新日本
第三次世界大戦、日本は敗戦した。
アメリカ、イギリス、フランスの軍事力を持っても、中国とロシアにはかなわなかった。
戦争当初はアメリカ軍の猛攻で順調だったが、韓国が寝がえり、北朝鮮と反撃を始めたところから風向きが変わった。
あっという間に戦争は終結した。
フランスは中国が入り、社会主義に変わった。
イギリスとアメリカは莫大な金を払い解決させた。
一方、日本は全てを拒否した。
敗戦でボロボロになった日本は半分以上に減った人口を東京に集め、鎖国し、籠城した。
読んで字のごとくの籠城だ。東京を巨大な壁で囲い、国民すべてが都民となった。
実際は東京以外にも人はいる。籠城には兵糧が必要だ。その糧は自給自足で賄っている。東京以外の場所で農業や漁業を行っている。ちなみにこの作業員は国家公務員扱いだ。
日本軍は守ることには長けていたようだ。鎖国を始めた当初はひっきりなしにく中国軍とロシア軍が入れ代わり立ち代わり攻めてきたが、日本軍の迎撃に敢え無く退散していった。
今度は長期戦に持ち込んだのか、攻撃はせずに、日本列島の周りに空母や戦艦を配備し、警戒をしているだけだった。
インターネットも海外とは遮断されているため、実際のところはわからない。すべて日本国家の検閲を通している情報なので、海外の報道と同じかどうかも不明だ。
しかし間違いなく言えることは、籠城に一定の成果が出ているということだ。
少なくとも敵国が警戒をしているだけだという報道が出てからは攻撃を受けていない。敗戦直後は空襲などで、都内にサイレンが鳴り、緊急避難を余儀なくされることが多々あったが、ここ三十年は何不自由なく生活ができている。
戦争で人口が著しく減ったが、籠城が安定してからうなぎ上りで出生率が上がり、かつての東京の人口を超えている。
生活が安定したからという理由もあるが、ほかにも理由がある。それは東京の面積が増えたからだ。
東京が他県を包括したわけではない。都道府県境は今も昔も変わっていない。東京都民は土地を増やすために。地下に楽園を築いていったのだ。
戦争前はタワーマンションの最上階がステータスだったが、今は最下層がステータスだ。戦争は価値観を変える。
基本は地上が生活拠点の場ではあるが、地上に上がらなくても一生を終えるほどに発展している。
最初はこの生活になじめず、反発する勢力や団体が多くいたが、今はそれなりに順応しているようだ。順応させたと言うのが正確かもしれない。
戦争後は籠城を安定させるために、国内の反対勢力を弾圧した。警察の力が薄れるほどに公安が国中を取り締まった。そして今なお取り締まり続けている。
しかしそれらは時間が解決した。表立った反発運動はなくなった。国民は順応せざるを得ないとわかると、この国で快適に暮らすすべを考え行動するようになった。
戦争から三十年。この閉じられた楽園はこうして作られた。
そう、三十年は楽園のはずだった。ついこの間のあの時までは。
あの動画が出回るまでは。