目覚めた先は
第1話です。
実際の地獄の描写は諸説あります。
必ずしも、この小説内のことが本説だとは限りません。
また、完全なフィクションも含まれます。
「……きて!」
「て…り…おきろ!」
誰かが頭の中に直接語り掛けてくる。うっすら目を開けて見ると、目の前には星が道を形作るように夜空に浮かんでいて、とても幻想的な景色が広がっていた。周りを確認してみてもどうやら私の知 っている場所では無いようだ。それにしても起きろなんて言われたのはいつぶりだろうか。昔は母さんがそうやって私の事起こしてくれたっけ…
「んー…母さん、あと5分寝かせてよ…」
幻想的な絶景と静かな環境のおかげか自然と心地よい気持ちになりついいつものように甘えてしまう。
ゴロゴロとしばらく睡魔と戦い寝返りを打とうとすると
今度は聞きなれた優しい声が聞こえてきた。
「てまり、起きなさい。もう朝よ」
「母さん!?」
何年も前に聞いたきりの母さんが私を起こす声が確かに聞こえてきた。けれど、そこに母さんの姿はどこにもなく、代わりに
ふよふよとただよう不思議な生き物がいた。
10センチほどの人間に羽が生えたような妖精のような姿をしている。
「ようやく起きたか、死んでも眠り続けるとは何事なんだ。」
「まあまあ、兄さん。てまりもちゃんと起きたのだから、
そうカッカなさらないで」
妖精のような生き物は私のことをマジマジと眺めながら何やら話をしている。
1人は男の子の姿をしていて、私をみて何やら呆れているようだ。
片方に対し、もう片方は女の子のようで、私を見てニコニコと微笑んでいる。
「貴方達…誰…何?」
そう尋ねると2人は目をぱちくりさせて、お互いを見合った。
「そういえば人間は生前は私たちが見えないのね兄さん。」
「そういえばそうだったな。人間とはなんとも不便な生き物だな。」
妖精達は私の質問に答える気がないのか一向に話を進めようとしない。
「あの…私の質問に答えてくれない?」
「あぁ、ごめんなさい。てまりにとっては私たちとは初対面なのよね」
私がすこし強めの声できくと
女の子の妖精がそう言って頬に手を添え、ふふっと笑った。
「僕達は倶生神だ。生まれてから死ぬまでの人間の善悪を監視し、報告する義務がある。僕はてまりが生まれてから死ぬまでに犯した悪行を、こいつは善行を記録していたんだ。」
倶生神…名前に神と着くのだから神様のようだ。
しかし、この倶生神達の説明で私はひとつ違和感を覚えた。
その違和感は私の中でふつふつと沸上がり神様相手についに爆発してしまった。
「つまりあんた達は私が赤ちゃんの頃から今までずーっと私の事監視してたの?!いくら神様でもプライバシーの侵害よ!」
「神にプライバシーなんか通じるものか!」
「てまり、ごめんなさい。でもあなたの事を記録するにはずっと付き添わないと正確なものが書けないの」
男の子の倶生神は私が怒ると同じように怒ってきたけれど、女の子の倶生神はニコリと微笑んで軽く謝罪をしてくれた。
腑に落ちないところはあるけれど、女の子の方が謝ってくれたから、ひとまずプライバシーについては一旦置いて今の状況を整理しよう。
神様ということはここは俗に言うあの世という場所なのか…。
あの世だとすると私は死んだのだろう
けれど確かに母さんが死んだ後死にたいとは何度か思ったが
実際に死んだ心当たりはなかった。
「…私って死んでるの?」
「てまりは覚えていないのか?!まあ、死ぬ直前の記憶は曖昧になる人間もかなりいるらしいからな、仕方もないのか…。」
「てまり…。落ち着いて聞いてね。
貴方はお仕事の帰りに路上でストーカーの男に襲われて、
そのまま殺害されてしまったの。」
そういえば、そんなこともあったような気がする…。
言われてみれば少しずつ思い出してきた。
冷たい地面に広がる私の血、地面にころがった私を揺する通行人。
殺された瞬間の映像が急に脳裏に蘇り混乱した。
「…っ!」
「てまり、落ち着いてね。そうそう、深呼吸して…」
混乱する私をみて女の子の倶生神が寄り添って頭を撫でてくれた。すると、自然と頭に拡がっていた死んだことによる虚無感と嫌悪感がなくなった。
「ありがとう…。もう大丈夫よ…。」
「落ち着いたか?なら、これからてまりにしてもらうことを説明するぞ。」
「そっちの男の子は私の心配をしてくれないわけね…って
してもらうこと…?死んだ後もなにかしなきゃいけないの?」
「あぁ。むしろ死んだからこそてまりの魂の処置を決めなければならないんだ。先程、僕とこいつがてまりの善悪を記録していた、と言っただろう?それはこの先の十王による裁判でてまりの魂の行き先を決める時の重要資料になるんだ。」
「十王…?裁判…?私何も悪いことしてないんだけど」
「それはてまりが判断すべきことではなく十王の裁判で判決されることだ!」
意味不明な単語が男の子の倶生神からつらつらと述べられる。
倶生神の話に追いつけなくなった私を見かねてか、女の子の倶生神が私に先程の説明を砕いて説明してくれた。
「人間は死んだら必ず魂の行き先というものを決めなければいけないの。それは大きくわけて6つに別れるわ。
十王は裁判でその者の魂が来世にどこへ行くべきかを生前の行いによって判断するの。けれど、十王と言っても万能ではないの。全ての魂の生前を監視することは不可能なのよ。
だから私たちのような倶生神が一人の人間につき善悪1人ずつつき、生前の行動を監視、記録をしその記録を元に裁判を行うのよ。」
女の子の倶生神のおかげで男の子の倶生神が言わんとすることがようやく理解できた。
「ふーん。つまりその十王さんが私がどこに行くか決めてくれて、そのために私はわざわざ十王さんの所まで行かなきゃ行けないのね」
かなりめんどくさく感じる。私は早く母さんに会いたいのに、
わざわざ十王とやらに私の行き先を決めてもらいに行かなければならないなんて。
「てまり…そんな嫌そうな顔しないで?あなたのお母さんが確か転生してここで働いているはずよ。てまりがきちんと裁判を進めばもしかしたらてまりのお母さんに会えるかもしれないわよ?」
母さんに会えるという女の子の倶生神の言葉をきいて私の心は跳ね上がった。
久しぶりに母さんに会える、その喜びと期待に胸が膨らんだ。
「ちょっと!それを先に行ってよ!ほら早く、さっさと裁判してもらって母さんに会いに行こう!」
「なっ…まったくてまりはいつになってもお母さんのことが忘れられないんだな…。」
私がその場から走って裁判をする建物があるという方向へ進むにつれて何やら人の叫び声や怒号が聞こえた。
けれどそんなことは関係ない。
母さんがそこで働いているなら私もそこで働きたい。
今度こそはずっと一緒にいる。 生前の二の舞は絶対にしない!
希望に胸を抱いた私はその勢いのまま、星空に照らされた道を歩き出した。
最後まで見ていただきありがとうございました。
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