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食の女神になりました〜異世界で家庭料理をクッキング!  作者: 碧井 汐桜香


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11/21

お家を贈呈!?でしたー育毛定食

「食の神のおかげで、民の命を救えました」


 街の権力者に深々と頭を下げられる。


「お礼の気持ちを込めて、もしよろしければ、こちらの家を贈らせていただけたら……」


「家!? 結構です。私の面倒を見てくれているリクは行商人ですし……」


「この街は、街に家を持つものじゃないとなかなか入ることができません。あちこち回られた後、たまに家に帰ってくる程度に使っていただけたらと存じます」


「そういうことなら……」


 権力者から、街への引き留めをくらったようだ。ただ、家がないと入らないなら、家があったほうがいいだろう。リクも、市場との手続きさえ済めば、この街でいい商売ができそうだと話していた。たまにこの街に戻ってくる程度ならば、拠点としてあってもいいだろう。




ーーーー

「うまくいったか?」


「はい、我が君。お心のままに。食の神に拠点として、この街で家を持たせることに成功いたしました」


「よくやった! これで食の神の力を思うがままに使えたら、こっちのものなんだがな……」


「本当にそうですよね」


 後頭部が寂しくなってきた二人の男が、食の神を引き止めることについて、こそこそと密談をしていた。





ーーーー

「リク! 家、もらった!」


「は? 家っすか!? ミハ様はもう俺とは一緒に来てくれないんですか?」


 しょぼんとしたリクに慌てて言葉を付け加える。


「そうじゃなくて、この街に入りやすくするために、だって! また帰ってきてくれる程度でいいらしい」


「話がうますぎないっすか? ミハ様を囲い込みたいはずなのに、自由に出掛けていいだなんて……。そもそも、この街は、余所者を受け入れたくないはずだから、家なんて簡単に用意できないはずだし……」


「まぁ、それくらいの方が、私たちがこの街に絶対に戻ってくるって思ってるんじゃない? 確かに、いい街だし、ね?」


「そうなんですかね……なんか裏がありそうで怖いですけど……」








「食の神様。贈呈する家の確認と、贈与主である我が君に会っていただくことは可能ですか?」


 そう言って、私は街の権力者に呼び出された。まるで図ったかのように、リクがいないタイミングで、だ。


「あなたがこの街のトップじゃないんですか!? あ、リクがいないと、家の確認は……」


「ではでは、我が君に会っていただくことだけでも! それならどちらにしろ、リク様に同席していただくことはできませんから……」


「わかりました、では、リクに言伝だけ残していきますね」



 リクへ

街の権力者よりも偉い人に会ってくるね!




 リクの言っていていたことを考えると少し不安もあるが、ちょこっとだけワクワクしながら、出かけて行った。




「こちらでございます。食の神」


 街の権力者に案内された先は、窓のない広い部屋であった。真ん中には、何か黒い布を被してあるものが見える。


「あの、」


 そう言って、先に部屋に入った街の権力者の後に続くと、ガチャリと外から鍵が閉められた。


「もう出られませんよ? 食の神……いや、陸の食の神」


 そう言うと同時に、街の権力者は黒い布をばさりとめくる。



「あ! お魚さん!」


 前に海で突っ込んできた魚がぐったりとして水槽に浮かんでいた。


「そなた、陸の食の神か……お主も囚われてしまったのか……」


「お主もって、え?」


「我は、海の食の神だ。こやつらの願いを叶えようと」


 海の食の神がそう説明していると、誰かが部屋に入ってきた。


「ほぅほぅ! これはこれは! 陸の食の神様。この度は、我が民たちをお救いくださり、ありがとうございます」


 頭を下げる姿は好好爺だ。だが、弱り切った海の食の神の姿を見る限り、油断できない。


「いったいどういうおつもりですか? 海の食の神を捕らえて、何をしようとおっしゃるのですか! あなたは何者なんですか!」


「いやいや、陸の食の神よ、人聞きが悪いことをおっしゃらないでください。海の食の神には、()()()()()()()()()()()()()()()()だけですよ。私はこの街の長にあたる者です。気軽に“(おさ)”とでもお呼びください」


 ぴくぴくと震える海の食の神の姿を見て、私は怒りに震える。


「何が手伝ってもらっている、ですか! こんなにも弱らせておいて! 大丈夫ですか? 海の食の神!」


 私がそう言うと、海の食の神は、腹を上にして浮かび上がってきた。


「ひっ!」


 驚きのあまり、後ずさると、街の権力者に受け止められた。


「さてさて、食の神にはやってもらわないといけないことがありまして、ね?」








「なんなんですか、これ」


「育毛剤の研究です。研究オタクの海の食の神は、このところ一睡もせずに研究し続けておられて、過労で倒れる前に手伝っていただけたら、と思いまして」


 そう言って街の権力者が撫でる後頭部は寂しいものだ。

 海の食の神ことお魚さんは、腹を上にしていびきをかいて寝ている。水の中でどうやっていびきをかいているのか、疑問に思ってはいけないのだろう。


「民を救ってくれた食の神にこんなことを頼むのはなかなか言い出しづらくて……お礼代わりに家を贈らせていただくので、お願いしますよー。あと、内密に研究しているので、リクさんくらいにしか言わないでくださいね?」


 長と言っていた人が、かなりの腰の低さでへこへこと頭を下げてくる。こちらも後頭部が寂しい。


「ふぁ!?」

 目を覚ましたお魚さんが、会話に入ってきた。


「こいつらに、髪がなくなると同時に体力の衰えを感じるとか悲しい身の上話をいろいろ聞かされてな……協力しようと研究に参加したら、こつこつお小遣いを貯めたポケットマネーで素材を大量に準備してくれてな……ついつい熱が入ってしまった。まぁ、魚に熱が入ったら、煮えてしまうがな! はっはっはっ!」


 お魚さんがそう言って一人で笑っている。それを無視して、私は問いかける。


「ちょっと、宿のキッチンで良さそうなもの作ってきてもいいですか?」


 育毛といえば昆布やわかめといった海藻のイメージがある。さらっと作ってこよう。確か、油っぽいものとかはダメなんだよな……。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


「成功したら、調剤方法を我にも教えてくれよ?」






「ミハ様!? 大丈夫でした!?」


 宿に戻ると、リクが息を切らして飛び出てきた。ちょうど置き手紙を見たところだったようだ。


「大丈夫。説明するから、キッチン行こう?」


 キッチンに向かって、経緯を説明する。


「それは……切実っすよね、うちの親父もアレなんで、俺も将来が怖くて……わかります」


 リクがそう言って、まだ豊かな頭を撫でる。




「海藻いっぱいもらってきたから、いろいろ作っていくよ!」



 わかめとしじみでお味噌汁を作る。魔法でささっと砂出しして、しじみとお酒を少しと昆布といりこを水から火にかける。沸騰直前で昆布を取り出したら、わかめを入れて色が変わったら、火を止めて味噌をとく。

 昆布といりこを刻んで、お醤油と生姜で軽く炒める。ふりかけ代わりに佃煮風だ。

 ネギと鰹節、少しのお醤油をかけた冷奴に、ご飯。

 お出汁と薄口醤油で味付けただし巻き卵に大根おろしを添えて、完成。


 増えますようにと念を込めて作ったから、増えるといいなぁ。


「ちょっと食べてもらってくるね!」





「美味い!」


「普段よりあっさりした食事だけど、これもありだな」


「油っぽい食事はやめて、髪の毛を洗うときは指の腹で優しく円を描くように、ですよ!」


「ありがとう、わかったよ、食の神」


 そう言った二人の毛が少しずつ色濃くなった。


「食の神ぃー!」


 おっさん二人に泣きつかれて、ちょっと距離をあける。

 その瞬間、何者かが私の顔面に飛んできた。


「我に詳しく教えろ、育毛剤として成分を抽出してもなにもなかったんだぞ!」


「え、お魚さん!? 水から飛び出て床でピチピチしてますけど、大丈夫ですか?」


「興奮しすぎた。水の中に戻してくれ、死ぬ」

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― 新着の感想 ―
[一言] そんなに悪い人じゃなくてよかったですw
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