表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食の女神になりました〜異世界で家庭料理をクッキング!  作者: 碧井 汐桜香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/21

髪の毛ふさふさ戦争ふたたびでしたー琥珀糖、いちご飴

 街の長と権力者の頭部の悩みを解決して数週間経った。

 頭に悩みを抱えた層に瞬く間に話が広まったようで、リクの市場への出店は、瞬く間に一番いい場所で決められ、その横で私も食べ物を売ることとなった。海藻入りの食べ物が売れ筋だ。


「海藻の育毛成分入りのシャンプーとかあったら売れるのに」


 ぼそりと私が呟いた声を、誰かが拾ったらしい。私は瞬く間に海の中に連れて行かれた。私をここまで連れてきた人々のことは、お悩み隊と呼んでやろう。





「陸の食の神よ、しゃんぷーとな?」


「えーと、なんか私悪いこと言いましたか?」


 罪人のように、しかし、身体にはあまり触れないように紳士的に拘束されて、連れてこられたお魚さん(うみのしょくのかみ)の前で、私は困惑する。


「こやつらは、ふさふさになる気配を察知してお前をここまで連れてきたようじゃ。全く、毛のことに関すると恐ろしい。我はそこまで興味はないぞ」


 本気で呆れ返った様子のお魚さんに、慌てた様子のお悩み隊がこそこそと耳打ちする。


「え、研究し放題!? そんな貴重な、ほうほう、」



 こちらに向き直ったお魚さんの目は、お悩み隊の人々と同じものだった。


「しゃんぷーとはなんじゃ、すべて吐け」


「わかりません」


「な!? 隠し通せると思うな」


 周囲の人たちが全員敵になったかのように錯覚する。それほどまでの鋭い視線を感じた。いたいけな幼女によくそんな目を向けられるな。


「頭皮や髪の毛を洗うものです。詳しい作り方は知りません」


 だって、前世では普通にどこでも買うことができたし、そこまでメーカーにもこだわりもなかった。安いものを安い時に買って使ってたし。チョコレートみたいに興味がなかったから、作ろうとも思わなかったし。昔読んだ物語で主人公がシャンプーを作ってた描写に書いてあった気がするけど……。作り方ははっきりとは覚えてないけど。


「油となんかで作ってたかな?」


 本気で私が知らないことを悟ったのか、具体的な製法を聞き出すことは諦めたようだ。


「油、とな。他に何か思い出せることはあるか?」


 うーん、と首をひねる。特に思い出せない。


「海藻の中のネバネバ成分でも使ってみたらどうですか? あと、油と……泥シャンプーとかあったかな? ざりざりしたもの入れてたっけ? 泡立つのも泡立たないのもありますよね」


 私の曖昧な言い方がお魚さんの研究欲に火をつけたらしい。あれこれと、原料を予想しはじめた。


「まぁ、シャンプー、コンディショナーにトリートメントやヘアパックまでありますけどね。あとは育毛剤も育毛技術も」


 お魚さんが欲する材料をメモしていたお悩み隊の人の手からペンが転がり落ちる。水の中で書けるペンとか便利だなーと思ってそのペンを見ていたら、周りはお悩み隊によって、人の壁になっていた。


「詳しくお聞かせ願えますか? 陸の食の神様。海の食の神様。詳細はまた後日お伝えいたしましょうか?」


「いや、我も陸についていく。城に行くのだろ? あそこは研究に便利だ」


「え、いや、私、帰」


 幼女誘拐だ。異議申し立てをしたい。そう思いながらも、お悩み隊の人々の熱のこもった様子ーー必死な姿ーーに何も言えずに連れ去られていく。





ーーーー

「久しぶりでございます。食の女神様」


「おぉ! 我が神。お待ちしておりました」


 この街は海の神を信仰していたはずだが、いつのまにか街の長は私に信仰を変えたらしい。海の神が怒らないか心配だ。


「研究室を借りるぞ」


「はい! もちろんです、海の食の神!」


「ご覧ください、こちらの最新の設備!」


「ふぉぉぉ! たまらん、たまらんのぉ。この研究しがいのある器具たち。お! こっちの素材はレア中のレアじゃないか! 我、ここに囚われてしまうぅ!」


 興奮のあまり、連れてこられた水槽から飛び出して、床の上でピクピクしているお魚さん。それを私が冷たい目で見ていると、手慣れた様子でお悩み隊の一人がお魚さんを網ですくって水槽に戻す。




「では、詳しく話してもらおうか。我が神よ」


 施政者らしい圧力を感じながら、シャンプーから育毛剤まで知っていることを全て喋らさせられた。最も、私はそこまでシャンプーやらに興味がなかったから、ぬるぬるしていた、程度だが。



「あ、そうだ」


 今作っているあれも海藻だから髪にいいんじゃないかな? そう思った気持ちが瞬時に読み取られた。こわい、施政者。いや、髪への執念?


「我が神。何か授けていただけるのでしょうか?」


「人数分、追加で作ってくるのでお待ちいただけますか? 一室貸していただけると助かります」


「もちろんです! お作りになるお姿は拝見できますか?」


「ダメです。絶対に開けてはいけません。リクに見張っててもらえるようにリクを呼んできてください」


 開けたら絶対渡さないと脅したら、すごい勢いでリクを呼びに行った。この勢いでリクの元に行ったら、リクに迷惑がかからないか心配だ。






ーーーー

「琥珀糖、作ろうとしてたんだよねー」


 乾燥途中の琥珀糖を見つめる。魔法の力を使わずに少量だけ作ろうとしていたのだ。

 なぜか海藻だけは大量にあるのだ。寒天も使い放題だ。お礼という名目の圧を感じる。



 砂糖、水、寒天を煮たら、とろっとするまで焦げないように煮詰める。そこにいろんな色の液体ーー向こうでは食紅で作った水でやっていたが、こちらではジュースや色の濃い果物の汁など集めてみたものーーを入れ、マーブル模様に混ぜる。魔法で乾燥させ、細かく手でちぎったら完成だ。



「いちごって髪にいいってテレビで見た気がするけど……まぁ身体に良さそうだしやっておくか!」


 いちごを洗って串に刺す。そこに砂糖を水に温めて溶かした水飴状のものをかける。そのまま魔法で固めたら、いちご飴の完成だ。



「髪に効果はあるのかな?」


 あんまりなさそうだったけど、琥珀糖をぱくりと口に運んでみた。少し髪が増えて毛艶も良くなった気がする。

 これは、女性にも売れるかもしれない。そう思ったら、背筋がぞくりとした。今まで以上の圧力を想像してしまったのだ。早めにシャンプーを作ってもらって、そちらに人が流れてくれないと困る。


「もしかして、私が願いを込めながら作る食べ物に一定の効果が出る、とか?」


 まさかね、と笑いながら、今までの出来事を思い起こすと、その仮説の根拠に震えが止まらなくなる。誰にも気づかれないようにしなくては。

 商売人脳のリクにバレたとしても、リクは味方になってくれるだろうか、と、悩みながら、皆の元に戻った。




「ん!? 食の神様、髪の艶がよくなられましたな!」


「えぇ、特別な食材を使ったものを食べたのですから」


「その特別な食材とは?」


「えーと、内緒でお願いします。その食材は特別なものなので本当に秘密です」


 とりあえず必死で誤魔化した。正しく話せている気はしない。食材に秘密がある風で琥珀糖を差し出してみる。


「前の食事にも、実は同じものを入れてました。特別なものです。私にもどこからきているかわからないので、私から聞き出そうとしても無駄だと思います。調理場面を見ようとしたら二度と作りません」


 整合性を強引に後付けでつけてみた。これで騙されてくれないだろうか。ちょっと近いうちに食の神の先輩を呼んで、詳しく聞いてみようかな? 最悪、身代わりに……。


「とりあえず、いただきます」


「とても美しい見た目だから、妻も欲しがりそうだな」


「秘密の材料を伏せた状態ならば、こちらの作り方は教えていただけるかな?」


 琥珀糖の作り方を教える約束をして、城から抜け出すことができた。





「疲れたー!」


「すごい勢いでお迎えが来たのでびっくりしましたよ」


「いやー、ごめんね? あの勢いのまま、リクのところに行ったらまずいかなーとは頭によぎったけど、止められなかった」


「大丈夫です。まぁ、琥珀糖の作り方を売れたらよかったですけど、あの状態だったら、琥珀糖の作り方に夢中になってもらってる隙に抜け出した方がよかったですよね」


 もったいない、と呟きながらも、生還を優先したことは英断だとリクにも共感される。


 あの人たちの圧がとても怖い。





 せっかく逃げ出したのに、結局、翌朝にはお悩み隊のお迎えが来た。


 レシピの販売金額についての話し合いと琥珀糖について話が聞きたい、とのことだそうだ。あいつら、嫁たちに髪の艶のことまでバラしやがったっぽいな。

そろそろお食事回にしたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ