もう始まっている物語 0
思いついて投稿してしまった。
五十インチ。
約畳一枚ほどの大きさの大画面に映った朝のニュースでは、春を告げたことを笑顔で発信している。
「今日は全国で入学式が行われる日」
「一年生は新しい日常を、三年生は卒業に向かう最後の年」
そんな言葉をつらつらと並べ立てるアナウンサーの女性はやけに楽しそうに話しているが、きっとワクワクしていない者などいないだろう。
どんな優等生だって、友達が一人もいないやつだって、素行が悪い有名な不良だって、心のどこかでは新しい日々を楽しみにしているはずだ。
「いや、フツーにダルいわ」
「別に? そんなに楽しみにしてはなかったよ」
きっと皆の周りにはこんなセリフを言う友達がいるかもしれない。
その真意は分からないけれど、新しいことを楽しめない者は学校という青春が舞う場所では生きてはいけないだろう。どうせ、結局は楽しそうに一年を過ごしてまた来年になったら同じことを言う。そして卒業するとあの日、あの頃、あの時間が、そんな建前から始まって楽しそうに過去を話すのだ。
「おはよー」
ほとんど瞼を開けておらず髪が爆発した状態。とてもじゃないが外に出てもいいような恰好をしていたとしても出ないで欲しいとさえ思ってしまうほどだらしない姿がリビングの扉を開けた。
「おはよ。どうしたの? 今日は起きるの早いね」
「いや流石に自分の息子が高校二年の朝に一人で登校させるのは親的にね……。という訳で起きてきたのよ、お父さんはまだ眠ってるけど許してあげてね」
「別に眠いなら寝てても良かったのに。今日も仕事なんでしょ?」
「あぁ? 息子の分際で母親に気を使ってんじゃないわよ。随分と生意気になったもんね、もしかして彼女でも出来て調子に乗った? お母さんに調子乗っちゃったの?」
……昨日の仕事で嫌なことでもあったんだな。今日は機嫌がよろしくない。
深夜に二人で帰ってきたならご機嫌取りしておいてよ、父さん。
「彼女は出来てないし、調子にも乗ってないでしょ。ただまだまだ寝足りないようだったからさ」
「全く、息子が母親離れしすぎてるわ。もっと甘えなさいよ、その度に会社で言いふらすんだから」
「いや、会社で俺の話ししないでくれる? むちゃくちゃ恥ずかしいんだけど」
「自慢して何が悪いの? お父さんもお母さんも口酸っぱく自慢してるわ、集のこと」
「……母さん。日本語って難しいよね」
寝ぼけているのは分かってるが、これは二日酔いもしているようで始まっている。
絶対に普段は言わないようなことをポンポンと口に出しては言いふらす。これは両親ともに言えることだが、酒に弱く酔いが長いなら大人しく眠っていて欲しい。
これは俺が早く出て行った方がいいな……
横目でテレビに映った時間を見るともう少しで七時になる頃。いつも通りの道を通って学校に向かえば朝練をしている者を除いてクラスで一番に登校してしまえるほど早い時間帯である。
そしてこういう時にふと思う。
歩いて行ける距離の学校は失敗だったかもしれない。
「俺はそろそろ出るから。ちゃんと酒は抜いて会社に行くんだからね」
「はぁ? 大人なめんな、二日酔いでも会社に行って仕事を出来てからが大人なのよ。私のことは良いから気を付けて行ってらっしゃい、事故事件に巻き込まれたら大変だからね」
◆
と、いう会話があるのは自分の家だけなんだろうと周りを眺める。
コンビニで立ち読みして時間を潰し、だいたいの人が登校してくるような時間に合わせてコンビニを出て見れば新一年生やら顔見知りやらが歩いている。
やっぱり一年生の最初は全員早めに登校してくるよな。その気持ちは分からなくないわ。
自分の家も歩いて来れる距離だったが楽しくて早めに登校して記憶が蘇る。
あの時は新鮮な心持ちでいた。
だが、
「おっシュー!」
「おい、繋げるんじゃねぇよ。伊達」
加藤伊達。
一年の頃に前の席に座っていたことから話すようになったのはいいが、絡み方が特殊なのが面倒な奴である。因みに『おっシュー』は初対面の時から言われ続けている挨拶であり、この一連の流れを学校生活の朝に毎回行っていた。
本当に面倒な奴である。
「えぇ、略せて良いと思ってるよ? 俺は」
「それはお前だけだ」
「いやクラス全員の総意かもしれないぞ? どうせお前はグループラインなんか見てないんだろうけどな。ま、俺はそれを利用して『おっシュー』を流行らせるけど」
「もうお前のせいで流行ってるだろうが! 毎朝毎朝みんなに言われるし、挙句には先生にも言われるくらいだ。広めすぎにもほどほどにしろ」
「そ・れ・な・らぁ、グループライン見ればよくなぁーいですカ?」
な? これは面倒だろ?
毎朝毎朝これだ。このテンションなんだ。
「お前……寝起き良すぎだろ」
「いや、このテンションは集以外にはやらんよ。流石にイライラさせちまう」
そう。こんな感じで普通に戻ってくれれば良い奴だ、もう一生それでいろ。
というか、せっかく良い奴なのに勿体ない。
「この状態でいれば、毎週必ず一回は言う彼女欲しい宣言も叶うっていうのにな」
一年の頃からそれはもう毎日のように言っていた、あのセリフ。
「あぁ、彼女欲ちぃ……」
黒縁の眼鏡を鼻先まで垂らし天上を見ながら伊達は言っていた。
顔立ちも、性格も、体格も、どこをとっても周りと引けを取らないの加藤伊達という男。
幸いにも学校には王子様もマドンナ的存在もいやしないのだから、誰かとは結ばれることになると思っている。
「お前は友達だからな。応援はしてるんだぜ?」
「…………そのセリフ、待ってたぜ?」
「え?」
「私事ではありますが、春休みに彼女が出来ました。ありがとうございます!」
勢いよく礼をするのは良いが、眼鏡がズレてるぞ。伊達
これは息抜きかもしれない作品でごぜぇーやす。
まずは今書いているやつを一冊分終わらせる