれに慣れることができず、精神崩壊を起こす人がほとんどだ。だから辞める人も、自殺する人も、依頼人と心中する人も少なくない。


 


 初対面の人に「そんな仕事なんで始めたの?」とよく聞かれるが、これといった理由がない。強いて言うなら、幼馴染みが自殺したからだ。


 


ユイ――それが幼馴染みの名前。射抜くように鋭い目、三日月のような美しい線を描いた眉毛、ふっくらとした潤った唇、サラサラと柔らかい髪はシュシュで纏め上げていて、楚々な印象をした子だった。


 


 そんな彼女に僕は「恋」をしていた。しかも『初恋』だ。




 ユイとは家が真っ向かいで、小学生の時はよくお互いの家にあそびに行っていたし、学校も一緒に行き帰りするほど仲が良かったんだが、中学校に入ってからはお互い、新しい友達が出来たり、部活や勉強が忙しくなったりして、自然と話すこともなくなっていった。




 しかし僕は秘かにユイに想いを寄せていたんだ。でもなかなか告白できずにいて、気づいたら中学最後の夏になっていた。それに焦ったぼくは、ユイをデートに誘うことを決心した。




 そう言ったものの直接誘うのは緊張してできないので、電話で誘うことにした。だが携帯を手に持った右手が、病的に震える。おさまりそうにもない。それは体が拒否反応を出しているかのようにも感じた。


 


 それを押し殺して、電話をかける。コール音が余計僕を緊張させた。五コール鳴っても応じないので、電話を切ろうとした六コール目、彼女はやっと電話に出た。




「もしもし。ごめんごめん、お風呂入ってた。珍しいね、颯太が電話してくるなんて。なんかあったの?」




「いや、あの、別に何かあったわけじゃないんだけど、よかったら明日遊園地に一緒に行かない?十二時に駅前に集まって」




「それって『デート』のお誘い?」




「ううん、そういうことになるね」




「まさか颯太からデートに誘われると思ってなかったな。めちゃ嬉しいよ」




「……ほ、本当かい?」僕は困惑していた。




「本当だよ。飛び跳ねたいぐらい嬉しい!誘ってくれてありがとう」




「ええと…それじゃあ、明日遊園地に一緒に行ってくれるってこと?」と僕は念の為訊いた。




「もちろん!遅刻しないように行くね」




「本当にありがとう!!僕も遅刻しないようにする」




「それじゃ、おやすみ颯太」




「うん、おやすみ」そして僕は電話を切った。


 


 次の日、僕は待ち合わせの時間より三十分ほど早く駅前に着き、駅のホームから湧き出てくる人の群れを見ていた。お盆なので、旅行に行く家族連れが多くいた。




 二十分ほど経ってからユイがやってきた。彼女はひらひらとした袖のブラウスに、パステルブルーのタックスカートを着ていて、とても似合っていた。




「颯太来るの早くない?」




「いや、先来たばっかりだよ」




「ふーん、まあいいや。もう行こう、待ちきれないよ」




「そうだね、行こっか」


 


 そして、僕らは並んで歩き出す。




「そういえば颯太と遊園地行くの小学校ぶりだね」とユイはいった




「そうだね。だからめっちゃ楽しみ」僕は少し昂っていた。




「ふふ、私もだよ」


 


 そう言って、彼女はにっこりと微笑んだ。


 そんな事を話していると、遊園地に着いた。




「うわーめっちゃ懐かしい。よく考えてみたら私、遊園地自体に来るのも久しぶりかも」




 ユイは予想以上にはしゃいでいた。その姿が幼い子供のようで愛らしく感じた。




「颯太、あれに乗ろう!!」とメリーゴーラウンドを指差して、僕のシャツの裾を引っ張る。




「ああ、乗ろうか」




 それぞれ木馬に乗った。やがてカタンカタンと音を立てて廻り始める、ただ同じ場所を。それでも最初は楽しかったのだが、三周目辺りからマンネリ状態に入ってしまった。そんな僕とは対称的にユイはきゃっきゃと声を出して、楽しんでいる。


 


 乗り終わると、ユイは「楽しかったね!」といった。


 


 僕はそれに合わせて、「うん、凄く楽しかった!」と口角を上げて言う。




「次は何に乗ろうか?」と僕は訊いた。




「ジェットコースター!!」と声張り上げて、ユイはいった。




「じぇ、ジェットコースターか…僕は遠慮しとくよ…」




「何言ってるの?颯太も一緒にジェットコースターに乗るんだよ、強制だからね」




 ユイにそう言われたら乗るしかないな、と思って「わかったよ、乗るよ」と仕方なく了承した。しかし、それからすぐに後悔した。なぜなら僕は、ジェットコースターというものが極度に苦手だったからだ。


 


 ゴンドラが頂上から一気に降下したときの、ふわふわ宙に浮いたような感覚がとても不快で、気分が悪くなってくる。だから気分を紛らそうと目の前の景色を見渡したのだが、今度は鳥肌が立つほどの恐怖感が僕を襲った。もしここから落ちたら、と考えてしまったからだ。




「うわあああ、颯太めっちゃ楽しいよ!!」




 横からユイが叫んでいる声が聞こえてくる。なぜそんなに楽しんでいるのか僕には理解できなかった。そして気づいたら乗り終わっていた。




「ああ、楽しかったー」といって、ユイは両腕を上に伸ばす。




「そうだね、凄く楽しかった」




「嘘だー颯太めっちゃ怖がってたじゃん」




「いやいや、そんなことない。気のせいだよ」




「ふーん、気のせいか。そんなことなかったと思うんだけどな…」


 


 そういって、僕の顔を覗き込んだ。




「まあ、いいや。次行こうか!」といって、ユイは僕の手を掴んだ。




 僕は安堵した。どうやら何とか誤魔化しきれたようだ。


 


 それからユイに手を引っ張られて、観覧車に着いた。


 


 観覧車に乗った僕らは終始無言で、ただ外の景色を眺めた。何度かユイに話しかけようとしたが、静かに外を見つめる彼女の姿はどこか寂しく感じられ、気づいたら自然と僕は口をつぐんでしまった。話しかけづらかったのだ。今思うと話しかけておけばよかったな、と後悔している。だがもう遅い。




「颯太、もう帰ろうか」




「うん、帰ろう」


 


 それからユイを家まで見送った。彼女は去り際、ニコリと笑っていう。




「今日は楽しかった!誘ってくれてありがとうね」




「うん、僕も楽しかった。こちらこそ一緒に来てくれてありがとう」




「じゃあ、またね」といって、ユイは手を振った。




「また」といって、僕は手を振り返した。その時はまた会えると思っていた。




 次の日、ユイが飛び降り自殺をしたと、うちの母から伝えられた。


 


 それを聞いたとき僕は、頭が真っ白になって、ただ唖然としていた。


 


 ユイがこの世にいないなんて信じれなかった、信じたくなかった。昨日会ったときの彼女は自殺するような感じには見えなかった――いや、本当は無理をしていたんだと思う。




 本当の自分を隠し続けて、本当の自分を見失って。「生きる意味がない」、「自分は生きる価値がない」という無価値感や「誰も自分を理解してくれない」、「誰も自分を救ってくれない」、「自分はひとりぼっちだ」などの孤立感に襲われ、無意識にユイは自分を『自殺』へとを追い込んでいたのだと、僕はその時知った。




 翌日、ユイの葬式が執り行われ、ユイの家族や親戚や友人、同級生でさえ、彼女の死を惜しんで、涙を流した。しかし僕の瞳からは、一滴も涙がたれなかった。それは別に僕が、彼女の死を惜しんでいなかったわけではない。それなのに不思議と泣けなかった。




 その原因は、ユイが自殺したことを「肯定」してしまったからだろう。もちろん、僕以外の全員は「否定」していた、「自殺なんてしてほしくなかった」と言って。最初は僕もそう思っていた。でも彼女の心理を知って、ある考えが僕の脳裏に浮かんだんだ。




 僕は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 


 それはただの僕のエゴで、自己解釈に過ぎないのはわかっている。だが彼女のふかい奈落の底に落ちたような寂しい死に顔が、頭にこびりついて離れないんだ。十年経って、二十五歳になった今でも鮮明に覚えている。




 そして、その過去の後悔を消すために、ぼくは自殺付添人という仕事を始めたというわけだ。我ながらくだらない自己満足だと思う。それでも僕はこの仕事を続ける、ユイを忘れないために。

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