1:本当の始まり
どうも。初めて小説の連載に手をつけた佐藤です。初めてということで、文脈が変だったり、誤字脱字があるかもしれませんが、甘くみて下さい 。 ^_^
それでは、ゲームの世界へどうぞ。
「はあっ!」
「やっ!」
緑の草原には私とあいつの声と魔物たちの呻き声だけが響いていた。周りの敵を殲滅し、お互いにドロップ品を確認。するとあいつがガッツポーズで走りながら、
「やったぜ!今日は俺の勝ちだ!」
って大声で言ってきた。さっきからこいつと、敵からレアドロップの『青紫の真珠』を先に取ったほうが勝ち、という対決をしていた。
あいつの名前、正確には『キャラクターネーム』は【Aster】。この世界でも指折る強さを持つ剣士だ。私から言わせれば、確かにアスターは強いけど…バカだ。別に勉強ができないことはない。でも思考が おかしい。部屋でも、喫茶店でも、商店街でも、いっつも戦闘のことばかり考えている。「この技の後は左ステップよりも右ステップの方が0.2秒くらい速いな」とか、「弾道予測線を予測」とか、いつもぶつぶつ言っている。でも、だからこそ、戦闘での彼は立ち回りが凄い。
……などと感心している場合ではなかった。こっちに向かってきているアスターの背後には、赤と青の眼をした大きな何かがいた。アスターは恐らく気づいていない。やがて、その正体が明らかになった。それは、ドラゴンだった。【SHNM:Odd Eye Violence Dragon】という表記も見え、私は愕然とした。その名の右側に書いていたことに。それは、【Lv.463】ということだ。このゲームでは、パーティは最大4人までで構成する事ができ、出現するモブのレベルは最大でも、(パーティ内の全員のレベルの合計)×0.6である。私のレベルは102、あのレベルは104だから、最高でもレベル124までの敵しか出てこないということだ。逆にいうと、レベル125以上の敵は討伐不可と見なされる。それなのに……
「アスター、後ろ‼︎全力で走って‼︎」
と私は叫んだ。
「えっ?うしろ…? ってうわっ⁉︎」
アスターはようやく気がつき、全力でダッシュした。でも相手はドラゴンだ。飛行して追ってくる。
もう限界だ、とでも言うようにアスターがクッ、と歯噛みした。そして、
「アイリス、すまん、これはノーカンで!」
と言った。
「えっ?ノーカンって何のこ……きゃっ!」
アスターは勢いよく私を背負い、
「スキルコード36(サーティシックス)、発動‼︎」
と叫んだ。その瞬間、彼のHPバーの横に移動速度上昇のマークが6個表示された。確かマーク一個につき30%上昇だから、180%上昇している。その速度でドラゴンを引き離せた。そして、
「ワープ、BCS‼︎」
と言うと、私たちの体は空色の光に包まれ、ドラゴンの前から消え去った。
私たちはBCSの総督府にワープした。ここはフィールドからワープで戻ってくるときや戦闘でパーティメンバーが全滅した時に復活したりする場所だ。他にもクエストの受注やプレゼントの受け取りなどもできる。
総督府の外に出ると、私の眼下にはBCSの風景が広がった。いつも見ている景色だけど、今日は少し変わって見える。やっぱりあのドラゴンの影響で頭が混乱しているのだろうか。その時、アスターが手招きをしるているのが見え、そちらに向かった。
アスターに招かれてやってきたのは総督府の裏の喫茶店だった。
「ねえ、このお店大丈夫なの?私来たことないんだけど…」
私は総督府の裏に行ったことがなかったので、少し不安になった。するとアスターは、
「大丈夫。俺は結構来てるから。味の保証もしてやるぜ」
と答えた。ゲーム脳のこいつが大丈夫と言うのもなぜか信用ならなかったが、そこまで言うなら、と思い、
「分かった。任せる。」
と言った。
アスターが店のドアを開けると、鈴の乾いた綺麗な音が響いた。店内には、NPC(Non Player Character)のウェイターがおり、私たちを迎えた。そして、
「おや、アスターさん。今日は恋人連れですか?」
と言ってきた。NPCなのに、こんな設定もされているのか、と正直少し驚いた。アスターは、
「まあ、そんなところかな、」
と答えた。私は、
「ちょっと⁉︎なに言ってんの?何で私とあんたが恋人なの?」
と思いっきり反論した。こんなゲーム脳の奴と恋人なんて。……まあ顔は少しかっこいいけど…。
「ははっ、まあいいや。そこに座って。」
アスターは何もなかったかのように私を促し、正面に座らせた。
「何がほしい?」
と彼は聞き、メニュー表を開いた。価格の異様な高さに驚いてアスターを見たが、まあいいか、と思って、アップルパイと紅茶、と言った。アスターはガトーショコラとアップルパイとコーヒーを注文していた。金額はもう想像したくない。注文が済んだら、私がずっと気になってたことを聞いた。
「ねえ、さっきの『ノーカン』って何のこと?」
「あ、やっぱり気になってた?」
「そりゃあそうだよ。あれ何だったの?」
私が問い詰めると、彼は観念したようで、
「……誰にも言うなよ。実はあのスキルコード36は【神速一閃】っていうスキルで、抽選で全プレイヤー2037人中から1人に与えられるスキルなんだ。まあ、俺が持ってるってことは…」
「ってことは、まさかアスター、2037分の1を当てたの?」
「多分。」
これには驚いた。アスター一人だけが持っているスキルがあるなんて。
「アイリスも知ってると思うけど、スキルは未使用の状態だとプレゼントとして他プレイヤーに与えることができるんだよ。だからアイリスにあげよう、って思ってたんだけど、つかっちゃったから……」
「アスターが私に?なんで?」
「アイリスはOSを1個しか持ってないから。この『神速一閃』はROSだし、使い勝手も良いからさ。それに俺はOSは4個持ってるから。」
アスターが私にOSを譲ろうとしていたのには少し驚いた。でも言われてみれば、OSやOSSは自分以外に使える人がいないから、戦闘でも役立つ。
「……何か他にくれるのない?」
答えは即答だった。
「ない。っていうか全部使った。」
「だろうね。」
そこで沈黙した。すると間もなく、店員NPCが品物を運んできた。
私たちが軽く頭を下げると、NPCは消えるように厨房にワープした。
「話の続き、してもいいか?」
「ええ。」
もう話の内容は見当付いているが、聞くことにした。
「さっきのドラゴンのことなんだけど、レベルかやけに高かった。463だったっけ?総督府で運営にアクセスして、調べてもらった。」
相変わらずの作業の速さに驚きながらも、それで?、と促した。
「システムにエラーやバグは見つからなかった。だから俺が思うに……」
アスターは一度息を詰まらせたが、続けた。
「運営が完全に把握しきれていないエラーなのか、もしくは俺たちのパーティにレベル567以上のプレイヤーがいたか。まあ後者は考えにくいだろうな。」
確かに、レベル567以上のプレイヤーなんて見たこともない。私の知り合いに、最高レベルプレイヤーと称されている人はいるが、彼女でもレベル118だ。
「じゃあ、ほとんどの確率で運営側のミスってこと?」
「そうなる。」
そこでアスターはコーヒーを含んだ。そして、
「今度、現実で会おう。アイリスも東京住みだったよね?」
「そうだけど……」
「東京のどこ?」
「台東区。」
「じゃあ、台東にある『カフェ・サンデリオ』っていうところにしよう。俺の知り合いが営業してるところ。」
「分かった。じゃあ場所調べとく。」
「じゃあ、明後日の午後5時くらいでいい?」
「いいよ。私そろそろログアウトするから。一応メアド教えとく。何かあったら連絡して。」
私は彼にメアドを伝えると、アップルパイを平らげ、さっさと支払いをしてログアウトした。
その後アスターは、フレンドの【Luke】とパーティを組んで、再び同じフィールドに出た。
その日は雨が降っていた。というか、降ってきた。2026年10月21日、午後4時46分。ちょっと早く来すぎたかな、と後悔しながら、あの男、アスターが来るのを待っている。運悪く待ち合わせ場所を喫茶店の近くの公園にしてしまったため、雨よけも何もない。
5分くらい待っただろうか。後ろから足音が聞こえ、振り向くと、高校生らしき男の人がいた。全身暗めの色のコーデ。顔はゲーム内のアバターによく似ていて、雰囲気も間違いない。
「……アスター?」
私が名前を呼ぶと、彼も私に気づいたようで、
「ちょっと、現実でその呼び名はやめてくれ。」
と言った。
「そうだね。えっと…志穏くん、だっけ?」
「うん。桐島高校2年の岡崎志穏。君は?」
「私は昇英高校2年の結城菖蒲です。」
「名前が『菖蒲』だから【Iris】なの?」
「よく分かったね。」
私は素直に感心した。『菖蒲』の英語が『Iris』なのだ。私が2日かかって考えた名前をたった3秒で……
私が驚いていると、
「雨降ってるから早く行こう。傘貸すよ。」
と言って、彼は傘を貸してくれた。そして喫茶店へと向かおうとしていた。そこで私は、
「ちょっと待って、メールでもう一人くるって言ってなかったっけ?」
と言った。そうだ。確かに志穏とのメールで彼は知り合いも来る、って言っていた。すると、
「ああ、あの人はいいや。多分まっすぐ喫茶店に来るから。早く行こうぜ。風邪引いちまうよ。」
と、志穏は私を促し、喫茶店に早足で向かった。
1、2分歩くと店に着いた。ドアを開けると、ゲーム内で行ったところのような鈴の音が店内に響いた。そして志穏が、
「店長、いつもの3セット!」
と店に入るなり言った。すると店の奥から、腰にエプロンをした40歳位と見られる男性が出てきた。
「菖蒲、この人はぼったくり喫茶店長の高佐潤一さん。」
と志穏が説明した。私は、
「こんにちは。」
と軽く頭を下げた。すると高佐さんは、
「おう、岡ちゃん、言ってくれるじゃねえか。それにしても、お前がこんな可愛い子を連れてるなんて。さては彼女だな?いいなあ、青春ってのはよ〜」
と言ってきた。私は、
「いえ、別にそんなんじゃないんです。」
と言おうとしたが、志穏が、
「まあな、高佐さんも早くお嫁さん見つけろよ。家族もいないまま死なれたんじゃあ、知り合いとしての顔がないからな。」
と言ったのに妨げられた。しかしそんなやり取りを聞いていると、なんたかおかしくなって、笑いがこみ上げてくるのだった。すると高佐さんが、
「お嬢さんはコーヒーか紅茶どっちが好きかな?」
と聞いてきたので、紅茶です、と答えたら、
「じゃあ、今日はドリンクはコーヒーじゃなくて紅茶だな!」
と言った。志穏は、
「え〜、高佐さん、なんでだよ〜」
と軽く反論していたが、高佐さんは、
「これが、女の子の特権ってやつだ。」
と自分で頷きながら言った。私は、この店は当たりだ、と思った。
「よし、席は指定しないから、適当に座ってくれ。岡ちゃんは俺のことを尊敬してるからな。サービスってやつだ。」
「サンキュー、高佐さん!」
志穏は右手の親指を立てて笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます。」
と、私も頭を下げた。すると、
「いいってことよ。嬢ちゃんも楽しんでけよ。」
と言われたので、はい、と笑って返事をした。
「ここにしよう。」
と志穏が席を選んだ。入り口からすぐ近くの4人席だ。私は彼の隣に座り、間もなく運ばれてきた品物に目を通す。ミルクレープと紅茶と紅茶用の砂糖。
「甘いものばっかりだね。」
「うん。甘いもの、嫌い?」
「ううん、大好きだけど、お財布が持つかなって思ってさ。」
「そうか?じゃあ今日は俺の奢りな。」
「本当?」
「ああ。そのかわり、菖蒲にも奢ってもらうからね。」
と志穏は口元に笑みを浮かべながら言った。本当にこの人がWoBの上級プレイヤーなのだろうか。そう思った。
しばらくしてから、スーツを着た一人の男性が来た。志穏は、
「おっ、来た来た。」
と言って、男性を私たちの正面に座らせた。その男性は、銀縁眼鏡の奥から私の顔を見ると、
「どうも、WoB製作班長の田沼礫人です。あなたは、【Iris】さんですよね。志穏くんから聞きました。どうぞよろしく。」
と言い、座礼にしては深いお辞儀をしてきた。私も、こちらこそ、と言い、軽く頭を下げた。そうしたら、
「じゃあ話をしてもいいかな?」
と聞いてきた。私は、うん、と頷くと彼は、
「おととい、菖蒲がログアウトした後に俺はその人ともう一度フィールドに出たんだ。」
恐らく、『その人』とは田沼さんのことだろう。
「そしてその人と一緒にドラゴンに遭遇した場所に行った。それでその場所をよく見ると、空間が歪んでいた。そこに入ることはできたが出た時にドラゴンが現れた。SC36でまた逃げることができた。でも、ここから分かったんだ。」
「そのドラゴンはプレイヤーレベルに関係なく出現するってこと?」
「そういうこと。」
と彼はすぐ頷いた。
「田沼さんのアバター、【Luke】のプレイヤーレベルは52決して高いとは言えない。本来であれば俺が2レベ上がって106だから……」
と言い、彼は机でそろばんを弾く動作をし、
「…本来であれば……レベル95以上の敵は出現しないんだ。でもあのドラゴンは出てきた。レベルは見えなかったが、恐らく同じものだ。」
と言った。そして田沼さんは、
「僕もそのあとログアウトして、会社でゲームプレイヤー全員にログアウト命令を出したんです。そしてプレイヤーがいなくなったのを確認して、システムごと最新の状態に更新させました。すると、そのドラゴンがいたところに赤いエラーマークが表示されました。普段だったら、そのマークをタップすると、エラーの修復方法が出てくるのですが、今回のものはいくらタップしても出てきませんでした。」
と話した。
「じゃあ、今はまだ改善方法が分からないっていうことですか?」
「そうなります。」
私は頭を抱えた。製作班の班長さんでも分からないことを私たちが分かる訳がない。
「ですが、私の頭の中に一つだけ考えがあります。」
田沼さんが言った。
「それは、このゲームをクリアすることです。ゲームクリアするとしばらくしたらデータごと初期化されます。その時、マップデータも一度消去してから構築し直されるので、その時に直るかもしれません。」
と。ゲームクリア、つまり全クリということだ。しかしこのゲームでは、いまだに全クリなどうやったらできるのか、明かされていない。なので私は、
「WoBでは、何をしたら全クリなんですか?」
と聞いた。田沼さんは、
「はい。ここだけの話ですよ。アークタリウム城というフィールドはご存知ですか?」
と聞いてきたので、
「はい。最近解放されました。」
と答えた。このゲームでは、フィールドがいくつかあり、それぞれのフィールドのフィールドボスを倒すと次のフィールドが解放される仕組みだ。そのフィールドボス討伐のために、高レベルプレイヤーが集められる。そして戦闘中に死んでしまったら、次からフィールドボス戦に参加できなくなってしまう。そういう仕組みだ。
「その『アークタリウム城』というフィールドの中に『アークタリウム 中枢部』というエリアがあるんです。そこにはダンジョンが設置されており、そのダンジョンの最深層である第20階層のボス、いわゆる『ラスボス』を倒せばゲームクリアとなります。」
私は『アークタリウム 中枢部』という奇妙な響きのエリア名をしっかりとインプットした。田沼さんはさらに付け加え、
「そのダンジョンは各階層ごとにエリアボスを配置しています。何が出現するかはランダムですが、基本はプレイヤーレベルに関係なく、レベル200以上のものが出てきます。」
「200か……」
志穏が呟いた。今までで戦ったことのないレベルの敵に驚いたからだろう。
「基本的には、前回作であり、多大な死亡者をだしたBWBと同じですね。違うのは、ゲーム内での『死』は現実とは何ら関係ないということです。」
私はその時、視界の片隅で志穏が唇を少し噛んだように見えた。
BWBとは、正式名称を《Bow With Bullet》というWoBの先輩的ゲームだ。このゲームは、システムエラーにより、ゲーム内でHPが全損してしまうと、現実世界でも死んでしまう、というゲームだった。しかもその間プレイヤーはログアウトができない状態で、3年もゲームの中に居続けた人も少なくない。また、ニュースなどでも時々扱われ、ゲームクリアされた時には、ラスボス戦で最も活躍した《赤眼の英雄》こと【Genesis】が英雄的存在になっていた。その後BWB製作班は解散し、ゲームも一斉廃棄になったそうだ。人々はこれを『BWB無差別事件』と呼び、ゲームから生きて生還した人を『BWB survivor』と呼んでいる。
その後私たちは2時間くらいに渡って話し、喫茶店を出て家への復路をある家いる時に、時計は21:27を指していた。
家に着いた頃には21:40を回っていた。一人暮らしなので、適当に冷食を解凍して食べ、夜ご飯とした。その後シャワーを浴びてベッドに横になったら、一昨日のドラゴンの如く眠気が襲ってきた。空には大きな満月が青白く光っていた。
次の日は、朝早くからWoBにダイブした。すると私とほぼ同時にアスターもログインしてきた。
「おはようアスター。早いね。」
と声をかけると、
「なあに、これからが始まり……」
と言いながら、ふあああぁぁぁ、とあくびをした。
「やっぱり、ちょっと眠いんじゃないの?」
と言って肘で彼の骨ばった体をつついた。すると彼は、
「アイリスこそな。」
と言ってきた。私は別に…、と呟いてから、アスターを見ると、またあくびしていた。やっぱり眠いんじゃん、そう思ったけど、口にはしなかった。そしてアスターが、
「レベル200を相手するには、俺らがまずはレベル170くらいならないとな。」
と言った。そう、さっきもアスターが言ってたけど、これからが始まりなんだ。
このゲームとあのドラゴンの始末は、私たちに掛かってる。
「行こう、アスター!まずは経験値集めてレベル上げから。」
「なんか初心者に戻ったみたいだな。」
「そうだね。最初はとにかくレベルが欲しかったからね。」
「よっしゃ、やってやるぞー!」
と彼は声を上げた。いつものような楽天家の声だったが、彼は堅い意思を持っているように見えた。彼の2つの黒い目に、赤い決意の炎が宿っていたから。
WoBはどうでしたか?シリーズ物なので、これからも読んでいただけたら嬉しいです。作品について要望があれば、気軽にお願いします!
それでは、次巻でお会いしましょう。