三途の川と謎の男
第3作目です。
ここからだんだん登場人物が増えてきます。
「…なに、ここ…」
秦広宮で秦広王や倶生神達に別れを告げた私は転移したところから歩き続けてようやく三途の川と思しき川までたどり着いた。
けれどそこには川と言うにはあまりにも異様な光景が広がっていた。
赤黒い泥にも近いような水がゆっくりと上流から下流へと流れていて、下流に行くにつれて勢いが強くなっている。
それによく見てみると川の中には美しい人魚がいると思えば
おぞましい姿をした牙のあるサメのようなものも泳いでいる。
けれど、川の向こう岸には初江王がいると思われる建物がかすかに見えていた。
「この池を泳いでいくのね…」
考えただけでも怖気がする。
渡り着る前に川の中の生き物達によって跡形もなくなってしまうのではないかと考えてしまう。
「君、こんなとこで何してんの?ここは第一ルートじゃないよ?」
「へ?」
私が立ちすくんでいると、後ろの方から若い男の人の声が聞こえた。
直ぐに声のした方を振り向いてみると背の高い綺麗な顔立ちの男の人がたっていた。
(うわ。すごいイケメン…。でも、立ち振る舞いからして私と同じ境遇ではないようだし、何者なの?)
「そんな警戒しないで。僕は怪しいものじゃないから。」
ニコニコと笑っているその人は怪しくないとは言いつつも、行動はどこかたどたどしいし、目は泳いでるしでまるっきり怪しい人だ。
「貴方、誰ですか?」
「んー。僕?僕が何者かは今は明かせないんだ。君はまだ裁判を受けていないからね。ただ、君が分かれ道を間違えてそのまま突き進んでいたから呼び戻しに来たんだよ。」
「え?道ですか?」
「うん。君が持ってるのは一の木札だろう?この道を戻っていくと分かれ道があるんだけど、本来なら第1ルートの人はこの道じゃなくてこの道のもう1個右の道を進まないといけないんだ。
君みたいに道を間違える人もたまにいるんだけど、そのまま違うコースを渡ろうとしたのは君が初めてだよ」
その男性はあははと苦笑いをしてポリポリと顔を書くと
私に手招きをしてにこりと微笑んだ。
「てまり、おいで案内してあげよう。1人でまたあの道を戻るのは流石に退屈だろう?」
「え、あぁ…ありがとうございます…」
何故この男の人は私の名前を知っているのだろう。初対面のはずなのに。
まあ、いいか。悪い人では無さそうだし、この男の人が言う通り
ここからまた分かれ道まで1人で歩くのはとても辛い。
少し流されている気もするけれど、ついて行くのが1番得策のようだ。
「てまり、秦広王の裁判はどうだった?」
「え…?」
2人で私が来た道を戻っていると不意に男の人が聞いてきた。
相変らずその顔は貼り付けたような笑顔を称えていて何を考えているのかこれっぽっちも分からない。
「無罪と言われました。秦広王さんは優しいしとても綺麗でしたけど、少しその、怖かったです…」
今思い出しただけでも怖気がする。
あの冷たい微笑みはいつまでたっても頭から拭えそうになかった。
私があまりに滑稽な怖がり方をしていたのか、男の人は私に背を向けくつくつと笑いだした。
「あの…そんなに笑うことですか?貴方は裁判を受けていないようなので分からないかもしれませんが、ほんとに怖かったんですよ!」
ついムキになってキツめに言ってしまった。
しかし、目の前の男の人は笑い終わるどころかより一層
腹がよじれると言っても過言ではないほど笑いだした。
しばらく男の人が笑っている様子を無言で見ていると
やがて目頭の涙を拭いながら「わかるわかる」とうなづいてきた。
「秦広王は怒ると怖いよね。僕もそれはよく分かるよ。」
「え?貴方は秦広王さんのお知り合いなんですか?」
「ん?さぁ…どうだろうね。」
男の人は私が自分のことについて知ろうとするのが気に食わないのか、自分のことについては何も語ろうとしない。
今のように質問をしてもはぐらかされてしまうのだ。
「ほら。もう三途の川に着いたよ。ここからは1人で行った方がいい。」
「わぁ…すごい!相変わらず川はこの世のものとは思えないほど汚いけど橋がかかってる!ここまで連れてきてくれてありがとうございまs…ってあれ…?」
私が三途の川を見た後にお礼を言おうと辺りを見回しても先程の男の人の影はどこにもなかった。
いつの間にここを立ち去ったのだろう。ほんとに不思議な人だった。でもお礼すら言えていないのに…。
せめてお礼を言う時間くらいは待って欲しかった。
余程せっかちな人なのだろうか。
「まあ、変な人だったけどまたどこかで会えるよね。
さっさと三途の川を渡らないと。」
私が三途の川の橋の近くに行くと1人の角を生やした…男の鬼のような人が近づいてきた。
「通行木札を提示してください。」
「あ、えと…これですか?」
私はその鬼?に秦広王から貰った一の漢数字が着いた木札を見せた。
鬼は私から木札を取ると、木札を裏表確認する仕草をすると、
確認が終わったのか私に木札を返してきた。
「通行を許可する。」
「え、あぁ…ありがとうございます」
鬼は私にコクリと頷くとそのまま、また別の同じように橋を渡ろうとしている人の所に行ってしまった。
「まあ、許可されたみたいだし、橋を渡ろっと。」
かけられた橋から下流の方を見てみると、さっきまで私がたっていた場所が見えた。その近くの川では私と同じような裁判を受けるために向こう岸に渡ろうとしている人が一生懸命川を泳いでいた。
何故この橋をわざわざ使わずに川を泳いでいるのだろうと疑問にも思ったけれど、何となく理解はできた。
きっと秦広王から木札を貰っていないのだろう。
少し可哀想だけれど、生き物を傷つけたり殺したりした人は貰えなかったのかと考えると因果応報な気もした。
そんなことを考えているとあっという間に川の向こう岸に着いてしまった。少し遠くに次の裁判をする初江王さんがいるという建物が見える。
三途の川からその建物まで歩いて近づくにつれて、遠くで見ていたせいで普通の大きさに見えていた建物が、とてつもなく大きい宮殿であることに気がついた。
「うわ…秦広王さんがいたところの2倍はある…。
一体どんな人が裁判官なんだろ。怖くなければいいけど…」
少し緊張はしているけれど、何もやましいことはしていない。
きっと無罪になるはずだ。
私は恐怖ですくみ上がりそうな自分の心を奮い立たせて、初江王さんがいる大きな建物に足を踏み入れた。
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