メール
春。
多くの人間が花粉症に悩まされている。
生活拠点を地下に移した今でもそれは変わらない。
空気の循環システムが、地下に大量のスギ花粉を運んでくるからだ。
ヒューマノイドの中には花粉症をプログラミングされたものもいるらしい。
体内にセンサーが付いていて、花粉の量によって症状を微調整している。
俺は花粉症を持っていないヒューマノイドで、竹丘は花粉症を持っているヒューマンだ。
喫茶店『マロン』の窓側のカウンター席に鼻をかむ竹丘と並んでコーヒーを啜り、サンドイッチを食べる。
ガラスを一枚隔てた向こう側には人が行き来している。
「この中にヒューマノイドがいるなんてな」
竹丘が頬杖をついて言う。
「どうだかな。府中駅の事件だってかく乱するための芝居っていう可能性もあるぞ」
「そのためにあれだけの人を殺すか?」
「その方がリアリティはあるだろう」
「まあ、確かににそうだな。ただ何のために?」
「知らん。どうせ反政府組織だろう。理由は調べていくうちにわかる」
竹丘はヒューマノイドが紛れている可能性を少し信じているようだ。
となると、一般人でそう思っている人も多少はいるだろう。
政府としてどう対応していくのかはわからないが、俺は俺で「人間世界」の連中をお縄にかけるだけだ。
「そういえば、あれ以降本部から連絡はないのか?」
竹丘に言われスマホを確認する。
二件、連絡が来ていた。
「捜査本部が敷かれたそうだ。とりあえず俺らはこの聞き込みをしてから戻ればいいらしい」
「そうか。俺らは初動が早かったからな」
「ああ。ちょっとトイレに行ってくる」
トイレに移動し、二件目のメールを確認する。
これはHPEHからのメールだ。竹丘には見せることはできない。
ヒューマノイド政策に関する事項だからだ。
HPEHとはヒューマノイド政策実行本部のこと。めったにここから連絡は来ない。それほど緊急事態なのだろう。
メールの内容は、やはり府中駅の暴動の死者の中にヒューマノイドがいたとのことだった。
遺体は公安で速やかに引き取ったため発覚は免れたが、「人間世界」にどういうわけか真実を知られてしまっている。
そしてその個体のチップは回収できていない。
これを解析され、公表されれた時点で政府、国家の負けとなる。
公安のヒューマノイドとして速やかな解決をと連絡が来ていた。
発覚の経緯や「人間世界」に関する情報はわかり次第連絡があるとのこと。
今HPEH関係できることはない。続報を待つだけだ。
とりあえずは問屋のたくちゃんの話を聞くことにしよう。
トイレを出ると、竹丘はスマホをいじっていた。
「お、戻ったか」
「ああ、待たせた。そろそろ時間か?」
「そうだな。会計するか」
竹丘が、スマホをしまい、財布を出す。
公費で出すつもりだろう。俺は先に店を出て会計をしている竹丘を待つことにした。




