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咲結編③ 【思い出されたことは】

今回は、前回よりも文字数が少なめです・・・。

咲結編③

「なっちゃん、ごめん。手、もういいよ?」

「あっ、ごめんね・・・!」そして、パッと手を離す。

私はなっちゃんの手に引かれて教室を出て、今、廊下にいる。

 たぶん、なっちゃんがこうして連れ出してくれたのは、あの人が私に向けた何か敵意みたいなものに気が付いてくれたからだと思う。

「なっちゃん、ありがとね」私は優しく顔を向けた。「あっ、いいのよ。全然」すると、なんだか焦ったように言葉を返された。

 あれ?少し様子がおかしい。最近、なっちゃんの調子が変な気がする。

「ねえ、なっちゃん。何かあるの?」不安になった私はなっちゃんの顔を覗き込んだ。

「え・・・」そんな声を漏らすと、直ぐにパッと顔が笑顔になる。

「何もないよ、だけど」

「だけど?」私はすかさず、聞き返す。

「少し、気になる事があって」そう言うとなっちゃんは俯く。

「気になる事って、何?」私は、直球に訊いた。そうでないと何故かダメだと思ったからだ。


「千賀っていう子、どこかで見覚えがない?」すると、また顔色が変わった。今度は緊張感のあるような真剣な顔。けれど私は、なっちゃんに訊かれた問題に首を傾げた。

「ごめん。わからない・・・」そう答えると、なっちゃんは「だよね」と言って安心したように笑った。私は、ますます意味がわからなくなる。


 見覚えがない・・・?

 私となっちゃんは、中学は離れてしまったけれど、小学校からは一緒で、同じ習い事もしていたし、かえちゃんのと私の関係も知っていて、私の中でとても近しい存在である。一緒にいる事も多く、思い出を覚えていない事なんて一つもない。

 けれど、あえて、あるとしたら・・・。


「なっちゃん。私、小学校の時の記憶、あんまり覚えてなくて。もし、その時に何かあったのならば、教えてほしい・・・!」

「え・・・」すると、なっちゃんの表情が凍り付いた。聞かないで欲しかった、そんな顔をしているなっちゃんをみて、私はなんだか辛くなってしまい「ごめん!」とすぐに誤る。

すると、なっちゃんは焦ったように「い、いいの!別に思い出したって、思い出さなくたっていい問題だし、その・・・、ただ!千賀っていう人が気になったのよ。見覚えのある顔だったから。それだけの話!もうお終い!」そう言ってニコッと笑って話を切ってしまった。


「う、うん。分かった・・・」私は曖昧な気持ちのまま、そう返事をする。

「うん!じゃあ、私ちょっとトイレにいってくるね」少し、恥ずかしそうにいうとそのままトイレのほうに向かって行ってしまった。


 見覚えのある・・・。私はもう一度考えてみる。

 そういえば、あの人と何回か目があって、名前を言われたときはすごい睨みつけていた。

あの千賀っていう人は、私の事を元々、知っていたの?生まれてくる疑問に私はわけがわからなくなっていく。

ああ、どうしよう。全くわからない。混乱する頭のなかで、私はかえちゃんに訊けばわかるかもしれない、とそんな考えが出てくる。


そうだ!そして、それと同時に私はある事を思い出した。

そもそも、今日かえちゃんに会っていないじゃないか・・・!と。


 私は小走りで直ぐ近くにあるB組の教室に向かう。次に、教室の雰囲気はどうなのだろうか、とひょっこり顔を覗かせた。

生徒たちの楽しそうな声が聞こえる。かえちゃんえを探すとすぐに見つかった。

 だって、クラスの中心にいて、とても目立っているんだもん。やっぱり、そういう姿は昔から変わってないなぁ・・・。私はしみじみ思う。

そういえば、見た事のある顔ぶれが多いな。B組は前のクラスの生徒達が意外に固まっていたんだっけ・・・。


満面の笑みで、かえちゃんが笑っている。私もなんだか、嬉しくなってしまった。

 あんなかえちゃんの笑顔は、久しぶりに見た気がする。心から楽しそうに笑っている顔。最近はちょっと、調子が悪そうだったから一安心だな。

きっと、かえちゃん、このクラスになれて嬉しかっただろうな・・・。


なんか、私といるよりも楽しそう。いや、絶対に楽しいと思う。

だって、あんな笑顔を最近、私に向けられたことなんて一度も無い。見たのだって、今ので久しぶりなんだし。

 

かえちゃんって私の事どう思っているのかな・・・?


それは今、私の中でふと溢れ出した、率直な疑問であった。

かえちゃんは私にとって、いつも隣にいてくれて安心できる人。だけど、かえちゃんは同じ風に思っているのかな・・・?。

 とにかく疑問に思って、今までの事を振り返ってみる。


 一番は、私がどれほどかえちゃんに迷惑かけてきたのか・・・。それだった。

そんなこと、目に見えているはずだ。かえちゃんの優しさにずっと、今でも甘えているのだから・・・。 でもかえちゃんは、血も繋がっていないし、家族でもないのに、私の事を今も面倒みてくれている。

 本当に、かえちゃんは私をどう思っているのだろう?


 そこからは、簡単だった。こんな簡単な事を何故、疑問に思えていなかったのだろうか。

 もっと、誰かといたい・・・よね。私の面倒じゃなくて、もっと楽しい事したいよね。

 連想ゲームみたいに、色々な事を思う。いや、違う。私って今、色々な事を気づいているの・・・?

 放課後だって、私の夜ご飯作るんじゃなくて、誰かと遊びたいよね。あれ、なんで今まで気づけていなかったの?

 こんなことが、まだ、たくさん出てくる。


 かえちゃんは、私のものじゃない。かえちゃんは、かえちゃんのもの。

 私が寄り掛かっていたら、かえちゃんはきっと、心の底から私に笑ってくれなくなるかもしれない。

 そんな事を考えていたら、頭がおかしくなりそうだった。


 そして、もう一つある疑問が連想ゲームの中でうまれた。

 もし、かえちゃんがいなくなったら私はどうなるんだろう。

 やっぱり一人になるの・・・?


 あれ?なんで今、私はこんな事を考えた?

それになんで、そんな答えが出たの?

何故だか息が荒くなった。自分でも分からない。笑っているかえちゃんを目に映していたら、目頭も熱くなってきた。

一人にしないで・・・。嫌だ、一人は・・・!

そんな気持ちが溢れてくる。どうして?自分が怖い。


 その時、頭の中で声が響いた。


『お前なんて、いらないんだよ』

『どうして生まれてきたんだ?』

『お前なんて、幸せになれない』


な、なに・・・?この声?男の人の声?傷つけられる言葉ばかりが頭を回る。

 ダメだ、なにか怖い。今、自分が凄く怖い。

このままじゃ、ダメだ。何かがくる。私は頭の中で必死にそれを押さえた。


『近寄らないで!』

今、大きく女の人の声が頭に響く。その瞬間に体は勝手に動き、逃げる様にB組の教室から遠いところまで走ってしまった。

 もし、あのままでいたら私の頭の中はどうなっていたのだろう・・・。

肩で息をする私は、また考える。

そして、拒絶反応を起こすように動いた体には心底、驚いた。


なんでこうなったのか、なにも分からないというのが本当に怖い。

誰かに相談しよう。一人になるのは、何故か避けたかった。

私は、もう一度小走りで元の場所へ戻る。


すると、なっちゃんの姿・・・、と坂本先生の姿がみえた。

 そして私はパッとある事を思い出す。

なっちゃんにも何か、悩みごとがあるんだ。

『嫌いなんだよね』あの時、先生の事に対してそう言ったなっちゃんの言葉は、鮮明に覚えている。そう言ったのはきっと何か事情があるはずだ。

なっちゃんにだって、きっと悩みがある。


それを私が重くしてどうするの?重くするんじゃなくて、軽くするのが私の役目なんじゃないの?

すると私の中でそんな思いがうまれ、そのまま私は下を向いた。


結局私は、誰にもこの事を話せていない。


最後までお読みいただきありがとうございました。

咲結が途中で思い出したものは、もしかしたら咲結の中にある記憶かもしれません・・・。


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