表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/24

2

 




 喫煙所という名の屋上で、肺にこれでもかと溜めた煙をゆっくりと吐き出す。


 やっと一息つけた。





 今更傷つく年齢でもないし、過去に散々したやり取りだから慣れてはいるけれど。


 それでも、やはり隠し事をして話すのは疲れる。


 もういいじゃないか。

 結婚せずとも、子どもがいなくても心配ないようにしてきたつもりだ。長く働けるよう内勤の仕事を選んだし、就職してから始めた貯金はいい額になってきた。医療保険は勿論貯蓄型、個人年金だって払っている。両親と暮らす姉には仕送りだってしてるさ。


 この歳で独身なんだから、もうほっといてくれてもいいだろうに、姉夫婦も両親も、会社の人間だって思い出す度に聞いてくる。それが年間の祝日の日数より多いんだから呆れる。


 今回なんか、社長自ら見合い写真を持ってきたから、折角の日曜が潰れてしまった。




 もう構わないでくれ。あんたらの為に言わずに隠してるんだよ。




 何度そう思っても、この気持ちは誰にも届かない。誰にも言うつもりはないからだ。


 いい加減疲れた。


 もしも目の前に魔法のランプがあったのなら、俺は成人女性を愛せるようにしてくれと願うだろう。


 だが、そんな現実は一生こない。
















 今世の俺は、少年にしか欲情できない身のまま朽ちるのだ。













 せめてなあ。ただの同性愛者であれば今よりは救われたと思う。


 家族に理解して貰えるかはわからない。なってみたら実際、今は想像もつかないような苦悩も苦痛もあるだろう。


 そりゃそうだ、繁殖する事が本能として備わる生き物にとっちゃエラーな存在でしかないんだから。悲しいことに、忌避されたり攻撃対象にされる理由が本能っていうんだから勝ち目がない。


 それでも、法律的には人権と自由が保証されて、コミュニティや受け皿が少ないとしても存在する。日本で生きてれば、銃で突然撃たれる悲しい事件も起きないだろう。



 俺なんか欲望に忠実になった瞬間、犯罪者だ。


 隣の芝生が青く見えるの位、仕方ないだろう。もし心の中が読める奴が聞いてたとしても、許してくれ。










 駄目だな。こんな風に考えてしまうのは、やっぱり疲れてるからかもしれない。普段家にいるはずの日曜に出掛けたことが、やはり中年の身体に堪えたのだろう。


 三本目の煙草をくゆらせながら、柵にもたれ掛かって隣の公園をなんとなく眺める。


 普段は学校が終わった時間にしか遊んでいる子どもを見かけないのに、二人組の子どもが追いかけあって遊んでいるのが見えた。


 遠いからよくわからないが、もしかしたら中学生とか高校生なのかもしれない。どっちにしろ、俺からすると子どもだ。


 言い訳はいくらでも出来るが、あまりジロジロ見ていて万が一通報でもされたら困るのでそろそろ事務所に戻ろう。


 すると、短パンを履いた少年がこっちを振り向いた。顔は見えもしないのに、目があった気がした。




 ーーーー少年、もしも来世で出会えたその時は、今度こそ愛を伝えに行くよ。




 特に意味はないが、巫山戯て、劇の台詞のような念を送ってみる。


 こんな俺でも、心の中は自由なのだ。


 目の錯覚だろうが、少年が頷いたように感じたので少し気分がよくなって、今度こそ扉の方へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ