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咲結編① 【クラス替えの悲劇】

(※これは梨花編の続きではありません。咲結編の続きです)

咲結編①

今日は、始業式の日。

今私は、かえちゃんと一緒に、学校に向かっていた。木々が生い茂る並木道を歩いている。桜の花びらは、もうそろそろ散りそうだ。


「おい、咲結、忘れ物ねーよな?」聞かれるのはこれで、何回目だろうか。

大丈夫だよ、私は、面倒くさそうに答える。

「それより、かえちゃん!久しぶりにテレビを見たんだけど、あの女優さん結婚したみたいだね」話を無理に変えてみる。これは、大手企業の社長さんと有名な女優さんが結婚してたという話だ。ニュースで話題になっていた。今、自分の中で一番気になっている話でもある。


「ん? ああ。大手企業の社長とかだったよな。お前の母さんの方に影響なかったのか?」

聞きたかった、話したかった母の事を、かえちゃんが先に喋ってくれた。

「大丈夫だと思う。お母さんからも、メールこなかったし。逆に、かえちゃんの方に伝えらていたのかと思ってたから」

「そうか。まだ、何も俺の所にはきてないな・・・」そっか、私は小さく呟いた。もしかしたらとは思ったけど、そんな都合よくお母さんが会社の事とか伝えないよね。


「お、おいおい!そんな、顔すんな。きっと、咲結の母さんは大丈夫だ!お前が強気でいないでどうするんだよ」私は不安な顔をしていたらしい。かえちゃんは、私の背中をさすってくれた。やっぱり、かえちゃんの言葉は安心するな。不安な気持ちが段々と薄れていく。


「うん。そうだね。なんか、安心した。」

「ははっ、まあ、咲結は母さんのこと大好きだもんな。しょうがない、しょうがない」

安堵する私の隣でかえちゃんは、ニヤニヤした顔をしてからかってきた。こういう所、昔から全然変わってない。すぐ、私をからかうんだ。

「もう!母さんが心配なだけだよ」私は少し怒って、かえちゃんの顔をみないようにそっぽをむいた。

「でも、好きだもんな?」けれど、追い打ちをかける様にかえちゃんは言葉を放って、私の顔を覗きこむように首を傾けた。


もう、本当に調子がいい人なんだから・・・。好きか、だなんて答えは一つだけに決まってる事じゃん。いや、一つしか思い浮かばない事だよ。

私は、からかわれたのを腹いせに堂々と言った。


「大好きに決まってるじゃん」

何故か今、かえちゃんと目が合っていて、かえちゃんに対して言っているみたいだったけど、この答えはこれしか思い浮かばなかった。


かえちゃんは、なんだかビックリしたように目を開いて、少しの間ができた後に「だ、だよな・・・」と、言葉を発した。そして、パッと私との目線を外す。

 その後のかえちゃんは、なんだか変だった。静かで、話をしても単調気味だし、調子が悪そうに見えた。

 そして、腕で隠していた顔が赤く見えたのは気のせいだろうか。


☆☆☆


学校についた私たちは、校庭に集まることになった。そして、新しいクラス表が記入されている紙を取らないといけないらしい。今は、生徒が揃うまで自由時間らしく校庭に集まっている皆は仲良く駄弁っていた。


「咲結!」

「あ!なっちゃん!」校庭にやってきて、直ぐに声をかけてくれたのは、江藤奈津美。通称、なっちゃんという、私の友達だ。

「クラス替えのプリント貰った?」

「まだだよ~」

「あ、じゃあ、早く貰ってきなさいよ!早いもん勝ちとかじゃないけどさ!」

 そう言うと、楽しそうに笑った。なっちゃんが居ると、本当に空気が明るくなるな。

 なっちゃんは、本当に明るくて、こんな私を快く受け入れてくれた姉御肌の女の子。

 元々は、小学校が同じで小さいときからの仲。中学は別れてしまったけれど、同じ英会話教室に通っていたのでこうやって、同じ高校に受験した。

 そして、私がかえちゃんに頼りきっている事も知っている。


「うん!プリントはかえちゃんが持ってきてくれるって!」

そう言った瞬間、なっちゃんからデコピンをくらわされた。デジャヴを感じる。この痛さは覚えていた。

「咲結~、自分の力でやらなきゃ、ダメでしょ?」

「うう、だって、かえちゃんがやってくれた方が上手にいくし・・・」

「言い訳しない!」また、デコピンを食らわせられた。やっぱり、痛い。

 なっちゃんは、優しいけど、こうやってお説教のような事もしてくるのだ。

 すると、私はある事に気づく。「ねぇ、なっちゃん、香水変えた?」近くなった時、フワッといい匂いが香った。それは、いつもと違うフルーツの匂いだった。

「あー、まぁね・・・。」なっちゃんは照れた様に笑う。

「拓哉って人が好きな匂いだったよね、たしか・・・」私がそう言うと、「う、うん」と、なっちゃんはもっと照れたような態度をとって、遠いその彼に目線を向けた。

 拓哉、という人は、なっちゃんの恋人だ。なっちゃんが今、熱い目線を送っている。


なっちゃんは元々、男勝りな性格だったのに彼氏というものができてから、香水をつけたり、オシャレをするようになった。

 私にとって、理解に苦しむことだけど、それぐらい恋ってすごいものなんだと感じるようになった。本音をいうと、まだよくわからない所もあるけど・・・。


 そんな、会話をしていると、楓は帰ってきた。プリントを持ってきてくれたようだ。

「お、楓くん久しぶり~」

「おお、江藤。久しぶり」二人は軽く挨拶し合うと、楓はプリントを咲結にプリントを渡す。

なんだか胸がドキドキする。そんな私に、なっちゃんは小さな声でボソッと耳打ちをした。

「咲結と私は同じクラスだったわよ」そう聞くと、私は、よかった、と一言口から零れた。

 そして、自分のクラスを確かめる。2年A組か・・・。

 出席番号でいうと私は、清水なので、いつも最初の辺りだ。

 さて、私はもう一人の名前を探す。勿論、かえちゃんの名前だ。

 かえちゃんはの苗字は、篠原。だから、《し》の辺り。いつも、私のすぐ傍で・・・。


ん? 私はもう一度、念入りに見た。

あれ、あれ、あれ?待って、と私は焦る。

無い・・・?。


私はかえちゃんの方へ目線を向ける。すると、かえちゃんも同じように私に目線を向けていた。

「俺。B組だ・・・」


☆☆☆


 幼稚園の頃から、今までかえちゃんと私は、ずっと一緒で、クラスも出席番号さえも近かった。いつも、隣にいてくれて私を支えてくれる。これからも、きっとそうだと思った。

 けれど、今日の日で事態は一変した。

 まさか、とは思っていたけど、クラスが離れてしまったのだから・・・。


「ほら、元気だしなよ!私とは同じクラスになれたんだし!」

「う、うん」帰り道、私はまだ校内で廊下をフラフラしていた。

「私だって、拓哉と離れちゃったけど、帰り道が一緒だし・・・。あ、ほら、咲結だって、楓くんとは家が近いんでしょ?」拓哉っていう人と離れちゃったんだ。私は少しそこを気にした。

「そうだね。けど、やっぱり不安な事が多くて・・・」

私はかえちゃんとクラスが離れてしまったのが本当にショックで俯いた。

すると、「咲結はなにが不安?」と優しくなっちゃんは、問いかけてきた。

「クラスの人たちと離れて、なっちゃん以外に知らない人ばっかで、それかな」

「まぁね・・・。一年の時、私委員会やってたから、咲結とあんまり学校で会えないの多かったけど、咲結は一人にならなかったもんね。やっぱり、あのクラスメイトだったし、楓くんもいたからかな・・・」


 なっちゃんの言っている事は正しいと思う。元々、私は引っ込み思案であったし、性格もそんなに積極的ではない。じゃあ、なぜ仲良くなれたのか。それは、かえちゃんのお陰だと思う。かえちゃんは元々、要領も良いし、クラスの中心にいるような人だ。だから、私も皆と馴染めたんだと思う。それに加えて、クラスの人たちも優しかった。


「後、もう一つあって・・・」

「もう一つ?」奈津美は首を傾げる。

「担任の先生が、その、怖くて」

 新しく担任になった先生。その方は、男性で熱血指導をする事で有名な坂本先生という方だった。

そんな、先生が担任になるなんて予想もしていなかった私は、もう頭の中が不安だらけでいっぱいである。


「担任の先生ね・・・」すると、なっちゃんは目線を下に向けた。その目は、何かを思いだしているように見える。私は不思議と不安になって、「どうしたの?」と訊いてみた。


すると、なっちゃんは曖昧に目を泳がせて顔をあげ、こう言った。

「私、坂本先生のこと、嫌いなんだよね」と。そして、ハハッと笑う。いや、目が笑っていない。その声も、冷たく、言葉通りの黒いものが沸き上がっている。

嫌い? なっちゃんからそんな言葉が出てくるとは思わなかった。人の事を、嫌いなんて言った事は一度もなかったからだ。使っていたとしても、せいぜい《苦手》という言葉だけ。


今、なっちゃんに対して、何と言えばいいのか、迷ったその時、「咲結!」と誰かに呼ばれる声がした。

この声は、・・・かえちゃんだ!私は真っ先にかえちゃんの居る方へなっちゃんの手を取り向かう。

「あれ、二人って待ち合わせしてたの?」なっちゃんは素朴に質問した。

「うん。そうだよ!」そうだったのね、なっちゃんがそう言う。良かった、なっちゃんいつも通りに戻ってる。私は心の中で安堵した。

「あ、ごめん、かえちゃん、なっちゃん。私、お手洗い行ってくるね!」

咲結は、楓にカバンを預けて、そのまま奥にあるトイレへと行った。


楓と、奈津美は二人きりになる。すると、楓の独り言が聞こえてきた。

「トイレは済ませておかないとな。行先でお腹壊しても困るし」

そんな声が聞こえてくる。奈津美はその発言が訊きづてならず、口を開いた。

「ねぇ、楓くん。もしかしなくても、咲結をちゃんとトイレに行かせるために、トイレ付近で待ち合わせしたの?」本当の内心では、幼児を面倒みてるのか!と思っていたが、奈津美はそれを口に出さずに、もう一つの疑問を打ち明けた。

 すると、楓は独り言が聞かれていたのか、とビックリしながら「ああ」と答えた。

そんな楓を、奈津美は眉がよった顔で見つめた。


「ねぇ、楓くんてさ、過保護だよね。行き過ぎた。」

「過保護って・・・。だって、そりゃ、あいつは一人じゃなんにも出来ねぇし・・・」

ブツブツと言い始めた楓の態度が気に入らないのか。奈津美は怒った口調になる。

「それ、咲結をダメにするのよ?一人じゃなにもできないなんて、この年でよ?この年で!」

そして、奈津美は溜息を吐いて不満をそのままぶちまけた。

「咲結が幼馴染で、お節介焼いちゃうのは分かるけど、それで、どんどんダメになっていく咲結を私はみたくないの。クラスが変わるこれを機に親離れでもしてみたらいいんじゃない?勿論、これは咲結が好きで言っているのよ?」

親離れ、他にも気に食わない事を急に言われ、楓はムキになって言い返す。

「だ、だって、アイツ可愛いじゃねぇか・・・!」「は?」ほんのりと楓の頬が赤くなっていく。

奈津美は急に何を言い出すのかと思えば予想外だったらしく、驚愕の声をあげた。

「めっちゃ、昔から変わらないし甘えてくるんだぜ? そんなんされたら、可愛いくて誰だって面倒みるわ!」真っ赤な顔で滅茶苦茶な返しをされた奈津美は、もう口を緩めて、呆れていた。


「あのね。可愛いのはわかる。あの子は可愛い。けどね、自立しないと人は生きていけないのよ。それにあの子は精神年齢が認めたくないほどに、低い。今の年ほど成長できていない。純粋すぎるのよ」楓はむっと、口を紡いだ。奈津美の言っている事は正論であるからだ。

「純粋なのは良い事だけど、ある程度の事を知っておかないと苦労するのは咲結よ?もし、咲結が誰かに純粋なのを知られて利用されたらどうするの?」

楓は完全に何も言えなくなり、ただ、真剣に奈津美の話を聞き黙った。

「まぁ、あの子は貴方のお陰で、鈍感な所があるから大丈夫だと思うけど。・・・・咲結の事が好きなら告白しなさい。以外とあの子、押しに弱いから取られちゃうわよ?」

 黙っていた楓は、急に出てきた《好き》という言葉に耳が反応する。そして、ハッと気づくと紡いでいた口が切れ、カァァァアァっとみるみる顔が赤くなっていった。


「おぉ、お前!何で知って・・・!」

「そんなの、前から知ってるし、バレバレな話よ?」

「なんだよぉ!それ!」そう言うと、バレていた事がそんなにも恥ずかしかったのか、ズルズルと楓は足を折ってしゃがみ込んだ。


 そして、下から奈津美をキッと睨む。そして、「絶対にいうなよ!」と必死な声で言った。

必死なのは声だけではなく、表情も涙目だったので、「わかった、言わない!応援してるからさ!」と奈津美はすぐさま言った。

 奈津美自身、本当に付き合ってしまえばいいのに、とも思っていたが、今の彼に伝えたらおかしくなってしまうと思い、この事は胸の内に秘めることにした。



次から咲結編に入ります。

(勿論ですが、梨花編はまだ続きます!)

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