府中駅②
「すいません。公安です。話、聞かせていただけますか?」
「あ? 公安? はぁ。まあいいですよ」
あからさまに嫌な態度を取る。警察と公安はこういう関係だ。
「最初の通報は午前十一時頃。すぐに派遣しましたよ。駅に交番がありますからね」
警官はあそこですよと交番を指さす。
「ただ一人二人派遣したところで何にも意味がなくて、すぐに応援要請がありました。警察署も近くなので応援もすぐに駆け付けましたが、もみくちゃになりましてね……。映像見ました? 地獄でしたよ」
嫌々ながらもしっかり話してくれた。
「大変でしたね。何か人間世界の手がかりかなんかはありましたか?」
メモを用意し、質問をぶつける。
「さあ? 私は駅の封鎖に当てられましたからね。現場のことはよく知りません」
「そうですか。ありがとうございます」
二人で頭を下げ次は鑑識に話でも聞くかと目を合わせた。
「あ、そういえば」
警官が二人を引き留める。
「どうしました?」
「いや、手がかりってわけではないのですが……」
「気になることがあれば何でも話してください」
「はい。一般人に状況説明をしながら駅の封鎖を当たっていたのですが、おばさまたちが、人間世界のTシャツを日野の地下街で売っているのを見かけたと話をしているのを聞きました」
「貴重な情報です」
二人そろってメモを取る。
「まだ裏は取れていませんが」
「それは私たちがしますから。警察も捜査するでしょうが」
「詳しい店の名前などは……」
「言っていませんでした」
きっぱりと警察官が言う。
話し方が変わったと思ったら、刑事がこちらに睨みをきかせていた。
刑事がこちらを見ている以上、もう話を聞くことはできないだろう。
「そうですか。いやあ、ほんとありがとうございます」
「いえ」
バツの悪そうな警察官。
一応刑事にも会釈をして現場を去る。
多分あの警察官は余計なことをしゃべるなと怒られるだろう。
事件の解決に近づく行為は時に警察の怒りを買う。
「日野の地下街って広いよな」
車に乗り込むと竹丘が言う。
「ああ。古いしな」
「それじゃあ久しぶりに靴の底を減らしに行くか」
竹丘が運転する横で、公安本部に今仕入れた情報を送信した。