第1話:ゲーム
「あぁ……鬱だ」
「はいはい」
俺はいつものように教室の端の自分の席で縮こまっている
口にも出したが鬱だ……
俺は今現在、国、というか世界が協力して隠しているが存在している魔法というものに関わっている、がしかしそれは失敗だった
魔法学校に入学して、良い成績を取っていれば苦労しないでとりあえず社会に飛び出してからの生活も保障される。こんな言葉を鵜呑みにしてこの世界にやってきたが
制約の多さと、校内での熾烈な順位争い。そして何より魔法力の数値化ランク付け。こんな事だったら勉強で争っている方がましだった
俺はそうそうにこの争いから離脱した
「病むわぁ……」
「……そんな状態の中悪いが」
そしてこいつは落ちこぼれ仲間の対中純平。俺と同じような感じでここにやって来たので通じるものがあったみたいだ
だが、どうもやな知らせを持ってきたらしい
「学年主任が俺等2人をお呼びだ」
「だと思った……ちくしょう」
俺は桜木和馬。国立魔法高等学校、冥明高校の1年生だ
「お前ら……どういうつもりだ?」
「「あぁ?」」
学年主任の麻木。体育教師面の暑苦しいおっさんだが教科は必修となる現代国語の教師だ
「なんで魔法特待生の貴様等2人が最低のDランク判定になるのだ! いや、それは良いとしよう。あのテストは何だ!?」
ちっ、どうやらこの前の魔法検定の内容にご不満があったらしいな
「真面目にやれ!」
真面目に単位とれってか? 真面目に点数かせげってか? それが特待生の義務か? あぁ……鬱だ、めんどくさい
だいたい、魔法と関係ない教科の担当だろ麻木さんは
「いいな? 真面目にやれよ!」
「……現国の教師がいきってんじゃごふっ!」
俺は対中の鳩尾に拳をたたき込み黙らせた
とりあえず話が決着つきそうだったのを広げるようなことを言わせるわけにはいかない
「失礼しました」
対中を引きずって職員室を後にした
「はぁ……鬱だぁ……」
「それ俺のセリフ」
真似すんなよ鬱陶しい
「ちょっと真面目にやるかぁ?」
「何だよ、Dランクでいいじゃねぇか」
「そこは良いけど、言われっぱなしじゃねぇか」
「ふん……」
「あぁ! クール気取ってんじゃぐふあぁ!」
「うるせぇ」
何か生意気なことを言いそうになった対中を蹴り飛ばして黙らせる
今更ランクなんてどうでもいいし、言われっぱなしにもなれた
もうどうでもいい
『Dランク』というのはこの学校で生徒の成績に応じてつけられるランクのことだ。そしてDは最も低いランク。現在この学校にいる生徒で最高のランクはAだがもっと上も存在する
ランクの順序は知らないが、校長の魔法力はAAA(トリプルA)クラスらしい
まぁ、ランク争いなんてものを捨てた俺にとっては関係のない話だ
そしてもう一つ、数値化されているものがある
『魔法力』つまりは個人で生成できる限界の魔力を数値化したものだ
俺も対中も、魔法力では平均の遥か上をいっているらしい。特待生で入学できたのもそのためだ。そしてこの魔法力こそが、どんなタイプのどれだけの魔法を使えるか、ということを表している
とは言っても、俺は魔法力があったとしても魔法を使いたいだなんて思わないから、今ではそれも必要ない
「おい桜木」
屋上でのんびりしていた俺と対中のところにやってきて俺の名前を呼んだのは……
辻崎椋。多分クラスメートの女子だ
「なんだよ」
「お前授業に出ろ」
「うっせーな鬱なんだよ。それにお前こそ何やってんだよ」
「学級委員だから探してたんだよ」
あぁそうだった。辻崎うちのクラスの学級員だった
そうじゃなくて学級委員なら授業にちゃんと出てろよ
「じゃなくて、お前の授業はどうしたんだよ」
「は? そんなものとっくに終わってるぞ」
今何時だよ
もう4時か、そりゃ授業も終わる。さて帰るか
「ま、待て!」
「あぁ? 心配すんな。明日からはちゃんとやるから」
「そうじゃない。いやそれは当然だ。校長室に来い、というのが伝言だ」
校長室!
そこまで大事かよ……サボりすぎたか?
俺はどうもあの人は苦手なんだけどなぁ……
ふけたら恐いし、しょーがない。行くか、どうせ対中も一緒だろうし
「しょうがない。行くか対中」
「なんだ俺もセットかよ」
俺と対中は嫌々校長室まで歩いて行った
この学校の校長はこの学校に勤める教師の中では最年少だ
なんせまだ未成年らしいからな
「困りますねぇ桜木くんに対中くん」
そして、なんと言っても綺麗な人だ
品がある。あまり教師という感じがしないのだが
「特待生がこの結果では……」
校長は俺と対中の成績と俺たちのことを見ながら言う
「では、ここで1つゲームでもしましょうか」
「「はぁ?」」
「たまには娯楽も必要でしょ? もちろん勝てたらご褒美をあげます」
まさか、この人がそんなことを言うとは思わなかった
全校集会でも、こうして呼ばれての話でも随分堅い奴だという印象しかなかったが……
「は、はぁ。でもゲームって俺等が校長と戦うんですか?」
対中の問いに校長は笑顔で答える
「いえ、私ではありません。敵は全校生徒ですよ」
俺も、おそらく対中もいまいちぴんと来ない。まさか全校生徒相手に魔法で戦えなんて無茶苦茶は言わないだろうし
「あなたたちは今はDランク。これは特待生としては異例です。そこで今から1ヶ月の時間を上げましょう。その間に、Aランク以上になれればあなたたちの勝ち、出来なければ私の勝ちです」
1ヶ月でDランクからAランクに?
そりゃ無茶じゃないか? 同じDランク連中ならともかく上位の連中なんて半端じゃねーぞ
まぁ……
「不可能じゃないでしょう?」
確かに不可能ではないが
難しいのは確かだ
Aランクには魔法力5万を超える連中がうじゃうじゃいる
魔法力5万、という数字は俺としてはいまいち思うこともないが、相当なレベルだそうだ
他人の魔法力に興味はないが、校長は9万7千だったっけな
「無茶苦茶だ。なぁ対中」
「面白そうだ! やってやろうぜ桜木!」
こいつなに言ってるんだよ
それやるには真面目に学生やらねーといけないんだぞ。サボれねぇぞ
「で、ご褒美って何だよ」
「そうですねぇ……ではAランクまでいければ……私があなたたちの言うことを何でも聞きましょう」
「マジ!?」
食いついてんじゃねぇよ対中。情けなさ過ぎるぞ
しかしなんでもか、校長の権限があれば相当のことは出来るだろうな
でも、いらねぇわ
「悪い。俺はいらねぇわ」
「そうそう、出来なければ……私の専属メイドさんにでもなってもらいましょうか?」
なんだと!?
こいつ、目がマジだ! 笑顔なのに目がマジだ! こえぇ!
「待てよ。俺はやるなんて一言も「やりますね? 桜木和馬くん?」
こ……こえぇ
相変わらず笑顔なのに今度は目が、殺すって言ってる……
「……はい」