日野市地下街①
都心の地下は戦前から開発されていたことと地下鉄が走っているため、発展が遅れた。
その反面、都下の地下は価値が安い点と邪魔するものがなかった点で、発展が進んだ。
それに伴い都下の人口が増加した。都外から来た者のほとんどは都下に住むことになったのだ。
しかし時が経つにつれ都心の地下も発展し、人も流れた。やはり都心の方が今も昔も人気なのだ。
都心は開発に開発が進み、どんどん発展していくが、それに反比例するかように都下は寂れていった。
日野の地下街もその一つ。地下街としては機能しているが、かなり年季の入った街並みになっている。
スラム街とまでは言わないが、かなり治安の悪い地区もある。犯罪組織がねぐらを構えていても何ら不自然ではない。
竹丘がインプレッサを平山城址公園のパーキングに停めた。
車を出る。数キロ先に大きな壁が見える。
東京を囲む壁ではない。多摩川を隠す壁だ。
多摩川が氾濫した場合、地下街が水に沈んでしまう。そのために作られた堤防だ。ハイパー堤防と言う。
「おい、行くぞ」
竹丘が急かす。
「ああ、悪い」
日野の地下への入り口の一つは平山城址公園にある。
階段を下ると、エントランスがある。ここからエレベーターで目的の階へ行く。
商店街のある地下六階のボタンを押す。
なめらかではない動きでドアが閉まり、ぎこちない揺れをして箱が下る。
「本部から連絡はあったか?」
竹丘が聞く。
「ああ、あった。日野の地下街の映像をチェックしてくれたらしい」
俺はスマホを取り出す。
「どうだった?」
「ここ一週間の映像をもとに調べた結果、服を売っている店で人間世界と書かれたTシャツを扱っているところはどこにもなかったってさ」
地上、地下街どちらにしても東京はカメラで四六時中監視されている。公共施設以外の建物の中までは監視することはできないので、死角になっている可能性はある。
「そうか……。それじゃあ聞き込みになるな」
「そうなるな」
地下六階に着く。ドアが大げさな音を出して開く。
足取りが重いが、やるしかない。
「おばさまが話していたって言っていたよな」
竹丘が確認する。
「ああ。だから裏通りの店や密売のような怪しい店ではなく、一般的な店と考えていいだろう」
「そうだな」
地下街はどこも時間の経過が表現される。太陽がないからといって、一日中ライトで明るくするわけにはいかない。日光と同じように朝昼夕夜と光がグラデーションを映し出す。
そのため天井は高い。地下六階と言っても三階分くらいの高さがある。
思いの外地下街はにぎわっていた。府中駅での悲惨なニュースは見ていないのだろうか。
スマホで服屋の位置を調べ、二人そろって向かう。
『ブティック美麗』と掲げられた看板の店。ショーウインドウのマネキンがポーズを決めている。
おばさまと服屋……安直に考えすぎたかもしれない。ここに売っているとは思えない。
しかし一つずつ潰していくのが捜査の基本だ。
俺はガラス部分に『ブティック美麗』と小さく書かれたクリーム色のドアを引く。