食の神の屋台、出店でしたーチョコバナナ、お粥、チョコレートミルク
「おい、リク! 何この店! めちゃくちゃうめぇ!」
リクのお店の隣で出店をやることにした。商品は気分で毎日変えるが、毎日同じものを出品しているものが、一つだけある。……チョコレート菓子だ。思わず涎出た。
あれから、カカオをおかみさんが大量に持ってきてくれた。前に言ってたお客さんがくれたカカオ豆、あれは一部だったらしい。自分でもチョコレートーを作ってみようと思っていたが、店が繁盛して時間がなかったので、すべて捧げてくれた。ありがたくて、食の恵みをって祈ったら、さらに、遠方からの客が並ぶくらいのお店になってしまった。仕方ない。
リクがこの街の友人に宣伝してくれて、そこから口コミで広まって行った。客足は伸びる一方だ。一応、神という身分で食べ物を捧げられている生きている身なので、お金は取らずに物々交換にしている。私が食の神であるせいか、原材料である食品をくれる人が多くて、助かる。
出店として使うための屋台は、リクが使わなくなったものを譲ってもらった。まだまだ綺麗だ。あまりにもリクに抱っこにおんぶすぎると思って聞いたら、
「食の恵みを分けてもらって、お店の売り上げは隣にいるミハ様のおかげで絶好調。毎日あれだけ美味しいものを食べさせてもらって、恩返しが足りないくらいですよ」
と、言われた。謙虚だ。
徐々に客足が伸び、街でも評判になってきているらしい。シンプルに嬉しい。
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「私たちも食べしゃせて?」
屋台の下の方から声がかかった。
「ありがとう。お嬢ちゃんたちは、何歳なの?」
そっとしゃがみ込んで聞くと、同時に答えた。
「ユーちゃんね、ユーちゃんね、3しゃいだよ!」
「うん、妹のユーちゃんは3しゃいで、アーちゃんは4しゃいだよ!」
ニコニコしながら、2人は手を繋いで飛び跳ねながら答えてくれた。後ろから現れたお母さんが、すみません、と声をかけてくる。
「すみません、おいくらでしょうか? 子供が食べられるもの……ですよね?」
「はい、大丈夫だと思います。食べて具合が悪くなるものは、特にありませんよね?」
成人式の時に、3歳の妹を連れてきていた同級生がいた。そのとき、確かチョコレートを食べさせていたと思う。
こちらの世界にアレルギーという概念はあるか疑問だが、一応確認する。
「特に大丈夫だと思います」
「お代は、物々交換でいただいております」
「え? 物々交換? 何かお渡しできるような物あったかしら?」
慌てたお母さんは、荷物を必死に漁っている。そんなとき、ユーちゃんと呼ばれた妹の方がぷちんと花を何本か取って、差し出してくれた。
「おはなしゃん、どーじょちたりゃ、たべれりゅ?」
「ありがとう。大丈夫だよ。はい、どうぞ」
「そんな! だめです! もっとちゃんとしたものを!」
慌てるお母さんに、いいですいいです、と言い、かわいい花を受け取り、2人にチョコレートを差し出す。今日は、食べやすいチョコバナナで良かった。ただ、この年代の子に棒は危ないか、少し心配だ。お母さんに注意して、子供達にも言っておこう。
「中に棒が刺さっていて危ないから、気をつけてね? 座って食べてくれたら嬉しいな」
「はぁい!」
2人揃っていい返事をしてくれた。ありがたい。手を振って去っていった。
先日、チョコレートを作っている途中に、ホワイトチョコレートを作れないか悩んでいたのだ。圧搾が必要だから、前世ではできなかったけど、魔法ならできるのでは、と思ってやってみたら、うまくできた。すりつぶしまで終わらせたカカオを圧搾してカカオマスにする。そこに、砂糖と脱脂粉乳ーー脱脂粉乳は流石にないかと心配したが、普通に家庭にあったーーを混ぜて、出来上がりだ。
それをチョコレートに沈めて取り出し、冷ましたバナナにシャシャシャシャとかける。キラキラさせたりしたかったが、アラザンとはさすがに出会えなかったため、おしまいだ。
遠くに座って食べている2人は足をパタパタさせて嬉しそうだ。その後、比較的常連になった。おかあさんは、いろんな食材を捧げてくれるようになった。
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「リクちゃん……今年、塗り薬って売れたかしら?」
おかみさんが訝しげな顔をしてやってきた。
「あ。そういえば、まだ売れてないっす。在庫過剰ですね」
在庫を確認しながら、リクが答える。
「やっぱり? そうなのよねー……ちなみに、リクちゃん最近身体壊したりした?」
「いえ、全然っす」
「おかしいのよなぇ。この時期、いつも発疹が出る病気が流行るんだけど……いつもより流行らないのよねぇ。いいことなんだけど、後から爆発的に流行しないか心配だわぁ」
この時期はやる流行病があまり広がらなかった。子供に特に多いものらしい。大人がなると、重症化しやすく要注意のものらしい。話を聞いていると、手や足や口に発疹が出るとのこと……。
「それって、手足口病?」
医療に関して素人だ。しかし、発疹が出る病というと手足口病や帯状疱疹、水痘、川崎病やアレルギー、麻疹風疹あたりだろうか。他にも多くあるのだろうが、思い浮かんだものは手足口病であった。もちろん、医師でもないのに勝手に診察できないし、この世界にも同じ病気があるとは思えない。
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「神様、チョコレートをいただけませんか? 口が痛いけどそれなら食べれるとぐずっていて……」
ユーちゃんとアーちゃんのお母さんが走ってきた。ユーちゃんの手足に少し発疹が出ているらしい。同時期に感染した近所の子よりはかなり軽度であるらしい。
「様子を見て、食べやすいものをつくらせていただけますか?」
お母さんについて、家まで案内してもらうことにした。
ついた場所は、街の一角の小さな家であった。長屋のように多くの家が連なって建てられている。煉瓦造りの家だが、室内は外気の影響を大きく受ける。現代日本の技術力に改めてひどく感心した。
「手足に発疹……あーんして?……口も少しあるかな? お目目をべーって、してもらってもいい? そうそう。充血もないし……BCG跡ってこの世界にはないか……高熱はすぐに下がりました?」
「あ、はい、あの? 一応少し熱いかな?くらいのとかはありましたが、ほとんどいつもと熱さは変わらず……すぐにいつも通りになりましたけど……何を見てらっしゃるんでしょうか?」
「すみません、素人なのに見せてもらって……」
「いえ、神様のお力なのでしょうか? ありがとうございます?」
「え? 私の力?」
「その、そちらのあたりが淡く光ってらっしゃいます」
「え?」
見てみると、指示を出していた手の甲が淡く光っている。は? 何事? と思ってよく見てみると日本語が浮かび上がっている。
『食べ物に関する症状はありません』
……これって、アレルギーやら毒やら……便利なのでは?
とりあえず、専門家でも判断に困るのが川崎病と私が手足口病になった時に医師から聞いていたから疑ったが、手足口病的なものな気がする。川崎病も不完全型というのもあるから、診断していいのかわからないけど……。私も高校生の時になったけど、口が痛くて手足も痛くてきついんだよね……食べる気も無くなるし。
「作ってきますね」
キッチンに消えて、料理を開始する。
「優しいおかゆとチョコレートミルクにしようかな? 一応摘めるように小さいチョコも作っておこ」
チョコレートを溶かし、小さく冷やし固める。ホワイトチョコも一緒に出してあげよう。魔法ですぐだ。ミルクも温めて、チョコレートと一緒に溶かす。
あとは、お昼に食べようと炊いておいたご飯を使おう。ご飯に少しお出汁を混ぜて、コンソメと少し煮込む。卵でそっととじて……怖いからよく煮込んでおこう。子供といえば、コーンかな、と思い、コーンを最後に混ぜておく。見た目は黄色ばかりだけど、味は問題ないから、食べてくれたらいいなぁ。
「おいちい。こえ、もっとたべゆ」
「全然食べてくれなくて! 本当にありがとうございます!」
「よかったら、チョコレートをたくさん作っておいたので、お母さんの都合であげてください。あげすぎには注意ですよ?」
アーちゃんユーちゃんに見つからないようにお母さんに渡すと、ありがとうございますと大変感謝された。
上の子から隔離するように、伝えて帰ってきた。この世界でも、衛生観念がもう少し広まるといいな……。そんな感想を抱く訪問であった。
「ミハ様。おかみさんに確認したところ、ミハ様の作られた食べ物を食べた者たちはかかってなかったり軽症で済んだらしいんですけど……何かしました?」
「え?」
私の作る食事には、そんな力が宿っていたようだ。神って便利だな。