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コード・ア・インフィニティ  作者: 豚肉の加工品
星空解放
5/14

もう始まっている物語  4

例えばの話しをしよう。

タイトルをつけるなら「真実」なんてのがいいかもしれない。

登場人物が限られた物語なんだけど、人間の本性が暴けるとても面白いものなんだ。


君と君の大親友がそこにいた。

場所は断崖絶壁の、落下したならまず助からないようなところだ。

君と君の大親友は焦っていた。

その崖には二人の大切な人が、必死にしがみ付いていたからだ。

君は母と妹。

君の親友は父と兄。

しかし、問題があったんだ。

君の親友は女の子だったために自分の「父親を引き上げるのは無理」だと言った。

でも、「あなたの母親なら引き上げることが出来る」と言ったのだ。

〝絆〟というものがある。

〝信頼〟や〝信用〟というものがある。

目には見えないものだが、確かにそこにあるからこそ大親友になれた。

だから君は言ったんだ。

「なら、引き上げる立場を逆にしよう」

これなら、どちらも助けることが出来ると思ったからだ。

「うん。分かった」

大親友も納得したのか、大きく頷いた。


それからの結末は想像にお任せする。

これはあくまで個々の感想だ。聞き流してくれてもいい。

そして……ここからが本題だ。


今のご時世で――――全員が無事だったなんていう奴はいないだろう。


誰しもが悲しい話しに心を打たれ、特定のものにはまり込むマゾヒスト。

誰しもが感動を欲して重要人物を殺しに行くサイコパス。

気が付いたら心が歪んでいて、自分は誰かと違うことをしたくてたまらない厨二病の集まりだ。


そして――――最後に付け加えるように、こう書いてあった。


あっ、今「俺はそんなこと思わないけどなぁ」って思ったでしょ?

誰かと同じ感想を持ちたくないから誰かと違う感想を言うけれど、結局は誰かと同じ感想を言ってしまう典型的な一般人。


そんな人間には「真実」なんて分からないよ。





いつ以来だろう。

制服を着たまま、通学路を真逆に辿っているのは。

この興奮する罪悪感を感じるのは、一体いつ以来だろう。


「てか、何で学校を休む必要があるんだろう?」


誰かと同じ通学路ではないのが功を奏したのか、それとも朝早くに家を出ていることが功を奏したのか、誰かの家から朝のニュースの音が聞こえるほどに静かな通学路には人の影がない。

だから影から何を思わることもなさそうだと、少しだけ安心した――――その時、


「――――あぁ……うん、今は後ろつけてる。ちゃんとそっちに向かってるよ」


聞き覚えがある人物の声に釣られて、後ろ振り返った。


「…………幻聴?」


にしては、やけにはっきり聞こえたような気がした。

いや……気がしたのではなく、確実に反応がある。集が反応を示した直後、息を呑んだような音が真後ろで聞こえた。


「――――……やっぱり聞こえてるっぽいよ? 今こっち振り向いたし、無意識かもしれないけど私と目が合ってた…………うん、その可能性高いよね」


誰かと電話しているのだろうか、途切れ途切れ聞こえるその声に耳を澄ませる。

……その、確かに聞こえる声。

文芸部の部長の妹である菅原葵……その人物と瓜二つなのだ。

だからなのだろう、こないだの幻聴は全く知らない声だったから何も反応は出来なかったが今は違う。

逆痴漢という珍しい出来事に頭を真っ白にしていた時とはまるで違う。何の変哲もない日常の一瞬に、紛れ込んだ怪奇現象のように近しい出来事なのだ。

例えるなら、歩いている途中に何度も黒猫が目の前を通り過ぎるような気になるようで気にならないような些細な現象と似ている。

だが、不思議と確信のようなものが得られている気がしているのだ。


「(幻聴なのかどうかは、これで分かるはず――――)」


悪いが、いきなり切り札を使わせてもらう。


「……部長妹(ぶちょまい)と同じ声が――――」


納得したかった。

この非日常な出来事に、確信を持ってみたかった。

ありえるはずもないと自然に思えてしまう非日常な出来事が、もしも自分の身に起こっているのならば体感してみたかった。

心霊が起こると思っている人。

霊感があると言う人。

心霊を見たことのある人。

これらを信じている人は全員、少なからず体感しているからこそ非日常を確信しているのだ。

逆にそんな摩訶不思議な現象に会ったことのない人らは、「そんなもの嘘に決まってる」と頭で思っていることだろう。

そう……――――それは、出会ったことがないから。

でも、誰しもが好奇心を(くすぐ)られてしまうことだろう。


出会ってみたい。


そんな感情が少しでも湧き上がった瞬間に、恐怖や畏怖の念など無意識に頭から飛び出しているものだ。

だが、問題はそもそもが非日常というものであることを忘れてしまっていたこと。

いつの間にか平和に終わるだろう、そうどこかで勘違いしてしまっていたのだ。


「逃げてッ!!」


後ろを振り返ろうとした体は見えざる何かによって押し飛ばされることになり、自分が立っていた場所には見事に抉られていた。

コンクリートの地面が、まるでプリンをスプーンで掬った後のようにごっそりと無くなっていたのだ。


「……――――え?」


そして、ようやく繋がった(・・・・)

いつぞやの誰かが言っていた〝世界と世界の間の世界〟。

想像もしようとしていなかった世界が、目の前に広がっていた――――


「先輩ッ、早く逃げて!!」


ひらりと紅蓮のマフラーが視界の端で揺れる。

そんな特徴的なマフラーを巻いてる人物など、集の脳裏には一人しかいなかった。


「……葵ちゃん?」


体に似合わない両手剣を地面に突き刺し、まるで自分を守るように立っているその小柄な背中を見上げていくにつれて、向こう側に見える存在に目を奪われていく。

赤黒く蠢くように見える肉体、涎を垂らしながらこちらを覗き込むように厭らしく見つめる角の生えた生物。


「……なに、あれ」


いつもなら目に止まるであろう両手剣。

聞きたいことが山ほどある思考回路。

でも、口が動いたのは思考停止を示すような一言だった。

見たことは無い。

集からすれば、それは漫画やゲームで登場するような存在。ゾンビと鬼を混ぜ合わせたような、目を合わせているだけで失禁してしまいそうな――――化物。


「いいから逃げてって――――」


ヨコセ……カラダ……


この世では聞いたことがない歪な声が聞こえた直後……

目の前で髪が吹き上がるほどの衝撃が走り、鼓膜が震えるような鈍い音が空気を震わせた。


「……コイツは一体何者なの?」


葵が両手剣を盾のように使い化物の蹴りを防いだのだ。

その衝撃は凄まじく、葵が首に巻いていた紅蓮のマフラーが揺れるように落ちてくる。

それを、集はゆっくりと目で追ってしまった。


カンセイ……スル、カラダ


「先輩ッ、早く逃げてください! 私じゃ長くもたない!!」


あぁ、目が合ってる。


目を凝らしても理解が出来そうにない闇のような瞳。

口の形は変わっていないのに笑っているように見える表情。

対峙している葵のことなど、まるで眼中にない。


だた、ただ…………真っすぐに――――俺を見ている。


「くっ!」


ブォォンッ! と両手剣を横に薙いだ風を切る音で、ようやく化物と集の視線が離れた。


「何で先輩が狙われてるのかは知りませんが、家まで走って下さい。そうすればお姉ちゃんと護衛が迎えに来ているはずです」


「え?」


「混乱しているのは分かります。でも早く逃げて下さい、先輩が行動しないと私も動けない。きっと……二人とも殺されるでしょう。もしかしたら、急に途切れた通話に異常を感じて向かって来てるかもしれませんが、希望は薄いでしょう」


「待て、待ってくれ。 何が起きたのか全然理解できてない……」


「理解なんてしてる暇はないです。その抑揚のない返事が証拠です! 時間がないんです! 見てください……あいつは私たちが会話していても、私が目を離さなくても(わら)ってる。完璧に舐められてるんですよ」


確かに、哂っている。

まるで砂場で遊んでいた子供たちが頑張って作り上げた砂山のトンネルを、哂いながら破壊するいじめっ子のように。

まるで「いつでも殺せるぞ?」と言っているようだ。


「…………ふぅ、そう考えると冷静になれるような気がしてきた」


「何を――――ッ!? 先輩……?」


〝世界と世界の間の世界〟……うん、納得できる。

地面が抉れても、葵ちゃんが大声を出しても周りからの視線は感じない。

どんな原理かなんてのは知らないけど、ここは確かに別の世界だ。


――――てか、冷静にあの化物を眺めると気持ち悪いなぁ。


「葵ちゃん。冷静になれるコツを一つ伝授しよう、それは非日常を日常に置き換えて考えてみることだ」


見た目。

声。

風景。

空気。

人物。

何か一つでも違えば、人間というものは違和感を覚えてしまうものだ。

だがそれも、その感覚を培えていないから。

つまり、全てを現実に置き換えて考えてしまえばいいということである。

そうすれば〝やっていいこと〟と〝やってはいけないこと〟の区別をつけることが出来る。

ゲームで人を殺してもいい。

現実では人を殺してはいけない。

こんな当たり前で当然のことを、どんな状況でも行えることが一番冷静になれる瞬間だ。


で? 今……俺がやれる最善の手はなんだ?


俺が逃げたら葵ちゃんが殺される。後に、俺も追われて殺されてしまうかもしれない。

俺が留まることによって葵ちゃんが殺された後に、俺も殺されてしまうかもしれない。

なら時間を稼ぐことは出来るか?

あの化物の速さを、改めて認識できるか?


「集先輩!!」


「…………一緒に逃げないと、どっちみち二人とも死ぬ可能性が高い。それなら気が付いて貰えるようするのが一番早いか? いや、もっと手っ取り早い方法があるか――――」


これは最終手段にしていたもの。

自分(・・)では出来ないことをやってもらうために、自分で作り上げた昔から常に一緒にいる(・・・・・・・)特別な存在。



「葵ちゃん……そのでっかい剣を借りるかも?」



あぁ、もう代わり始めている(・・・・・・・・)

勉強ができなかったとき。

運動ができなかったとき。

自分が、立ち向かう時に立ち向かえなかった時。

後悔はしたくないから作り上げた、〝もう一つの人格〟


「あとは、任せてよ」



そうして依代集は呟いた――――〝コード・ブレイヴ〟と

いい発散が出来ている。

もしかしたら、しっかりと設定を考え始めるかもしれないってくらいには頭の中で物語が進んでる。

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