府中駅①
「人間世界を取り戻せ! 人間世界を取り戻せ!」
「警察の指示に従いなさい! 今すぐにやめなさい!」」
「人間世界を取り戻せ! 人間世界を取り戻せ!」
「抵抗はやめなさい! 指示に従いなさい!」
警察官たちと「人間世界」と書かれたTシャツを着た服面の者たちが府中駅でぶつかり合っている。
その応酬の声とは別に一般人の悲鳴、怒号が鳴り響いている。
ぶつかり合う二つの勢力の隙間から見えるのは、横たわった数体の亡骸。
頭の部分と心臓の部分がえぐられており、ヒューマノイドの証拠を探しているのだろうと見て取れる。
見た目ではヒューマノイドか否かは判断できない。恐らく無差別に殺人を行ったのだろう。
「いたぞおおお!!!!」
亡骸を漁っていた一人が何かを掲げ叫んだ。
おそらくチップだろう。ヒューマノイドがいたということだろう。
その声を聴いた防御班は歓喜の声を上げた。
しかしそのせいで守りが弱まり、隙をついた警察が人間世界の者どもを捕らえていく。
逃げる人間世界の者もどんどんと捕まっていく。
自らを刺しこの世から逃げていく人間世界の連中もいた。
「と、まあこんな感じだったみたいだな」
竹丘のスマホの画面から現場へと視線を移す。
立川から府中駅まではサイレンを鳴らしても車で約三十分。
着いた頃には暴動は治まっており、ネットに出回っていた映像を見て状況を確認していた。
「地獄だな」
「ああ。それ以外表現のしようがない」
竹丘の言う通り、地獄だ。暴動そのものももちろん地獄の映像だったが、治まった後の府中駅は壁や床に飛び散った血が時間の経過で赤黒くなり、肉片が散らばっていて、まだ運ばれていない遺体が確認できる範囲で十数名分転がっていて、まさに地獄だ。
もちろん府中駅は封鎖されている。この現場を一般人に見せることはできない。
映像は出回ってしまっているので、検閲とサイバー対策課は今後、削除とアップロードのいたちごっこが始まるだろう。
とりあえず、現場にいた警察に話を聞く必要がある。
竹丘と並んで現場の警察官に声をかけることにした。