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冒険の始まりでしたー具なし味噌汁、お粥、ポカリ

 とてとてと歩いていく。食の神は、食に関しては万能だ。前世も含めて、過去に食べたことのある食材は、永久保管できるし、高性能なキッチンも取り出せる。料理も魔法でも使っているのか、かなり簡単にできるし、失敗もない。正直、キッチンはリビングのような部屋になっていて鍵もついているから、キャンプのテント代わりとしても使える。


「食の神様ー! これも食べていってください!」


 小さい身体で歩いていると、同情からか、その愛らしさからか、はたまた信仰心からか、たくさんの声がかかる。


「ありがとうございます」


 ペコリとお辞儀をして食べ物をもらい、食べながら歩いていく。

 なぜ、一目見ただけで食の神とわかるのだろうか疑問に思って聞いたことがある。髪の色が違うらしい。神というものの髪は、人工的なヘアカラーでは絶対再現できないラメのような輝きの入った白銀色だ。瞳は、南国の海に映った空のように澄んだ青緑色だ。水に映った自分の顔をまじまじと見た時、確かにこれは、人間では再現出来なさそうだなと思った。



「今日は、この辺りで休もうかな」


 村を出てから、野宿をすることが増えた。野宿といっても、リビングといってもいい装備のキッチンの中で休んでいる。ソファーしかないが、ベッドもほしい。おそらく、ここに入っている間は、外の世界からは見えなくなっているようだ。どうしたら、ベッドが手に入るか考えていると、眠ってしまったようだ。目を覚まし、前にもらったパンをもそもそと食べながら、外を見る。


「あれ? この辺り、砂漠だったんだ」


 草原だと思っていた土地は、砂漠の目と鼻の先だったようだ。確かに、歩いている時、風の中に砂がたくさん混じっていた記憶がある。昨夜は天気が荒れたようで、周りは砂漠に変わってしまったようだ。そもそも、ここはギリギリ砂漠じゃないくらいの位置だったのだろう。


「砂漠の方、歩いてみようかな? キッチンに避難もできるし困らないし」


 そう思って、砂漠の中に向かって歩いていった。





ーーーー

「生きてる?」


 砂漠を歩いていくと、最初の村で出会った、行商人が倒れていた。


「なんて名前の人だっけ?」


 悩みながら、顔をぺちぺちと叩いてみる。


「うぅ……水と食べ物……あ、神様が助けに来てくださったんだな……神様、今こそ食の恵みをお与えください」


 死にかけている人に拝まれ、私はうーんと悩んだ。食の恵みの与え方は、わからない。とりあえず、祈ってみよう……何も起こらない。魔術の使い方、手に熱を集める感じって言ってたし、そういう感じでやってみるか?


「食の恵みを」

 そう呟きながら、手に熱を集める感じを意識して、手をかざしてみた……何も起こらない。



「うぅっ」


 死にそうな人は、放っておけないし、そもそも、どうやったら食の恵みを与えられるんだろう? 悩みながら、出来そうなことを必死に考える。そうか、私にはキッチンも食材もある。とりあえず何か作ろう。


「うーん、うーん」


 作っている間も、この人をそのままにしておけないと思ったので、近くにキッチンを出して、押し込もうとしてみる。しかし、120cmの身体には、成人男性は重すぎて無理だ。思いつかなかったので、一緒にキッチンの中にいるイメージでキッチンを出してみた。私1人なら可能だから、この人も一緒でもできるでしょう……多分。


「できた」

 意外と、簡単に一緒に転移できたようだ。床に転がしたまま、料理を始める。


「死にそうなくらい弱ってるから、具なしのお味噌汁と、食べれた時用のお粥作ろうかな?」


 母を幼い頃に亡くし、家事をずっとやってきた。中学に上がるかという時に父も亡くしたので、一通りのことは身についている。大抵のことは自分でできる。料理に至っては、かなり美味しいと思う。ふんふんと鼻歌を歌いながら、お出汁を取り出す。昆布を鰹の合わせ出汁を取って、冷蔵庫にしまっておいたのだ。それをお鍋で温め、自家製のお味噌を加える。少しだけ麹を残して、出来上がりだ。


「あとは、お粥かなー?」


 元気が出るように願いながら、ご飯を水に入れる。お昼に食べようと思って炊いておいたのだ。それを火にかけたら、鶏がらスープの素を少し混ぜる。お手軽で美味しいから便利だ。そこに、冷凍しておいたすりおろしニンニクと生姜を少しずつ入れる。チューブは便利だが、自分ですりおろした方が香りが立つし、何より安い。あとは、刻みネギを入れる。自分で食べるときは、玉ねぎやらソーセージやらベーコンやらを入れることが多いが、弱った人にはこれ以上は無理だろう。


「あ! ついでに!」


 水分補給しやすいように、水に砂糖とお塩とレモン汁を入れて混ぜる。これで多分失った水分も取りやすいはず。

 作ったものを見つめながら、チラリとあの人を見てみる。



「もしかして、熱中症とか起こしてるのかな?」

 私にはそういうことは、全くわからないので、そっと顔を覗き込みに行ってみる。顔が少し赤いような気もするけど……わからない。


「首とか冷やしたほうがいいのかな?」

 学生時代、クラスメイトが倒れたことがあって、そのとき先生たちが慌てていろんなところを冷やしてた気がする。そう思って、氷枕を作って脇の下や首の下、太ももの辺りに置いてみた。


「うぅ……冷たい……」


 そう言いながら、目を開いたその人に、問いかけてみた。


「とりあえず、これ飲めます?」


「水だ!」


 その人は、ごくごくと私のお手製スポドリ風飲料を飲んだ。


「ありがとうございます、神様……水は結構持っていたのですが、食糧がなくなってしまって……3日は食べれてないんです」


 意外と少ないぞ? 死ぬ前の世界のファスティングってそれくらいの日数じゃなかった? そんな気持ちが顔に出ていたのか、慌てたように言われる。


「俺、すごく燃費悪くて、1日5食食べないといけないんです」


「なる……ほど……?」


 納得できたようなできてないような気分だが、とりあえず元気になったようでよかった。


「神様、すっごく料理うまいですね! 神様の目的地が同じ方向なら途中までついていってもいいですか? 神様に喜んでもらえるかわからないですけど、行商人なのでいろんなものがあります……例えば、うーんベッドとか?」


「乗った!」

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