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動画①

「おい、松山。この動画見てみろ」



 三日前に反政府勢力のビラを刷っていた印刷会社を突き止め取り締まった時の報告書をまとめていると、同僚の竹丘に肩をたたかれた。



「動画? 俺は仕事中だ」


「仕事に関係のある動画だ」



 有無を言わさず、俺の書類の上にスマホを横向きで立てかけ、竹丘は動画を再生し始めた。


 薄暗い部屋が映し出されている。無機質な部屋だ。


 そこに白いTシャツにジーパンを履き、頭には黒い布を巻いた、体格から男と思われる者が画面に現れた。


 白いTシャツに黒い字で「人間世界」と書かれていた。



「今から皆様にこの国の真実をお伝えいたしましょう」黒い布を巻いた男が大げさな動作でしゃべりだした。



 声は低く、男とみて間違いないだろう。


 一度男が画面から消える。


 画面には映っていないが、ドアが開かれるような音がすると、それと同時に女性の声が聞こえた。



「やめてぇぇぇえええ! 助けてぇぇぇえええ!」



 布を巻いた男が画面に再び現れる。


 今度は一人ではなく、裸に剥かれ手足を縛られた女性の髪を左手で引っ張って現れた。


 右手にはナイフを持っていた。刃渡り三十センチといったところか。



「俺はこいつを殺す。しかし殺人はしない。その意味は見ていればわかる」



 相変わらず低い声で話をしている。言っていることは過激だが、妙に落ち着いている。話すスピード、体の動きが興奮しているようには見えない。


 男はナイフを振り上げる。



「やめてぇぇぇぇええええええ! いやああああああああ!!」

 目を見開き、口を大きく開け悲鳴を上げる女。



 男は容赦なく女にナイフを振り下ろす。


 首に一撃。


 ごぼぉごぼぉ……。


 悲鳴が血を吐く音に替わる。多分まだ生きている。時間の問題だと思うが。


 男はナイフを女の身体から抜くと、再びナイフを振りかぶり今度はこめかみに突き刺した。


 血が噴き出し、男の白いTシャツがどんどん赤く染まっていく。


 女は見開いた目をさらに大きく見開き今度こそ絶命した。


 男はナイフでぐりぐりぐりぐりとこめかみをえぐる。血とは別の何かもどろどろと垂れ流れてくる。


 穴が大きくなったところで、男はナイフを置き、その穴に右手を突っ込んだ。男の肩まで女の内臓物で汚れている。


 頭の中の何かをつかんだようだ。だが、なかなか抜けないようで、左手で女の頭を押さえつけ右手を引き抜こうとしている。


 何度か力を入れたところで、目的のものが取れたようだ。


 右手にはどろどろの内臓物がまとわりついた何かが捕まれている。


 用意していたペットボトルの水でそれを流すと、コンピューターのチップだった。大きさにして約五センチ四方だろうか。


 次に男は女の亡骸を仰向けにし、みぞおちにナイフを刺し腹を裂いた。


 女は絶命しているので、血があふれることはなかった。


 またも傷口に男は右手を突っ込む。みぞおちから左胸、心臓のあたりを探しているようだ。


 これもまた簡単には取れないようで、苦戦している。


 ぐちょぐちょと内臓のえぐられる音だけが響いている。


 ぶちっという音が鳴ると同時に男の探していたものが取れたようだ。


 案の定、内臓物でどろどろの何かを水で流す。


 こぶしサイズの機械だ。



「この女は人間ではない。人間そっくりのヒューマノイドだ」



 返り血と人体解体の際に浴びた内臓物で汚れた男が、両手にチップと機械を持って話し始めた。


 さっきよりも語気が強い。女を殺して解体していくうちに興奮してきたのだろう。



「このチップがAIでこの機械が心臓の役割をしている。この国には人間に化けたヒューマノイドが紛れ込んでいる!」



 もはやこの男は冷静ではない。怒鳴るように言う。



「人間世界を取り戻せ! 人間世界を取り戻せ!」



 男がこぶしを突き上げ合言葉のようなことを言ったところで動画が終わった。


 画面が暗くなる。


 眉間にしわを寄せた自分の顔が反射して見えた。

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