失踪②
竹丘の家は国分寺にある。年季の入ったアパートだ。
入職当時、竹丘の家で飲み明かしたことがあった。
この国を守るんだと若いが故の熱い思いを語り合った。
今もその思いは持っているつもりだが、熱さというものは冷めていく。
そんなことを思い出しながら、竹丘の家のチャイムを鳴らす。
反応はない。
そりゃそうだろう。
電気メーターはゆっくり回っている。
家にいないのだろうか。
ドアノブを回してみるが、開かない。
ドラマじゃない。都合よく開いているわけがない。
大家は隣に住んでいると言っていた。
右隣は津田。左隣が木下。
コーポ木下というアパートなのだから、大家はきっと左隣だ。
チャイムを鳴らすとインターホンからどちらさまと声が聞こえた。
「すいません。私、公安のものなんですが」
そう伝えると、少し待っててくださいと言われたので、静かに待つ。
しばらくすると、おとなしそうなお年寄りの男性が出てきた。
「なんでしょうか?」
「コーポ木下に住んでる竹丘の家のスペアキーはありますか?」
手帳を見せて、そう伝える。
「何か事件ですか?」
「いえいえ、彼も私と同じ公安なんですが、調査の一環で家の中を抜き打ちで見る必要がありまして」
「そうなんですか? はあ、わかりました、少しお待ちください」
何の意味も分からないこちらの言い分に言いくるめられたようだ。
本来なら捜査上が必要だが、大家として大丈夫だろうか、木下老人。
「お待たせいたしました。こちらです」
木下老人からスペアキーを受け取る。
「一応、私一人だと不審でしょうから、立ち合いをお願いできますか?」
「はあ。わかりました」
二人で竹丘の部屋に入る。
第一印象はむさ苦しい。男の一人暮らしの部屋の見本だ。
流しには汁の残ったカップラーメンのごみ。割りばしが散乱している。
洗濯機は半開きでトランクスがはみ出ている。
竹丘に電話をかけてみるが、この部屋からの反応はない。本人が持っているのだろう。
ベッドは掛布団が乱れていて、起きたままの状態のようだ。
ローテーブルには飲みかけのペットボトルが数本。
デスクにはノートパソコンが置いてある。
起動してみる。パスワードの設定はなかった。
デスクトップはスイフトだった。インプレッサじゃないのか。
NSというフォルダがあった。
開いてみると、人間世界についてのファイルが並んでいた。
短時間に一人でこんなに調べていたのか。
人間世界の関係者と思われるリストが並んでいる。
公安で把握していない名前も混ざっている。
一人で解決しようとしていたのか?
「そろそろよろしいですか?」
木下老人がこちらを伺っている。
「ああ、はい。そうですね。そろそろ終わりにします」
持ち歩いていたUSBメモリーをノートパソコンに挿し込み、NSフォルダをコピーする。
立川に帰ってから調べよう。
木下老人にお礼を言って、アパートを後にした。




