真実①
「きおったか」
椅子に腰を掛けた梅園博士がにやりと笑った。
博士の部屋はガラス張りになっており、高い塀に閉ざされた東京が一望できる。
夜の東京は宝石のようだが、きれいだと思える心理状態ではない。
「博士、一体どういう状況なのでしょうか?」
努めて冷静を装い、博士に詰め寄る。
いつも無表情の博士が微笑んでいるようだ。
「わしはいつも研究しかしておらん」
博士が書類をめくる。
「これは大成果だ」
「多くの人が死んでいます。こんな非人道的な研究は認められません」
「そんなことはない。これを仕組んだのであれば、わしが裁かれるだろう。しかしそれは違う。この道を選んだのはヒューマノイドを含む人類。わしはそれを観察しただけじゃ」
「観察? 詳しく話してもらえますか」
何を言っているかよくわからない。
「君には知る権利がある。話してやろう」
博士がパソコンを開いて画面をこちらに向けた。
「このリストが何かわかるか?」
名前や年齢、住所が入った欄に写真付きで人物が表示されて、リストアップされていた。
竹丘の持っていたリストと同じだ。
「これは。人間世界のリストですね」
「そうじゃ」
「なぜこのリストが? なぜ博士が人間世界のリストを持っているのですか?」
「簡単じゃよ。ヒューマノイドだからじゃ」
「なんだって!?」
博士が表情を変えずに言う。事実のみを語る博士だ。嘘ではないのだろう。
ただ嘘でないなら、なぜ彼らは「人間世界」を名乗りプログラムで禁止されている殺戮を行ったのだろうか。
「実験じゃよ。自分は人間だと認識させたヒューマノイドはどう成長するかと観察していたんじゃ」
梅園博士は、とんでもないことをとんでもなくないように話す。
「ヒューマノイドの一部が、人間だと思って生活してたと言うのか!?」
なんてことだ。政策だというのに、その中に自分の実験を紛れ込ませていたのか。
「そうじゃ。それによって、完全に人間に溶け込ませる方法を探していたんじゃ」
さっきよりも博士は興奮しているようだ。
「難しかった。定期的な成長のメンテナスをしながら、人間であるという思い込みを継続させなければいけないのだから。しかしどこかでヒューマノイドであることを感づいたようじゃな。なかなか優秀な者だったんじゃろう」
人間とヒューマノイドは見分けがつかない。「人間世界」という名前のせいで、俺は連中が人間の代表だと勝手に思い込んでしまった。「人間世界」がヒューマノイドである可能性を最初から破棄していた。
いや違う。ヒューマノイドは人間を傷つけられないはず。プログラムは常に監視されている。犯罪者イコール人間という方程式が成り立っている。
「事前に止められたはずだ。観察をしていたのであれば、プログラムの異常があった時点で中止にできたはずだ」
「そうじゃな。だが見てみたかった。どう選択しどう行動するかを」
「勝手すぎる!」
「どうじゃろうな。そもそもヒューマノイドか人間か見分けがつかない。露見しそうなれば君たち公安が真実を隠す。わしがどうこうしようが人間の行いとしてすべて処理される」
ヒューマノイドか人間かは見抜けない。見分けがつかないのに、ヒューマノイドを「人間世界」は排除しようとしている。それは無差別殺人と同じだ。
「二つ真実を教えよう」
博士は急にまじめな顔になった。
「一つ、わしは人間じゃ」
博士は人間だと聞いていた。しかし今は確証が持てない。
「そしてもう一つは……君も人間じゃ」




