梨花編④ 【話し合い】
※これは、「梨花編」の続きです。
梨花編④
月日は過ぎ、学校が始まって三日ほど経った。が、特に荒波をたてるような事は無かった。
そして、私は今、走っている。学校に遅れそうだからだ。時計を確認しながら、駅へと入り、電車の来る時刻も確認する。丁度、電車が来ている時刻だったので、小走りで階段を下り、ドアが閉まる寸前に入った。
息を切らし、額から零れる汗をハンカチで拭う。
すると、「梨花ちゃん?」そんな声が聞こえる。
こ、この声は・・・。パッと横をみると、三浦が立っていた。そういえば、同じ電車で通学してたんだっけ・・・。
滅多に会わないくせに、何故こういう時に会うのだろうか。コイツとは廊下の事件があってから距離を置いていた。あまり、接触すると痛い目に合うのは私だからだ。
「何よ・・・」私はそっぽを向き冷たく、言う。
「・・・ねぇ、なんで無視してたの?」
は?私はそんな顔をした。最初の言葉がまさか、そんな言葉だとは思わなかったからだ。
「無視されたら、話もできないじゃん」ふてくされた様に言われたので、私も反論してみる。
「だって、あんたの女たちが攻撃してくるじゃない」言い訳じみた反論なので、私は少し弱気になる。
「ああ。なるほどね」そう言うと三浦は、さっきまで真面目に近い顔をしていたのに、パッといつ通りヘラヘラしている顔に戻った。
気遣いもしないのかよ!私は電車内なので、心の中で叫ぶ。
車内が揺れるので手すりに摑まると、三浦も同じく手すりに摑まった。今、三浦の囲いたちがいないからいいものの、もし見つかったらどうすればいいのか。隣という至近距離に彼がいるので、私はビクビクしながら周りを警戒した。
「じゃあさ、俺、軽音部入るね」日常に溶け込んだような言葉だったので、うんと返事をしてしまった。だが、段々疑問が生まれてきて、私の頭は一度思考停止をする。
そして、すぐさま三浦の足を蹴った。考えるよりも先に体が動くとはこういう時だと思う。
「ちょ、痛い、なに」ははっと、笑う。笑い事じゃねぇだろうが!私は無表情になっている顔とは裏腹に心の中で強烈なツッコミを入れた。
「あんた、もうちょっと言葉に責任を持ちなさいよ・・・」
もう、怒るというより、呆れの方が先にきていた。
「ははっ、まぁそういう性格なので。それに俺、無視されず、梨花ちゃんと喋りたいから」
喋りたいって・・・。もう、本当にコイツは上手いんだから。
ううん、私は咳払いをして口を開くのを再開させた。
「まぁ、今の所部員は一人しか集められていないし」
「え?梨花ちゃん一人集めたの?」
「集めたわよ。な、なによ、その不思議そうな目は」
驚いた顔で見つめる三浦に、私は腹立たしい気持ちになる。さすがに失礼でしょ?
「いや、最初は僕だと思ってたからさ」バカにしやがって・・・。心の中で思う。ニコニコと笑う三浦とは対照に、私は重苦しい表情であった。
「入部って言っても、あんた達の周りにいる女はどうすんのよ。もし、あんたついでに入部なんてしてきたら、こっちはたまったもんじゃないからね?」話を切り替え、私は思った事を三浦へストレートに投げる。
「大丈夫だと思うよ?俺が入りたいわけだし」すると、彼の表情から笑顔をが少しなくなって、「どうにかするよ」そう続けた。彼の目は少しだけ遠くを見つめた。きっと、彼の意思を尊重しないような厄介な子もいるのだろうな。
「そう。まぁ、あんたも大変ね」同情することはできないが、これは人気者の宿命だと私は思う。
そこで丁度、電車内にアナウンスが流れてきた。もうそろそろ目的地に着くようだ。
この状況で話を進めるのはよくないと思い、私は一旦ここで会話を区切った。
そして、中休みに三浦と軽音部の部室で話を再開させることを約束して、電車から降りる。二人はそのまま離れ、個人の事情があるので個別で登校をした。
☆☆☆
中休み。私たちは約束通り部室で話し合いをすることになった。
案の定、部室から声が聞こえる。
ガラららっ
すると、部室のドアが急に開い「先輩!来ましたよ!」と声が聞こえる。
「は、原ちゃん!?」私は、現れた原ちゃんに対し少し動揺してしまう。自分の性格が裏全開だったからだ。
原ちゃんは、やっと軽音部に入部して、よく中休みと昼休みに来てくれる。
私は無論、毎日来ている。理由は、深く聞かないでほしい。
「ええと、先輩この方は・・・」さっと駆け寄り、三浦に目線を向ける。早速、彼が気になっているようだ。私はしぶしぶ三浦の事を説明しようとすると、「三浦廉だよ。梨花ちゃんと同じクラスの。君が新入部員の子かな?可愛いね」と、自分で自己紹介をして、ニコリと笑った。
「あ・・・、はい。」原ちゃんは急に距離を縮めてこられ、一歩引いて私の後ろに隠れた。少し怖がっているようだ。
三浦は女好き?という事もあるし、純粋な原ちゃんにはあまり会わせたくない相手であったけど、こうなってしまった以上仕方ない。
すると、原ちゃんが私に聞こえるぐらいの音量で喋った。
「先輩、この方ってチャライ女好きの人ですよね?先輩が前に話してくれた。」
そんなこと話したっけ?そんなことを思いながら、「え、ええ」と返事をした。
すると、急に原ちゃんの目がキッと変わり、三浦を睨みつけた。
急激な変わりように私は、「え?」と不安な声を出してしまう。
「あの、先輩のことナンパでもしてたんですか?」
「ナンパ?」三浦は首を傾げた。私も首を傾げたが、その前に原ちゃんが何か勘違いをしていることに感づいた。
「は、原ちゃん?」
「ダメです!先輩、離れてください!」後ろに隠れていた原ちゃんが、私を庇うように前へ出る。
「ちょ、ちょっと、原ちゃん!違うってば!」
そう言うと、「え?」といって後ろを振り返り私を見た。
「この人とは今、話をしていたの。ナンパとかじゃないから、安心して」
冷静に落ち着いて言うと原ちゃんは、ハッとして一歩下がり、三浦に頭を下げる。
「す、すみません」音色を上げて、早々と誤った。
「大丈夫だよ」三浦は優しく笑う。
原ちゃんは私が、ナンパされていると誤解していたらしい。
すると、キーンコーンカーンコーンと鐘がなった。もう、中休みが終わる合図・・・。
「じゃ、じゃあ、昼休み話し合いする?」
私がそういうと、「そうだね」と三浦が言った。
☆☆☆
「新入部員って、女の子だったんだね」三浦はなにやらご機嫌に笑った。
私は「そうよ」と答える。
ニコニコと笑う三浦を見て、この女好きが、原ちゃんを守らないと・・・!と、私は心の中で決心した。
「男じゃなくてよかった・・・」「な、なに?」三浦の発したボソッとした声は、急で聞き取れなく、私は聞き返した。けれど、平然とニコッと笑い「なんでもないよ」と軽く返されてしまう。
昼休みになり、私たちは部室に帰ってきた。
机を寄せ集め、椅子に座り、これからの事についてを話し合う。
三浦は完全に入部する気でいるので、私はもう止める事をほぼ諦めていた。
けれど、原ちゃんは三浦の事を警戒しているらしく、私の後ろに隠れ、三浦に睨みを利かせていた。そんな原ちゃんに私も便乗して三浦を睨む。
「ちょっと、怯えてるじゃない」
「えー・・・」三浦は、苦笑いをする。。
「お、怯えてませんよ!違います!」
原ちゃんは全力で否定しているが、やっぱり私の後ろに隠れ、三浦との距離を遠くした。
そんな二人をみながらも、私は気を取り直して、話を始めた。
「それじゃあ、最初にザっと今の現状を説明するわね」
席を立って部室専用の、ホワイトボードに今の問題を書き出す。私はこの部活の部長なので、仕切るのも当然私だ。
ホワイトボードに私は問題を書いていく。一つ目は、部員の問題。
「梨花ちゃん、廃部にならない部員の目安っていくつなの?」すると、早速何か気になったのか三浦の声が聞こえてきた。
「あ、それ、私も気になります!」原ちゃんもそれに同意して、手を挙げる。
「まぁ、軽音部の楽器を担当できる人が入ってきたらいいから、最低限だけど、ギター、ベース、ボーカル、ドラム、キーボード。大体、一般的な楽器である五つが揃えばいいわね」
「じゃあ、最低五人揃えばいいのですね」原ちゃんが顎に手をあて呟いた。
「そうね。それと、三浦?あんたはどの楽器を担当するのよ」
さっき、中休みにもこの事を三浦と相談していたが、決まっておらず、私はもう一度この事を問う。
「うーん。まだ、わからないかなぁ」
「入部するんだったら早く決めてもらわないと困るんだけど」
「そうですよ!」すると、原ちゃんが意外にも強気に、追いかけるように言ってきた。
相変わらず三浦は、苦笑いで「え~」と笑い「でもさ、バンドが出来る体制になってから決めた方がいいと思うんだよね。どんな状況になるのかも分らないし。まだ僕、楽器に手を付けてないわけだからさ?」こう続ける。
なんだか三浦が真面目そうな意見を述べたので、私は納得した。器用であるから、なんでもできるから、が故にその意見なのだと思う。
「でも、待ってくださいよ!」すると、原ちゃんが三浦に反論をした。なんか、あの従順な原ちゃんがいつになく強気・・・。
「もしかしたら、このメンバーでバンドすることになるかもしれないじゃないですか!」
「このメンバーで、バンドを組む事はないと思うよ?だって、この状況でいたら廃部になっちゃうでしょ?」三浦がニコニコ笑いながらズバッと言い切った。コイツやっぱり、腹黒だ・・・。けど、言っていることは筋が通っている。
原ちゃんはというと、「た、確かに・・・」と、言って図星をつかれたかのように押し黙り、少し顔を赤くした。
多分、原ちゃんはきっと、三浦が器用な事を知らないから、その発言は悪いニュアンスで聞こえちゃったのかも知れない。
「ちょっと、三浦!後輩よ!」なんだか、原ちゃんが可哀想に見えた私は、三浦に当たった。
「え?普通に優しく言ったと思うんだけど・・・。まぁ、ごめんね?原ちゃん」
「は、原ちゃん?」私が訊くと、「だって、梨花ちゃんが呼んでた呼び名ぐらいしか情報ないもん」と笑った。
「その呼び方、やめてくださいますか・・・?」
キンキンに冷え切った冷たい声が聞こえたので誰だと思ったら、やはり原ちゃんだった。
こんな原ちゃん初めてだ・・・。私は怖くなって、ひぃ!と心の中で言う。
原ちゃんは熊でも狩るのか、という目で三浦をみていた。
「ま、まぁ、課題は部員集めという事で、廃部にさせないことを前提に考えましょう!」
この場が、戦場になる前に、私は話を無理矢理まとめ、別方向に風を持って行く。
すると、直ぐにその風に三浦が乗ってきた。
「あ、でも!僕、この部活に入っても平気な子、結構知ってるよ」