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咲結編④ 【委員決め】

咲結編④

 私は、今まで通りにできていると思う。きっと、この先も変わらない。そう信じている。

そのつもりでいるし、これからもきっとそう。だけど、変わらず当たり前にしてきたことが、今は何故かできていない。昨日だって、かえちゃんといるのが気まずく感じてしまった。

不思議と、それらがどうしてなのかもわからない。いや、それよりも、どうすればいいのかわからない。

 ありのままに自分をさらけ出し、気持ちを言えないというのはこんなにも辛かったのかと実感する。

私が相談したい事はかえちゃんにも、なっちゃんにも出せていない。もう、三日ほど経ったというのに。


☆☆☆


2年A組。今の私のクラスで、色々な噂が知れ渡っているらしい。その根本は坂本先生の放送で起こった出来事。そう、千賀という人が授業日の初日から居なくなった時のだ。その出来事のせいで、まわりから変なレッテルが貼られているらしい。

なので、勿論の事、周りには注目された。

恥ずかしかったけれど、クラスの皆はクスクスと嬉しそうに笑っていた。逆に、誇っているらしい。私も、クスリと笑ってしまう。

この情報はかえちゃんにも、伝わっていて、『平気か?』と私の事を心配してくれていた。

いつも通りの優しいかえちゃんで、安心もしたし嬉しかったけど、何故か自分の態度がギクシャクしてしまったことは後悔している。



「委員を決めるぞ!」

先生の声が響く。その声で目が覚めたように、前を向く。


 そういえば、一年の時、なっちゃんが学級委員に入っていたな。

 相変わらずなっちゃんは、様子が悪い。時折、特に最近。なっちゃんの目がギラリと怖くなる時があるのだ。そして、その目線にいつもいるのは、坂本先生。いったい、坂本先生となにかあったのだろうか。ぼんやりと、また考えはじめる。その時、


 また見てる?


不意に、後ろからの視線を感じ、ぱっと現実に戻った。そうだった、と。

もう、ずっと睨まれているような気さえした。

後ろの席にいる彼、千賀という人は私の事を良く思っていないのだろうか。

不安なのだが、この事に関しては誰にも相談できていない。最近、本当に悩みの種が多い。

なっちゃんは、気にかけてくれていたけれど、無意識に大丈夫だと私は自分の気持ちを隠してしまった。こんな事なかったのに。


 「では、立候補したい者は立て」

指に付いたチョークの粉を、両手でパラパラと払いながら先生は声をまた響かせた。

先生の声にまた、ハッとすると、黒板には大きく、『風紀委員』『学級委員』『美化委員』など、もうすべての委員会名が書いてあった。

 この学校は、対して委員に力を入れているというわけでもなく、入りたい人は入って良いという風に気軽に立候補できる。まぁ、生徒会などは投票制だが。


 委員会、私はいいかな・・・。別に。入る気もないし・・・。もし委員に入ったとしても、きっと私は、いい働きが出来ないと思う。

 なので私は何もせずただ、静かに席に座っていた。


ぎぃと音をたてながら、椅子を引き席を立つと、ワラワラと黒板前に集まり生徒たちは順々に名前を書いていく。

 全ての人が書き終わり、静かになると、先生が教団に立った。


「おー、あんまりいないなぁ」

そう、軽く言うと、次は大きく声を張り上げた。

「素直に委員に入りたい奴や興味がある奴は自由に入っていいぞー?意外に委員会も楽しいぞー!」

 すると、周りの皆はクスクスと笑いだして、「じゃあ、入ってみたい!」と自ら立候補するものが何人かいた。凄いと思った、あの先生は魔法や催眠術でもかけたのだろうか。


「よし。じゃあこれで決まりだな!」先生はチョークを置くと、こちらに振り返った。

すると「こんな簡単に決めてしまっていいんですかー?」と、軽く生徒が声をあげる。

だが、先生のテンションは下がらず、オープンに「ああ!ま、委員は最低二人でいいし、やりたい奴がやればいいさ!」とおおらかに笑った。


 「じゃあ、余った委員の枠はどうするんですか?」

まるで、釘をさすような、不満げな声が聞こえた。

その声の主は・・・。まさかの、なっちゃんだった。


私は途端にビックリする。なっちゃんが、こうして席を立って、自ら主張することは滅多にないからだ。特に、皆が見ている前で。なんだかこちらが緊張してしまう。

 席を立って意見しているなっちゃんの目は、どこか厳しく冷たい。

私は目をぱちくりとさせながら、坂本先生となっちゃんを見つめ、目を泳がせる。

 その時、一瞬だけ。みえた気がした。坂本先生がニヤリと笑う所を。


「江藤か。確かに空いている枠があるな。・・・・・じゃあこうしよう。一年の時、委員会に入っていなかった奴ら、立て」

先生は、言葉を止めて長く溜めた後、衝撃的な事を言った。私は体がビクリとなる。


「あ、もう、今、名前を記入した奴らはいいぞ。座っていろ。」

誰かが着席する中で私はアタフタとしてしまう。そして、戸惑いながらも恐る恐る席を立った。

 席を立ちあがったのは私合わせ、11人程だった。

「じゃあ、お前ら、どっか入りたい委員会はあるか?1年の時に出来なかった経験をするもの大切だぞ?」

え?これって入らなければいけないの?戸惑い、そして狼狽えていると、ただ無言になる。


「ちょっと、待ってくださいよ!委員の決め方が雑だし、ほぼ押し付けているようなものじゃないですか!やりたくない人だっています!」

その時、またなっちゃんの声が聞こえた。

「またお前か・・・」先生はなんだか、少し面倒くさそうな顔をする。なっちゃんは、とても強気だ。私は心の中でエールを送った。委員会なんて、そんなの入りたくはない。


「でも、いいじゃないか。もしかしたら、委員会が楽しいかもしれないだろう?それに、今年やれば来年はやらなくて済むかもしれない」

「そ、そういう問題ですか?」

完全に二人の目はバチバチと静かに火花を散らしていた。さすがに周りの皆も、気まずそうな顔をしている。あんな、なっちゃん初めて見た気がする・・・。


「まぁいい。今大体枠が残っているのは、図書委員と学級委員と、後なんだ?」

「だから!」痺れを切らして、なっちゃんは、また先生に反発した。

すると、先生は急に静かになった。その空気の変わりようは、周りの皆も感じていると思う。


「江藤、お前、一年の時に委員会に入っていたよな」

「は、はい」

「なら、座れ」

先生の声は、氷のように冷たかった。とてつもない威圧感。きっと、それはいつも明るいからだろう。

 バチバチとしていた火花が段々と無くなっていく。

なっちゃんは、どう思ったのか静かに席に着いていた。座るとただただ俯いていた。

私は心配でたまらなかった。こんな、なっちゃんは、本当に初めて見たのだ。


 静かになる教室。先生はまた、元気な声で、

「ふぅ、改めて聞くが、委員会に入りたい者は?」

案の定、誰も手を挙げるものはいなかった。勿論、教室の空気もあってだ。

「わかった。じゃあ、質問だ。本を読むのがすきな奴は?」

すると、座っていた人が手をあげて「立花君、本を読むのが好きですよ?」と言った。

一斉に立花という人に目が向けられる。私はただ、その人に向けられている目線を辿る。

 

立花という人は、男子だった。ハーフなのだろうか。目が少し青白く、髪の毛も薄白い。

「立花、お前、本好きなのか?」

「は、はい」先生の問いかけに彼はぎこちなく答えた。とてもきれいな声だった。まるで、女の子みたいな青く澄んだ声。


「そうか。じゃあ、図書委員に入ってみないか?」

私はそうくるよね、と思った。ほぼ、押し付けじゃないか・・・。


 教室がシーンとなる。立花という人は中々喋らなかった。

 おどおど、していてなかなか決断が出来ない様子だ。嫌そうに感じているのは十分に理解できる。きっと、断る勇気が出ないのだろう。


ただただ、時間が過ぎていき、何も進まない。


 そんな状態に、声が聞こえてきた。後ろからだ。

「お前が入れよ」と。



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