日野市地下街②
「すいません」
「あら、珍しい。男性のお客さんなんて」
大きな眼鏡をかけた、女性が迎える。
「いや、今日はお聞きしたいことがあって来たんですよ」
「聞きたいこと? 何かしら」
「人間世界って書かれたTシャツ、知っています?」
「人間世界? さあ知らないわね」
「そうですか。ちなみにそういった服を扱っていそうな店ってありますか?」
「ちょっとわからないわね……。あ、でもたくちゃんなら知っているかもしれないわ」
「たくちゃんですか?」
俺の問いかけには答えず、女性は店の奥へ小走りで消えた。
竹丘に視線をやると、眉間にしわを寄せていた。
女性がスマホを持って戻ってきた。
「あ、もしもし? たくちゃん? 今大丈夫? そう、ありがとう。なんかね、今刑事さんが来て、いろいろ聞かれてるのよ。そう。やだ、私じゃないわよ。私は何もしてないわよ。うふふ。まったくもう。うふふ。そう、それでたくちゃんうち来られる? ちょっと話してあげてくれないかしら。うん、そう、あら、いいの? よかった。ありがとう。じゃあ伝えるわ。はい。はい。はあい。後ほどね。はい、後ほど。はあい」女性が通話を終える。「たくちゃん来てくれるって」
「たくちゃん?」
「あらやだ。問屋さんのことよ」
「問屋さんですか。あ、それはありがとうございます。どれくらいで着くとか言っていましたか?」
「ええ、三十分くらいって言っていたわね」
「そうですか。それなら営業の邪魔になってはいけないので、また三十分後に伺わせていただきます」
「いいのよ、気にしないで」
「いえいえ、そういうわけにはいきませんので」
大きな眼鏡をかけた女性は引き留めようをするが、お礼を言って店を出た。
「問屋のたくちゃんね」
竹丘が電子タバコを咥える。
「助かるな。問屋に聞ければ服屋の大体は網羅できるだろう」
「確かにな」
「ここは喫煙スペースじゃないぞ」
竹丘の電子タバコを取り上げる。
はいはいと言い竹丘が電子タバコをしまった。
三十分時間ができたので、腹ごしらえをすることにした。